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ほんものの江戸を味わう|PAPERSKY Japan club

江戸の味といって思い浮かべるものは何だろう。寿司、鰻、天ぷら、そば、まあ大方そんなところだろうか。そこまで主役級の料理ではないけれど、江戸の味といえば忘れては欲しくないものがある。新米が美味しいこの季節、白いごはんのお供 […]

12/31/2018

江戸の味といって思い浮かべるものは何だろう。寿司、鰻、天ぷら、そば、まあ大方そんなところだろうか。そこまで主役級の料理ではないけれど、江戸の味といえば忘れては欲しくないものがある。新米が美味しいこの季節、白いごはんのお供にもぴったりのもの、佃煮である。そんな佃煮の名店が浅草橋にあると食通の知人に聞いて出かけてみた。
浅草橋駅から江戸通りを蔵前方面に少し歩くと、すぐにその店は目についた。風格ある看板、木を多用した端正で無駄のないシンプルな内装にはいわずとも名店の香りが漂う。佃煮の老舗「鮒佐」本店である。創業は文久2(1862)年。店頭のショーケースにずらりと並ぶのは1号から9号までサイズがある曲物と折詰のサンプル。毛筆で書かれた「鮒佐」の文字が大きく印刷された包紙がなんとも粋で洒落ている。店も品物もこれぞ江戸前といった風情である。
佃煮とはもともと佃島漁民が小魚などの雑魚をまとめて塩で煮ただけのものだった。その塩煮をまず種類ごとの素材に分け、当時まだ高級であった醤油で煮るという独自の手法で洗練させ、現在の「佃煮」の原型をつくったのが鮒佐を創業した初代大野佐吉である。
現当主、五代目大野佐吉さんに店の裏にある仕事場を案内してもらい、驚いたのがそのたたずまい。清潔な作業場には昔ながらのへっつい(かまど)が鎮座する。なんと今でも薪で炊いているのだ。火の使い方がとにかく重要だという佃煮づくりにとって、強すぎず弱すぎず、火が均等にまわる薪の火力が欠かせないという。使う道具も羽釜に竹ざる、桶と、まるで江戸時代の作業場かと見紛うほど。「ここにある文明の利器といったら電気とダクトぐらい」だという。主人自らが釜の前に立ち、一子相伝の味を守り続けているこだわりは、あえて支店売店をもたず、店の裏で製造したものを店舗のみで売るというスタイルにも現れている。この頑なさたるや。 
通年でつくっているのは昆布、ごぼう、あさり、海老、しらす、穴子の6種類。佃煮というと甘口な味つけをしたものが一般的であるのに対し、鮒佐の佃煮はあくまで辛口。うまみとコクのあるその辛さはごはんにじつによく合う。酒の肴としてはもちろん、炊き込みごはんの具としてもおすすめだそうだ。これぞ本物の江戸の味、ぜひご賞味あれ。