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破壊と再生をもたらす、原初のエネルギーに包まれて

「ハワイ島で、リトリート」といわれても、具体的にどんな旅なのか想像できないという人も少なくないだろう。リトリートとは、日常生活から離れて自分の内面を見つめ直し、心と身体を、周囲を取り巻く自然と調和した状態にチューニングす […]

05/10/2018

「ハワイ島で、リトリート」といわれても、具体的にどんな旅なのか想像できないという人も少なくないだろう。リトリートとは、日常生活から離れて自分の内面を見つめ直し、心と身体を、周囲を取り巻く自然と調和した状態にチューニングすること。ダイナミックな自然が息づくハワイ島にはこうした旅を目的としたリトリート施設が点在する。ジャングルや海辺で心静かに過ごすひとときは、疲弊した心と身体に安らぎとパワーをもたらしてくれる。
遡ることおよそ500万年前、海底のマグマが地表に吹き出し、ハワイ諸島が誕生した。最初に現れたのがカウアイ島。オアフ島、モロカイ島、ラナイ島、マウイ島と続き、最後に誕生したのが40万年前にできたハワイ島だ。ビッグ・アイランドという愛称で親しまれているハワイ島は、島を取り巻く自然だって規格外。たとえば「地球上で最も巨大な山」とされるマウナ・ロアの体積は、富士山の30倍以上。あまりの重さに裾野が年々、海底に沈み込んでいる。深海底の落ち込みから山頂までの高さはなんと17,000mというから壮大だ。
加えて、ここには数十万年をかけて築き上げられたという独自の生態系が息づく。周囲の島や大陸の影響をいっさい受けない絶海の孤島という環境が、他に例を見ないユニークな固有種を生み出した。かぶれないウルシ、棘のないヒイラギ、香りのないミント、水辺で暮らすことをやめてしまったネネ(ハワイガン)……。こうした自然の営みひとつひとつに、人々はいつしか神を見出すようになった。たとえば、この島のシンボルはキラウエアに棲んでいる火の女神ペレだ。情熱的で気難しく、羨ましいほど一途に恋をする神さまの物語は、島のあちこちで耳にすることができる。
昔々、ペレはカウアイに住むハンサムな王子、ロヒアウと恋に落ちた。彼と一緒に暮らす場所を探し求めたペレは、ついにキラウエアに安住の地を見つける。カウアイ島からロヒアウを呼び寄せるため、よせばいいのに、妹のヒイアカを遣いに出した。案の定、旅の途中でヒイアカとロヒアウは愛し合うようになり、嫉妬に狂ったペレは怒りの溶岩ですべてを焼き尽くしてしまう。不毛の大地を嘆いたヒイアカは、そこに新たな生命の息吹を与えた。溶岩大地に真っ赤なオヒアの花が咲き、荒地はいつしか疎林になり、やがて熱帯雨林となった。こうしてハワイ島では破壊と再生が繰り返されてきた。つまり、すべてを飲みこむペレの怒りは、新しい生の始まりでもあるのだ。
ハワイの伝統や文化を学ぶロミロミ・プラクティショナーのジュンカさんは、この島を「ルーツのチャクラの島」と言っていた。農業が盛んなのは、火山が生み出す大地のエネルギーを実感できるから。何かが終わって新しい何かが始まるとき、そこには爆発的なエネルギーが生まれる。そのエネルギーを感じたくて、人は大地とグラウンディングする。この島にリトリート施設が多いのも、きっと同じ理由だ。
自分は何もので、この先をどう生きていくのか、自分のルーツを見つめていないとペレには受け入れてもらえない。自分の足元が浮ついていたら、きっとこの島のエネルギーにはね返される。だからここではつねに自分を問いただす。もちろん、道をまちがえることもあるけれど、心配しなくて大丈夫。この島は再生の力も強いのだ。このエネルギーには、人を原点に立ち返らせる力がある。よい方向に向かおうとすれば、きっと背中を押してくれる。
歴史をたどり、神話を追いかけてハワイ島を巡ってみれば、旅の終わりには自然に還るための道筋が見つかるかもしれない。そこに至る心と身体の軌跡、それこそが「リトリート」だと気づくはずだ。
 
» PAPERSKY no.56 HAWAII | RETREAT Issue