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ヨーガが導く人生という旅|成瀬雅春|PAPERSKY Interview

, 2014/03/27

生きるとはなにか―誰もが抱くこの果てなき問いに答えを与えてくれるのが、ヨーガであるという。とするなら、日本ヨーガ界の第一人者であり、「ヨーガ行者の王」という称号をもつ成瀬雅春さんは、人生という長い長い旅の達人ということになる。12回に達したインド・ヒマラヤの奥地での修行、ヨーガの醍醐味、そしてヨーガが導く人生という旅の真髄について、成瀬さんに訊いた。
 
―インドのヒマラヤ山中にあるゴームクで長く修行されたとのことですが、なぜその土地に行くことになったのですか。

広いインドを東西南北いろいろ旅しました。これまでに40~50回は行っているかな。数々の聖地といわれる場のなかで、自分が修行するなら「いちばんはここだ」と思ったのがゴームクです。ゴームクはガンジス川のスタートポイントで、インド人、おもにヒンドゥー教徒はガンジス川を大切にしているから、彼らの思いがそこに集まっている。1999年から毎年行くようになり、12回の修行を達成してひと区切りとしました。

―たどり着くのも大変な場所だとか。

行くのが困難な場所のほうが落ち着いて修行ができます。通常だとインドに着いてから現地まで4、5日かかる。バスで標高3000mまでは行けるけれど、そこから先は歩いて4000mまで登るわけです。

―そもそもゴームクという場所を知ったのはいつ頃でしたか。

最初にインドに行ったのは1977年。そのときゴームクのことは知っていましたが、修行の場だけでなく、旅行というのは縁がないと行かれない。縁があって導かれて行くのが自然でいい。そういう意味でゴームクに実際に行けたのは94年。17年も間がありました。

―ゴームクが自分にとってよいと思ったのは、どういう感覚からですか。

もっともナチュラルというか、自然以外になにもないからです。インドの他の聖地はたいていヒンドゥー教の聖地なので、寺院があって、巡礼の人や観光客がいっぱい来て、おみやげ物屋がある。でも、ゴームクにはなにもない。ただ川と岩しかなくて、あとはなにもない。

ゴームクは招かれざる客は来ない「場」なんです。おもしろいのだけれど、僕の教室(東京・五反田)でも「ここには入れない」と帰る人がいるんですよ。「場」ができあがってしまっているから。それはバイブレーションなので、入れない人は入れない。逆に、ここに来ると帰りたくなくなる人もいる。「場所」と「場」というのは違うもので、その「場」のもつエネルギーに合う、合わないがある。ゴームクは僕に合うわけです。旅も同じことだと思うんですよね。ある場に行くとなぜか癒されたり心地よかったりする。「あそこにもう一度行きたい」と感じるのは、その場のバイブレーションが自分に合っているからだと思います。

―成瀬さんにとって、ゴームク以外にそういう「場」はありますか。

いくつかあります。南インドにあるクリシュナのバターボールという岩(直径10mほどの球形の奇岩)があって、何度も行っています。ただ、僕が行かないとよい場にならないらしい。その脇にある、ブレインロックと名づけた脳味噌みたいな格好した岩もおもしろくて、ぺたぺたくっついていると、いろいろ対話できたり、蠢きが感じられたり、鼓動が感じられたりします。

―ゴームクでの修行はどんなことをするのでしょう。

基本的に呼吸法、瞑想といったハタ・ヨーガを中心にやっています。それと「アーシルワード」といいますが、巡礼の人へ祝福を与える仕事があります。これはヨーガ行者の義務のひとつです。ゴームクまで来る人は少ないけれど、非常に熱心なインド人の巡礼の人はやってくる。国境が近いので軍人さんが鉄砲を担いだまま「祝福してください」と来たりもします。最初に行ったときは1カ月ほど滞在したんですが、近ごろは多忙で、2週間ほど滞在しています。

―かなり危険な場所で瞑想をしていますが(p66、67参照)、恐怖は感じないですか。

下手すると落ちるなというのはわかるし、実際に危険な目に毎年遭っています。氷河のクレバスに落ちそうになったり、上から岩が落ちてきて顔に当たったり。瞑想している場の後ろは全部氷河ですから、大きな塊が剥離して落ちてくるんです。

瞑想というのはその人のあらゆる能力を高めることなので、生命力も精神力も高めなくてはいけない。こういう危険なところに座ることによって精神力は非常に強靭になります。「殺されても死なないぞ」くらいに、簡単になります。東京でやっていてはそうはいかない。

―ヨーガや瞑想はここ数年、とくに注目されていると思いますが、そもそもどんなものと解釈すればいいのですか。

ひとことでいうと自分を知ることです。ネット社会になりキーワードを検索するとなんでも答えが出てくるけれど、「自分」と入れても何も出てこない。世の中のいろいろなことは知ることはできるけれど、いちばん知ることができないのが自分です。知ることができないから知ろうとする。人生というのは自分を知る作業です。死ぬまでずっと「自分はなんなのか」「生まれてきたのはなぜなんだろう」「生きることはなんなのか」「自分の仕事はこれでいいのかしら」と自問し続けるのは、全部自分を知る作業でしょう。「死ぬのは怖い」とか「死んだらどうなるんだろう」というのも、自分にまつわる「はてな」なんですよね。それをひとつずつ解決し、「こういうことなんだろうな」と答えを見つけていくのが自分を知る作業であり、ヨーガなんです。生きているからには絶対に必要なことで、よりよく生きる力をつけるためにはヨーガをやるといい。もちろんヨーガだけでなく、たとえば日本舞踊をやっていて人生の真髄がつかめる人もいるし、陸上競技でつかめる人もいる。人間の存在ってなんだろうという「はてな」を、ほかのことでつかむこともできるけれど、ヨーガはストレートに本質へ迫ることができる直線の道といえます。

―それはどうしてですか。

ヒンドゥー教には、人は生まれ変わるもので、その輪廻をなんとか抜けだしたいという「解脱」の考えがあります。僕の解釈でいうと「人間を卒業したい」ということです。生まれ変わるというのは、例えば小学5年生が6年生になるようなもので、つまり小学校は卒業できない。人間はもう一度生まれ変わって、違う職業に就いたりして、いろいろなことを勉強する。その「人間を卒業する」ためのノウハウがストレートに詰まっているのがヨーガです。

ただ、ヨーガは宗教ではありません。ひとりの人間が人間を卒業するためのテクニックであり、ヨーガをする人のなかにはキリスト教徒もいるし仏教徒もいる。言ってみれば個人教みたいなものです。要は個人が完成すればいいだけのことなのです。

―あくまで自分で自分を知るために実践していくのがヨーガ、人間はずっと人間を卒業する旅を続けているみたいなものですね。実際にヨーガを始めたとして、自分とはなにかという答えにたどり着けるのでしょうか。

はっきりとはわからないのですが、インダス文明のモヘンジョダロの遺跡から瞑想していると思われる人の遺物が出てきたといわれています。つまり、そのころから「人間はどうしたらいいんだろう」と考える人たちがいたということです。

最初は自分を知りたいと思うんだけど、ヨーガをやっているうちにだんだんと、たどり着けてもたどり着けなくてもいいや、となってくるんですよ。そういう執着がなくなってくる。なくなってくるけれど続けていく。死ぬまでたどり着けないくらい遠いかもしれないけれど、それでもいいわけです。旅でいちばん楽しいのは旅行を計画しているときでしょう。同じようなものです。目的地にたどり着いたからいいというものではないじゃないですか。その前にどうしよう、こうしようと考えているのがいちばん楽しいわけですから。

―ヨーガを暮らしに取り入れるとしたら、どんなことがいいでしょう。

瞑想は、自分を観るということですから、その力がつけば人生の判断で誤った道に行かなくなります。でも、誰でも日常で瞑想しているんですよ。なにかを選択するとき、困ったときにはみな、目をつむって沈思黙考しますよね。これは瞑想と同じです。つまり、困ったなということ以外のよけいなことがなく、そのことに集中し見据える。それが瞑想の作業なんです。しっかり集中して判断できるようになると、生きる力が身につきます。

―最後に、成瀬さんにとって旅とは?

まず人生じたいが旅ですよね。いわゆる旅行という視点でいうと、旅というのはどこかのツアーで観光して帰ってくるだけではあまり残らない。旅先で、たとえばどこかの村人とコミュニケーションが取れたとか、バスがパンクして半日動けなくなったとかというアクシデントがあると、その旅行は楽しい。つまり、帰ってきた後に話題があるほうが旅は楽しいわけです。ハプニングやおもしろい出会いや経験をするのがいちばんいい旅だと思う。無事でなんにもない旅はつまらない。旅行も全部が体験です。なにかを感じたり、そこにいる人となにか共鳴するような、自分で体感することがあったりするのがよい旅です。いま、来年か再来年に行こうと思って計画している場所があるんですけれど、それはまだ秘密です。

 
成瀬雅春(なるせまさはる)Naruse Masaharu  
ヨーガ行者、ヨーガ指導者。12歳のころからハタ・ヨーガを中心に独自の修行を続け、2001年に全インド密教協会から「ヨーギーラージ(ヨーガ行者の王)」の称号を受ける。現在、日本国内とインドを中心にヨーガの指導や講演などの活動をおこなっている。1977年に初めて渡印して以来、インド、チベット、モンゴル、ブータンなど各国の聖地も訪れている。
www.naruse-yoga.com

This story originally appeared in Papersky No.39.

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