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  • Photography: Yasuyuki Takagi
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Old Japanese Highway vol.7 イザベラ・バードが歩いた秋田/青森

, 2018/12/15

旅のセレクトショップ、globe walkerと行く、古道の旅。今回はイギリスの旅行家、イザベラ・バードをフィーチャーする。秋田県鷹巣から青森県黒石まで、東北の二大街道のひとつ、羽州街道でイザベラの足取りをたどってみよう。

1878年、ひとりの女性がヨーロッパ大陸を経由して、はるばるイギリスから日本へやってきた。彼女の名前はイザベラ・バード。当時では珍しい「ヴィクトリアン・レディ・トラベラー」として世界中を旅した、女流旅行家である。イザベラはおよそ4ヶ月をかけて、東京から新潟、秋田、青森を経て函館に至る北日本エリアを旅した。欧米人にとって未踏であった内陸ルート、つまり未開の地を巡るという大冒険だった。

イザベラは当初、新潟から函館まで船を使う予定だったが、「本当の日本の姿を見たい」との思いから、陸路にコースを変更した。そのルートのひとつが羽州街道だ。江戸時代、奥州街道と並び東北を代表する二大街道と呼ばれた羽州街道は、桑折宿(福島県)で奥州街道から分岐し、上山や山形を経て秋田藩を縦断、さらに矢立峠を越えて弘前藩に入るという、約500kmの道のりである。今回、一行が歩くのは、そんなイザベラの足跡をたどる羽州街道の一部区間。旅のパートナーは、インドネシア出身のフォトグラファー、デビ・スチャ。イザベラは日本の辺境の暮らしや風景を『日本奥地紀行』に記したが、デビはこの旅での心情を写真に収めたいという。

降り立ったのは、JR鷹ノ巣駅だ。ここから羽州街道に至るのだが、このあたりは歴史の道として地元の有志らが整備を行っているといい、大堤の一里塚跡など旧街道の往時のたたずまいがそのまま残されている。大堤から長坂一里塚跡を越えると、「早口川の渡り跡」が現れた。舟場もなく、大雨の際には街道随一の難所として悪名を馳せた渡りである。イザベラは、梅雨時期で水量の増した早口川を前にしてここまで使っていた馬を降り、泳ぐようにして川を渡らなければならなかった。どうやら秋田藩に入ったとたん、たびたびの大雨に悩まされたらしく、土砂降りと泥道についての恨み節を『日本奥地紀行』に綴っている。

さて、岩瀬(田代町)で羽州街道は大館方面へ進む。大館には大館城本丸があってその周囲は典型的な城下町になっていた。城代・佐竹西家ゆかりの神社や仏閣が点在し、街道には毎日、市が立つなどたいそうなにぎわいを見せていたそうだが、またしても悪天に見舞われたイザベラには、さほど魅力的に映らなかったようだ。

大館では伝統工芸の曲げわっぱづくりを見学する。曲げわっぱの歴史は奈良時代に遡るという説もあるが、生産が盛んになったのは江戸時代になってから。大館城主佐竹西家が領内の豊富な天然資源、つまり秋田杉に目をつけ、下級武士の手内職として奨励したのが始まりだ。

大館の先に現れるのがこのエリアのハイライトのひとつ、矢立峠だ。矢立峠は白神山地の東端に位置し、周囲の森には樹齢300年を超える天然の秋田杉が点在する。古くは前田利家が、江戸時代には伊能忠敬や吉田松陰らが足跡を残したという歴史ある山道だ。往時は「通行に困難を極めた」とされる矢立峠だが、現在は歴史の道として整備されており、気持ちのいいトレイルが続く。イザベラはこの峠を8月に通過したのだがここでも大雨に降られてしまう。が、峠の付近をぶらついた際は、この森の美しさをこんなふうに表現している。「この峠は寂しく、荘重であり、鬱蒼としていて、厳かなのです。マストのようにまっすぐ伸びた杉の大木は光を求めてその長い若枝を高く伸ばします」。一方、私たち一行は雲ひとつない秋晴れのなか、秋田杉に囲まれたトレイルを満喫した。イザベラは「木々は芳しい香りを惜しみなくあたりに撒き散らす」とも著しているが、なるほど、周囲にはさわやかな杉の香りが立ち込めている。途中、カモシカがひょっこりと姿を現し、私たちの目を楽しませてくれた。

峠を越えればいよいよ青森県だ。峠を下ると峠下番所跡があった。弘前藩が参勤の通路としてこの山道を使っていたようだ。その先の碇ヶ関には「奥羽一の番所」と伊能忠敬が記した、弘前藩の大番所が置かれていた。羽州街道は温泉と大鰐温泉もやしで知られる大鰐町に入る。12世紀末に開湯したといわれる大鰐温泉は、江戸時代には津軽地方の人々の療養の場としておおいに栄えた。その温泉水と熱を利用した郷土の名物が、江戸時代に栽培が始まったという大鰐温泉もやしだ。栽培農家で代々受け継がれている在来種の大豆を使って育てられており、長さはおよそ30cm! 秋から冬にかけて旬を迎えるが、季節外れにもかかわらず大鰐温泉名物のもやし炒め定食にありつけたのだから、かなり幸運である。

さて、イザベラはこの後、弘前を通る羽州街道を使わず、大鰐鯖石から黒石に至る乳井通りを使っている。このルートを通ったのは単に距離が短くなるからだったが、イザベラは城下町の黒石をおおいに気に入った。3、4泊の滞在中、結婚式に遭遇して花嫁の盛装に見惚れ、伝統の「黒石ねぷた」では透かし絵の提灯が連なる幻想的な様子に感嘆するなど、風情ある街の営みをずいぶん楽しんだようだ。

現在の黒石にも、イザベラを魅了したかつての城下町の面影が残っている。藩政時代から続く伝統的なつくりの「こみせ」は、日差しや吹雪を遮る、いわば当時のアーケードだ。こみせが連なる商店街、「中町こみせ通り」には、古い造り酒屋や蔵、国の重要文化財に指定されている築250年の「高橋家住宅」があり、江戸時代にタイムスリップしたかのような景観を楽しんだ。

黒石ですっかり活力を取り戻したイザベラが遠出を楽しんだという中野もみじ山へ足を延ばす。19世紀初頭、弘前藩主が京都から楓の苗木百数種を取り寄せて移植したという小さな山で、樹齢200年のモミジやモミ、樹齢500年を超す大杉が混在する森に、苔むした石段やみごとな鳥居が鎮座する。イザベラはここにある何もかもに「うっとりさせられた」と記したが、清々しい森の空気はデビをも魅了したようだ。

久々の晴天と快適な宿、エキゾチックな祭と素朴な人々とのふれあいは、いよいよ北海道に渡るという彼女に、つかの間の安らぎをもたらしてくれたことだろう。黒石の先、青森まではたった三十数キロなのに、またまた雨に降られ、イザベラは泥道を延々と歩く羽目になった。陽光輝く黒石での数日は、長い道中、心を揺らす思い出となったはずだ。

イザベラの旅をなぞったPAPERSKYの旅も、今回はここまで。初めて目にする津軽地方の田園風景やノスタルジックなこみせの街並みに、「イザベラ同様、目にするものすべてに後ろ髪を引かれる思い」と、デビ。きっと再訪すると心に誓い、黒石の街を後にした。
 
※ OLD JAPANESE HIGHWAY 映像はこちら。
http://www3.jvckenwood.com/dvmain/enjoy/papersky/

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