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パットのサイクリング・ドローイング|PAPERSKY Book Club

自転車のなにがいいって当たり前だけど自分の足で行けるところにしか行けないことだ。ペダルをこいだぶんだけ身体は進み、想像よりもちょっと遠くへ行ける。だから移動自体が楽しいし、到着することが嬉しい。その循環をサイクリングとは […]

09/23/2013

自転車のなにがいいって当たり前だけど自分の足で行けるところにしか行けないことだ。ペダルをこいだぶんだけ身体は進み、想像よりもちょっと遠くへ行ける。だから移動自体が楽しいし、到着することが嬉しい。その循環をサイクリングとはよくいったものだ。
サイクリングを楽しむ元祖だったんじゃないかと思うのが、通称パットことフランク・パターソンだ。1920年にイングランド南部の港町、ポーツマスに生まれた彼は、サイクリングと田園の風景をこよなく愛し、気になる風景があれば自転車を停め、サドルを画板に細いペンで描いた。彼が描いたのは自転車に乗っていたからこそ見える景色。坂の途中で見下ろした景色、自転車を停めて木陰でした昼寝、雪の日の朝にまだ踏み固められていない道をゆっくりと走ること、といった具合だ。もっといえば自転車に乗ったときに受ける風や、夜の道の静けさも彼の絵には記されている。それはサイクリングの楽しみそのものだ。
聞けばこのパットさん、自転車が好きで好きで、自転車雑誌『Cycling』誌に自分のイラストを送ったところ気に入られ採用、プロになったらしい。その後、エリザベス朝時代の古い小屋に移り住み、自給自足の生活を送りながら、妻や子供たちとともに、自転車であちらこちらに出かけたという。
彼がすごいのは、35歳にケガで膝を悪くしてからは、編集部から送られてくる写真や資料に、自分の記憶と経験を加えて、まるで自らが訪れたかのようにいきいきとした風景を書きつづけたこと。それは81歳で亡くなるまで続き、彼が残した作品は生涯で2万点を超えるという。自転車に乗る歓びだけで構成された無数の線は、ベッドで今日の思い出を反芻するために描かれたかのようだ。
サイクリング・ユートピア フランク・パターソン画集
フランク・パターソン 文遊社 4,725円