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ニッポンの魅力再発見の旅 浜松

音楽の街、モノづくりの街、祭りを愛する街……。時代によりさまざまなムーブメントを生み出してきた街、浜松。遠州灘、浜名湖、天竜峡へと連なる山々。自然に抱かれた都会で暮らす、フロンティアスピリッツあふれる人たちに出会う旅へ。 […]

12/27/2017

音楽の街、モノづくりの街、祭りを愛する街……。時代によりさまざまなムーブメントを生み出してきた街、浜松。遠州灘、浜名湖、天竜峡へと連なる山々。自然に抱かれた都会で暮らす、フロンティアスピリッツあふれる人たちに出会う旅へ。
「サンフランシスコに似てるよね」
この街を知る人たちから、そんな呟きを聞いた。彼らは浜松のどこを指してそう言ったのだろう。いい感じに古びてきたビルに、新しいショップがけっこう入っていたりするユニークな街並みか。北側の山間部を除けば、中心街が天竜川、遠州灘、浜名湖と三方を水域に囲まれていて、水のせせらぎを聞くのも深緑に包まれるのも比較的容易くできる自然豊かな地理なのか。それとも、さまざまなファクトリーや職人がひしめくモノづくりの街としての側面か。真意を確かめたりはしなかったけれど、思い当たる節をざっと並べてみただけでも、この地方都市を魅力的にしているファクターはいくつもあると気づく。
中世は東海道の宿場町として、江戸時代は家康の築いた浜松城の城下町として栄えた。もともと温暖な気候(今でも日照時間は全国トップクラス)を生かして綿の生産が盛んだったが、明治に入るとTOYOTAの創始者、豊田佐吉の発明した自動力織機を全国でもいち早く導入し、織物の一大産地に。ちなみにHONDAの本田宗一郎が生まれたのもこの地だ。山葉虎楠が日本楽器製造(現YAMAHA)を、その弟子の川合小市がKAWAIをつくった影響で、大小多数の楽器メーカーであふれかえり、音楽の街と呼ばれるようになったのは昭和のこと。そういった背景が重なってきた街だから、浜松がどんな街かを形容するのは難しいのだが、そのモザイク感をとらえて「サンフランシスコに似ている」とは、なかなか言い得て妙といえるかもしれない。
平成に入ってから、というよりは、ここ数年の浜松を語る上で欠かせないのが「KAGIYAビル」だ。老朽化していたこのビルに丸八不動産の平野啓介さんが人の集まれる場づくりを始めたのは、5年前のこと。「こういった古い建物によさを感じてくれる人はきっといるはず」。空き室だらけだったビルの最初の入居者としてラブコールを送ったのが、浜松出身の写真家、若木信吾さん。二つ返事でOKをもらい、彼が近隣で営んでいた「BOOKS AND PRINTS」という国内外の写真集や書籍などを扱う本のセレクトショップがKAGIYAビルにオープンするやいなや、アンティークショップやシェアオフィス、Barやライブハウスなど、若いオーナーの個性的な店が次々に集い、4階建てのビルは満室に。著名クリエイターや作家を招いたり、野外マーケットをテナント同士で開いたりとイベントが盛んに催されるようになり、一躍全国からも感度の高い人が出入りする名スポットになった。このビルで40年ほど喫茶店「さくらんぼ」を営むママさんは「最近は若い常連さんが増えてうれしいわぁ」と話す。その笑顔は、KAGIYAビルがこの街にもたらした影響を物語っているように思えた。
平野さんと別れた後の僕らの浜松めぐりも、何度も再訪したくなるくらいとても有意義なものだった。「世界中の楽器を平等に扱う」というコンセプトで、各地域の楽器を調査・収集・展示してきた「浜松市楽器博物館」には3,300点もの楽器がコレクションされていて、そのうちの1,300点ほどを展示。世界最大規模だそうだ。「アトリエぬいや」で貴重な浜松のフォークアートを継ぐ染色家・山内武志さんの個展に出逢えたのも嬉しい偶然。60年以上の生業への情熱が衰えぬ姿勢に、頭が下がる思いだった。
浜松最大の催しは、毎年5月の浜松まつり。170もの町が参加し、数メートル規模の凧同士で“糸切り合戦”を行う姿は壮観だ。「市内には祭り用品店が10数店舗。春、夏、秋と祭りばっかりやってるから、商売が成り立つんだよね」と、祭り文化について教えてくれたのは祭り用品店「凧人」を営む大石直人さんと隼人さん。法被も手ぬぐいも商品は手仕事にこだわり、そのオリジナリティを求めて浅草をはじめ全国から客が訪れているという。滑脱な話しぶりが商売人らしい粋を感じさせる、清々しい親子だった。
道中「浜松のよさは?」と尋ねたら、いろんな人が口を揃えた。「野菜が美味い」。農業がやりたい一心で脱サラした加藤寿成さんと同世代の仲間が切り盛りする「加藤農園」では、それを実感できた。無農薬にこだわった野菜はどれも瑞々しく、芳醇な香りと濃い味わいがあった。
旅の最後に訪ねたのは、「手打ち蕎麦naru」。モダンなインテリアにイベントスペースを併設する蕎麦屋とは思えないキャッチーな店構えで、本格的な手打ち蕎麦が人気。店主のゴリさんこと石田貴齢さんは、都内からゲストを招いたイベントを積極的に行うなど、KAGIYAビル以前から人の集まれる場づくりをしてきたまちづくりの立役者だ。あるとき他所から来た人にこう言われたという。「浜松の特産物はモノではなく“人”だね」。その言葉を聞いて、この街はきっともっとおもしろくなっていく気がした。
  
PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 浜松(2018.3.24-25開催)
www.papersky.jp/tour/hamamatsu
PAPERSKY Tour de Nippon in 浜松 Movie
https://www.youtube.com/watch?v=cqbSdwTFNfY
 
» PAPERSKY no.55 SWEDEN | FIKA Issue