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Graphic Landscape 新しい時代を先導したスイスの観光ポスター

人々を誘致するだけでなく、グラフィックデザインの進歩にも大きく貢献したスイスの観光ポスター。100年以上前からつくられ、時代をリードしたポスターから旅の歴史を探る。 ここ数年、日本では成長戦略の一環として観光立国を目指そ […]

11/15/2017

人々を誘致するだけでなく、グラフィックデザインの進歩にも大きく貢献したスイスの観光ポスター。100年以上前からつくられ、時代をリードしたポスターから旅の歴史を探る。
ここ数年、日本では成長戦略の一環として観光立国を目指そうという取り組みが加速しているが、100年以上前から「観光業」に目をつけ、取り組んでいた国がスイスである。中世の時代から多くの旅人が訪れたスイスでは、1917年に観光の振興を目的として、首都ベルンに政府の観光局が創設された。今年は100周年というからその歴史は長く、世界でもトップクラスの観光大国と言える。
観光局創設100周年を記念して、チューリヒのデザインミュージアムでは、ポスターやパンフレット、コマーシャル映像などを紹介する特別展を開催。ディレクターのクリスチャン・ブランデルは展示についてこう話す。
「デザインミュージアムにはおよそ35万枚のポスターコレクションがあり、その数は世界でトップを誇ります。なかでもスイス政府観光局から寄贈された観光ポスターを多く所蔵していますが、それらはとても貴重なものばかり。スイスでは、観光ポスターといえばグラフィックデザイン、というくらい有名で、デザイン的な価値のあるものなのです」
ヨーロッパの中心に位置し、独自の道をゆく永世中立国のスイス。公用語として4カ国語が混在するこの国では、実用性と機能性を追求したユニバーサルな視点によるグラフィックデザインやタイポグラフィが発達したこともうなずける。デザイン分野のレベルは総じて高く、観光ポスターがアートとしても認知されているのだ。興味深いのは、時代を代表する画家やイラストレーター、グラフィックデザイナー、写真家など、名だたるアーティストが参加していることだろう。
たとえば、1924年にグリゾン州のポスターをつくった画家のアウグスト・ジャコメッティ。大きく開いた赤い日傘のなかにグリゾン州の湖と人が小さく表現されている(P48下)。
「あなたをここに招待します、という意味をもっています。100年前につくられたとは思えないビジュアルインパクトで、今でも鮮明な衝撃を与えます」
スイスの観光が発達した理由は、現在にも通じる交通網が19世紀から整備されたことが大きい。曲がりくねった道がはるか遠くアルプスまで続くポスター(P49右)は、1935年、写真家でグラフィックデザイナーのハーバート・マターによるもの。MOMAの永久保存コレクションになっている。
「道を斜めにし、車で旅行するスピード感を表現しました。初めて文字組みを斜めに配した、歴史的なポスターです」
また、1946年、エドムンド・ウェルフによるポスターは、鳥が空へ飛んでいくようにカーブをした橋がダイナミックに描かれ、「鉄道があなたを山に導く」ということを表している。
「当時は、山は美しくもあるが、同時に危険で怖いものでもありました。雪崩や落石があると、悪魔が住んでいるともいわれました。しかし、もっと簡単にアクセスできる場所なんだと国際的にメッセージしたかったのです。そのためにもスイスは山岳鉄道をはじめとするインフラを整えてきました。登山鉄道、高架橋、歴史的な山岳ホテルなど、今もそのまま残る観光遺産がポスターのなかに見て取れると思います」
そして、毎年制作されるポスターは何よりも時代を映す鏡となる。観光地への誘致と絡めて世界情勢や政治的な表現が盛り込まれたものも多く見受けられた。たとえば、1941年にイラストレーターのアロイス・カリジェが手がけたポスターは物議を醸した。
「時は第2次世界大戦の最中。暗闇のなかで、美しく光り輝く女性がジャケットを開け、なかには晴れた冬のスイスの風景を映し出しました。そこには、戦時下で混乱する人々を避難させる慈悲の聖母の意味も込められています」
カリジェはモラルに反すると非難されたが、「あなたが混沌とした時代に耐えることができるように、永遠の価値を持ち歩こう」というコメントを残している。
100年以上つくり続けられた観光ポスターは、今ほどメディアがなかった時代においては特に重要な媒体として役割を果した。観光ツールとしてだけでなく、時代を反映し、新しい表現を生み出す活力にもなった。残念ながら本誌が発売するころにはこの観光ポスター展は終了しているが、デザインミュージアムでは、常時予約制のガイドツアーを開催しており、アーカイブを見学することができる。もちろんその際にポスターを目にすることもできるだろう。今も昔も世界の旅人を惹きつけるスイスの魅力と旅の歴史は、これら観光ポスターが教えてくれる。
Museum für Gestaltung
Toni-Areal, Pfingstweidstrasse 96, 8005 Zurich
museum-gestaltung.ch TEL: 043 446 6767
 
◼︎取材協力
スイス政府観光局
スイスインターナショナルエアラインズ
スイストラベルシステム
 
» PAPERSKY no.54 SWISS | LANDSCAPE ART Issue