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  • Photography: Hideaki Hamada
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お遍路さんの気分で歩いた小豆島、150kmの旅路

, 2017/06/08

のんびり歩いて旅をして、街と親しくなってくると、空気のにおいや風の肌触り、そんな曖昧なものの移り変わりを身体で感じられるようになる。そうして心に引っかかる風景を見つけたら、迷わず足を止めて存分に寄り道を楽しむ。夕日に染まる海だったり、猫が昼寝する路地だったり、一杯のコーヒーだったり、心を捉える“それ”はいろいろだ。

PAPERSKYが初めて香川県・小豆島のお遍路道を訪ねたのは、2016年の年の瀬のことだった。総勢4人のプライベート旅、それぞれが1週間分の衣食をつめ込んだ50Lのザックを担いで歩いた。冬空は青く澄み渡っているのに、海から吹くからっ風はナイフみたいに冷たく肌を刺し、日暮れを気にしてペースを上げたい私たちの足どりを重くする。冬用のグローブをしても指先がかじかんだ。2カ月後、この島を再訪していちばん驚いたことは、降り注ぐ陽光の暖かさだった。道を歩けば沈丁花のいい香りも漂ってくる。島はすっかり、春の風情だった。

瀬戸内海には有人・無人合わせて727の島が浮かんでいる。内海では淡路島に次いで2番目に大きい島が小豆島だ。「小さい豆」というからどんな小粒の島かと思ったら、島の外周はおおよそ125km。車でまわっても3時間以上かかる計算だ。この島全体にぐるりと張り巡らされているのが、今回の旅の主人公、全長約150kmのお遍路道である。

讃岐(現在の香川県)から京の都へ向かう船のなか、ゴツゴツとした輪郭の小豆島を見初めたのが真言宗の開祖、弘法大師(空海)だった。海底火山が隆起してできた小豆島は陸地のほとんどが山である。火山灰が固まってできた岸壁は長年の風雨にさらされ、いたるところに洞窟や崖地を形成していた。平安時代は山岳修行がブームだったというから、こういう立地はさぞや魅力的に映っただろう。弘法大師は事あるごとに小豆島に立ち寄り、山野を歩いて修行したといわれている。

こうして小豆島に88カ所(6カ所の奥の院を含めると全94カ所)の霊場が開かれた。真言密教によって国を守り、世の人々を救おうという修行道場だ。9世紀の開創以来、峻険な岩山や崖の上の洞窟など自然の地形を利用した山岳寺院や行場には、心身の穢れや災いを取り除くための修行を行う地として多くの人々が集まり、やがて弘法大師の足跡をたどるようになる。これがお遍路の始まりだ。

小豆島と仲よくなるいちばんの方法は、ただお遍路道を歩くことだ、と実感する。ここは古くから花崗岩の一大産地としても知られているが、吉田から先の遍路道には現在も大阪城築城に際して切り出した花崗岩の残石や丁場が残っていて、江戸時代のにぎわいを現代に伝えてくれる。醤の郷を歩けば、醤油の原料となる大豆を積んだ北前船が続々と寄港する様が思い浮かぶ。平安時代の修験僧を見つめてきたであろう、樹齢1,600年の大木にも出合った。遍路道を歩くことで島がたどってきた歴史や文化と自分が融合するとき、まるで1,200年という時をタイムトリップしたような錯覚に陥ることもしばしばだ。

お遍路のお楽しみといえば、昔ながらのお接待もそのひとつ。古くからお遍路を迎えてきた島の人々は、最高のおもてなしを心得ているからだ。「迷路のまち」に迷い込めば、誰かしらが目的地まで連れていってくれる。朝いちばんに訪れたお寺では、片隅に活けられた野の花に安らぎを覚えた。たまたま通りかかった軒先で蒸かしたてのお芋のご接待を受けたり、お参り後、みかんや栄養ドリンクを差し入れてくれた住職とよもやま話に花を咲かせたり。誰かと行き交う何気ないひとときに、島の人々の懐の深さが顔を覗かせる。

難しいことは考えず、古道歩きの要領で150kmを歩いてみよう。島の住職は言っていた、「歩けば必ず、気づきがあるもの」と。はてさて、自分がここから何を得られるのか。まずは7日後を楽しみに…… 。

» PAPERSKY #53 SHODOSHIMA | HIKE Issue

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