Menu Links
  • Photography: Evan Lin

山と道の夏目彰さんと台湾ハイク&バイクの旅

, 2019/05/01

夫婦ふたりで始めたプライベートブランドから、日本のウルトラライト・ハイキングシーンをリードする存在へと急成長を遂げた「山と道」。いまやその名は香港や韓国など東アジアにまで広がっているが、なかでも台湾との関わりは深く、2018年には台北のセレクトショップ「COW RECORDS」と共同経営するアウトドアショップ「samplus」を台北に開いたほど。そんな「山と道」とその代表を務める夏目彰さんと台湾の関係は、2013年、創業間もない「山と道」に来た海外からの初のオファーが台湾だったことに始まった。

「台北の『A.C.S.』というお店が「山と道」の製品を取り扱いたいと言ってくれて、僕らの地元の鎌倉にまで何度も来てくれたんです。数年後にやっと僕らも台湾に行けて、彼らと一緒に南湖大山という山に登ったんですけど、山はもちろん、台湾で出会った人の優しさや親切さに強く感銘を受けました」

台湾を旅する人が誰しも感じる、人々の優しさとホスピタリティ。バスの隣の席の人がお裾分けをくれたり、見知らぬ人が駅で切符の買い方を教えてくれたり、夏目さんもその旅で多くの優しさに触れたという。
「帰ってきて、こんなにすばらしい体験ができる台湾をもっと日本とつないでいきたいなと思うようになりました。それがひとつのかたちになったのが「samplus」なんです。さらに「山と道」のウェブサイトでは台湾のハイキングガイドをつくったり、外国人には難しいパーミッションの取得代行サービスを始めたりしました。それは「山と道」には一銭も入ってこない事業なんですけど、恩返しみたいな気分でやっています」

南湖大山への旅からこれまでに幾度となく台湾を訪れてきた夏目さんにとって、今回の旅はどのようなものだったのだろう。
「前半のハイクでは台北の街から陽明山という山を越えて海まで歩きましたけど、やっぱり最初から最後まですべて自分の足で歩くって、ほんと気持ちよかった。あと、今回は普段の旅以上にたくさんの人と出会う旅でしたね。なかでも初日に会ったジーさんは印象的でした。森のなかの素敵な家に住んでいて、なかに入ると陶芸の窯や見たこともない楽器がたくさんあって、そこで浮世離れした暮らしをしているのかと思ったらじつは元小学校の先生で、村で会う人がみんなジーさんの元教え子で(笑)。そのジーさんの紹介で小学校の図書室に泊めてもらったのも忘れ難い体験になりました。彼女は本当にあの村のローカルヒーロー。翌日はジーさんの家の裏山からまた歩き始めたけど、ジーさんは毎週仲間と集まってそこをハイキングしていると聞いて、ローカルの山も文化もすごく楽しんでいる、その姿がいいなって思いました」

ハイキング中の天気は終始優れず、雲のなかを歩くような旅だったが、雨に濡れたジャングルや霧のなかの金包里の幻想的な眺め、日本統治時代につくられた石畳の古い道や山に還ろうとしている棚田跡を巡る3日間は、台湾の歴史と風土に触れる旅でもあった。
「かつて魚を運ぶ交易路として使われていた道が日本軍の物資を運ぶ道になり、いまはハイキングで使われている。それでそんな道を歩いて海が見えたときは感動しましたよね。台北から歩いて海まで来たんだってことが、すごく嬉しかった」

台北からハイキングのゴールの金山区海興路までは、クルマなら1時間で行ける距離だ。だがそこをあえて3日間かけ、さまざまな人と交流しながら歩く旅は、その距離以上に濃密で、とてもぜいたくな時間だった。

そして4日目。旅はがらりとギアチェンジをし、一行はバスと特急列車を乗り継いで台湾東部の花蓮に向かい、台湾南東の台東を目指すバイクの旅が始まった。
「ハイクもすごくシンプルでパワフルだけど、一歩ずつ歩いていく感じがハイクなら、バイクはその一歩がびゅーんと伸びるというか、自分の体が拡張される感覚がおもしろかった。ハイクからバイクになったことでよりそれが感じられたのかも」

バイクの旅が始まるとそれまでよりスピードがぐんと上がり、何よりも太陽がやっと現れ、気候はいきなり真夏になった。
「花蓮の田舎はすごく美しい場所でしたね。国道は排気ガスもちょっと臭かったりするけど、ひとつ道を入るだけで景色がガラッと変わって、静かで。自転車の初日の夜に光復という街に着いて、『変わったな』と思いました。空気から人から雰囲気から、もう台北とは違う文化圏に来たなって」

光復から国道を離れ、台湾原住民の人たちが多く住む村落を行くと、ポリネシアを感じるような浅黒く彫りの深い顔が増え、ジャングルと水田の向こうに立つ高山のコントラストは、まさに台湾の原風景を思わせた。そして峠を越えて海岸線に出ると、景色はまた変わっていく。
「峠を登りながらふと振り返ると、ついさっきまでいた街が小さく見えて、さらに漕いでいくと、いつのまにか峠の上にいて。自転車の機動力の高さには驚きましたね。峠の下りもすごく気持ちがよかった。それまで田んぼと檳榔林だったのが、遠くに海が見えて、景色も植生もガラッと変わった」

そして台湾を旅する自転車旅行者が絶対に体験するのが、「加油(=がんばれ)!」の声援だ。トラクターに乗ったおじいさん、道端でバナナを売るおばあさんや子どもたち、道ゆく誰もが、「加油!」「加油!」と声をかけてくれる。台湾では全島をぐるりと一周する自転車旅行が「環島」と呼ばれ、ひとつの文化となっているためか、自転車で旅をする者には惜しみない声援が送られるのだ。
「台湾の自転車旅って特別だなって思うのは、やっぱり何よりも「加油!」。道ゆく人みんなが僕らを応援してくれるんだから、こんなに嬉しいことはない(笑)。それを味わいにいくだけでも価値があると思う。やっぱり台湾に来ていつも感じるのは、人の優しさ。もちろん自然も文化もすばらしいし、ご飯も美味しいけど、それ以上に人の優しさや親切に触れられて、『人っていいな、人生ってすばらしい』って感じられるのが台湾なんです。よく、台湾は親日家が多いから日本人に優しいっていわれるけど、親日以前に誰にでも優しいんじゃないかな。台湾では「優しい」ってことのパワーを感じます。優しいということはスマートで、かつ、みんながハッピーになれる、人が賢く生きていくためのあり方で、それを体現しているのが台湾だって感じています。日本人は台湾で学ぶことがすごく多いんじゃないかな。でもハイキング3日間、バイク3日間、合わせて1週間でこんな旅が完遂できちゃったのがすごいよね。めくるめく旅だったな」

夏目彰 |Akira Natsume
1973年生まれ。30代半ばまでアートや出版の世界で活動する傍ら、00年代から山やウルトラライト・ハイキングの世界に深く傾倒。2011年にアウトドアメーカー「山と道」を夫婦ふたりで始め、精力的な製品開発、鎌倉や京都や台北への出店、イベントやツアー、ウェブサイトを通じての情報発信など、新しいメーカーのあり方を模索しつつ活動中。www.yamatomichi.com
 
» PAPERSKY #59 TAIWAN|Hike & Bike Issue

Tags: ,









独特の視点をもつ自転車デザイナー|Outdoor People in Taiwan 2

10年ほど前、世界的に人気のあったピストバイクに惹かれたのが、ビリー・ツァイと自転車との出会いだった… »STORY

植物に命を燃やす、プランツハンター|Outdoor People in Taiwan 1

台湾の南方、屏東にある原種の植物保護を行う「辜嚴倬雲植物保護センター」のスタッフとして働く洪信介。彼… »STORY

Kit for Hike & Bike Travelers ハイキングと自転車旅の道具

ハイクとバイクを横断する旅には、道具選びにも機能性と軽量性、そして柔軟性が求められる。台北で「COW… »STORY

Day6 | 海岸線をひた走り、ついに台東に到達する

いよいよ最終日。旅も6日目となると、このパーティもすっかり「チーム」となっていた。大人っぽかったり子… »STORY

Day5 | ペダルを漕いで、漕いで、漕ぎまくる

光復からは、昨日走ってきた国道9号線ではなく、よりローカルな県道193号線を選んだ。ここは台湾原住民… »STORY

Zoo Travel Cards | PAPERSKY STORE

RAYNG STUDIOが手がける、台湾版・十二支カードゲーム。台湾では「十二生肖牌(老鼠牌)」とも… »STORY

Taiwan KOM Challenge 世界で最も過酷な自転車レース

「世界で最も過酷」と呼ばれる自転車レースが台湾にある。どのくらい過酷かというと、標高0mのスタート… »STORY

Day4 | 自転車に乗り換え、熱帯へと向かう

トンネルを抜けると陽が射した。それはこの旅で台湾に来てから初めて見る太陽で、まさにいま旅のフェイズが… »STORY

台湾は「玄関を開けたら登山口」

3,000m級の山々が連なる台湾は、日本以上の山の国だ。そんな台湾のハイカーで、アメリカのパシフィッ… »STORY

Day3 | 古い交易路をたどって、ついに海に到着する

ハイク最終日は陽明山から海まで25kmを一気に歩きとおす計画で、この日はエヴァンの友人で、ゴールの金… »STORY

PAPERSKY HIKE & BIKE Taiwan @ Not Just Library

PAPERSKY 台湾特集の発行を記念し、PAPERSKYがキュレーションする「Hike & Bik… »STORY

Taiwan HIKE & BIKE movie by Evan Lin

PAPERSKY 台湾特集のフォトグラファー・Evan Linが撮影した、Taiwan HIKE &… »STORY

Day2 | 小学校で大歓待を受け、雲の中でキャンプする

朝いちばんで学校の体育館に招かれ、台湾伝統の人形劇を観劇させていただくことになった。なんでもこの平等… »STORY

同じようでどこか違う、漢字の国

ドイツの蒸留所にいたころは車に乗って、いろいろなところを訪れた。アウトバーンを1時間も走ればスイスや… »STORY

PAPERSKY INTERVIEW 尾崎“Jackie”光輝/アウトドアギアクラフトマン

新進気鋭のガレージメーカー「JMW:Jindaiji Mountain Works」を主宰する尾崎“… »STORY

Day1 | 台北から雨の森を歩き、山の小学校に泊まる

旅は故宮博物院のある、台北北部の士林駅から始まった。普通はここから陽明山までバスに乗るのだが、今回の… »STORY

知られざる山国|PAPERSKY mountain club

数年前、台湾へクライミングトリップに出かけた。最も有名な岩場は台北の北東に位置するシークリフ・龍洞(… »STORY

Teva®と巡る古くて新しい台北

次々と新しいビルやショップが建ち、街中が建設中な一方、路地には夜市の屋台が立ち並び、バンヤンツリーの… »STORY

UNITED ARROWS green label relaxing GREEN TRAVEL vol.16 Taiwan

UNITED ARROWS green label relaxing × PAPERSKY「GREE… »STORY

都市を離れ「森の生活」を送る写真家のレンズに写った台湾の山々

「台湾」と聞いて即座に山のイメージを浮かべる人は、そう多くはないだろう。だが、最高峰3,952mの玉… »STORY

編集長ルーカスが選んだ台湾みやげ

編集長ルーカスが台湾でみつけた旅のおみやげが、PAPERSKY STOREに並んでいます。天然の桂竹… »STORY

加油! 加油!(がんばれ)!|Editor’s Note #59

加油! 加油! これは台湾語で「がんばれ!」という意味。今回、僕らは壮大な自然の風景と、「加油!」と… »STORY

PAPERSKY #59 TAIWAN|Hike & Bike Issue 台湾特集 発売

4月30日発売の「PAPERSKY」最新号(#59)は、台湾特集。かつてポルトガル語で「フォルモサ=… »STORY

PAPERSKY Soundtrack For Travelers
 旅する音楽 台湾編

次号PAPERSKYの特集は、台湾。4/30の発売に先駆けて、「PAPERSKY Soundtrac… »STORY

PAPERSKY no.59「台湾 Hike & Bike」発刊記念トークショー @ samplus

4月30日発売のPAPERSKY 59号は、「台湾 Hike & Bike」特集。最新号発刊を記念し… »STORY

PAPERSKY STORE @ Culture & Art Book Fair in Taipei

12月2日、3日の2日間、台北の松山文創園區2号倉庫にて開催される、アートブックイベント「第三回 C… »STORY

place
台湾

© 2008-2019 Knee High Media. All Rights Reserved.