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瞬間的な極地へ|平山ユージ フリークライマー

初めて岩登りをしたのが15歳。最初は勝手が分からないし怖いしで、おつかなびっくりだったけれど、なんとか簡単なルートを登り切った。どきどきしながらも解放された感覚があった。下りてから、また10メートルほど離れたところを登っ […]

02/17/2014

初めて岩登りをしたのが15歳。最初は勝手が分からないし怖いしで、おつかなびっくりだったけれど、なんとか簡単なルートを登り切った。どきどきしながらも解放された感覚があった。下りてから、また10メートルほど離れたところを登った。それで気付いたのは、岩の表情というのはひとつひとつ違うということ。ここを登るのかあそこを登るのかで表情ががらりと変わる。表面のかもし出すものが、ひとつひとつ遣う。それを知って、「ああ、これは一生飽きないな」と思った。こんな小さな岩なのに色んな表情を持っている。1 メートル違うだけで、傾斜も難しさもまた違ってくる。世界中には岩が無数にある。こんな小さな岩でコレだけ楽しめるとなると、無限に楽しめるんじゃないか、これはすごい可能性があるぞと、その時にぱっと世界が思い浮かんだ。その日一日の出来事で人生ががらりと変わった気がする。
当時は6メートルほどの小さな岩も満足に登り切れなかった僕も、現在では1000メートル級のビッグウォールにオンサイト(初見一発で一度の墜落もなしに登り切ること) 挑戦している。成功すれば、この規模のオンサイトは世界初だ。僕のクライミング・スタイルは、道具に頼らずに素手で登ることが理想。しかも、筆書きのようにさっと描きたい。
それほどの壁を登っていても怖いという感覚はない。死ぬということは考えないけれど、怪我には常に注意を払っている。僕の挑戦というのは1回落ちたらおしまいだから、怖いというより、ここを登り切らなきゃ、という気負いのほうが強い。ちょっと筋肉が言うことを聞かなくなったらそれでアウトだし、足が滑ったら終わってしまう。まさに一発勝負。南極やヒマラヤは地上の極地だけど、自分がいるのは身近で、瞬間的な極地。いつでも気を緩めれば落ちていける。でもそうすまいと極限まで努力している。
なぜ、そんな挑戦をするのか? 足跡を残したいというのもあるし、自分がやることが世界ーでありたい。誰もやらないことをやって歴史に名を残したい。今、35歳になり現役でいられる時間も限られていると思うけど、まだまだ自分の潜在能力を引き出せる気がしている。もう一度リセットして次の目標に向かいたい。スタート台に立ちたいですね。
 
平山ユージ
17歳で日本のトップクライマーとなり、19歳で渡仏。以来プロとして活躍。過去2回、ワールドカップ総合優勝を飾る。2002年、エルキャピタン「サラテ」を理想のスタイルでワンデー・オールフリーと、エルキャピタン「ノーズ」を世界最速で完登。2003年、5年の準備期間を経て世界最難関ルートのひとつ「エルニーニョ」完登に成功。2児の父でもある。
※ このインタビューは、PAPERSKY no.10(2004年)に掲載されたものです。
Adventure Traveler 地球が誇る冒険者たち
vol.1 平山ユージ プロフェッショナル・フリークライマー