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水と生きる谷、ヴァレー地方の水路と温泉

数々の名峰を有しアルプスの心臓部ともいわれるヴァレー地方。ここは州全体に広がる水路をめぐるハイキングや伝統の温泉地を堪能できる、スイスでもとっておきの“ホッと”スポットだ。そこに暮らす人の、水とともに生きる文化にふれる谷 […]

03/12/2013

数々の名峰を有しアルプスの心臓部ともいわれるヴァレー地方。ここは州全体に広がる水路をめぐるハイキングや伝統の温泉地を堪能できる、スイスでもとっておきの“ホッと”スポットだ。そこに暮らす人の、水とともに生きる文化にふれる谷へ。
ツェルマットにマッターホルンがあるように、ヴァレーにはビスがなくてはならない。ビスとは、ヴァレー州全体、約750kmにわたって広がる灌漑用の水路の名称で、谷を流れるローヌ河の左岸と右岸に山々が抱く氷河の水を等配分し、牧草地へ水を引くために始まった。その歴史は13世紀にさかのぼる。
木箱が連なったようなもの、散策路の横をながれる小川のようなものなど、さまざまな形状の水路を水が走る。その数は年々増えつづけて250カ所にもおよび、そのうち約220カ所が、いまも麦畑やブドウ畑、農業などに使用されている。
貴重な資料をはじめ、その歴史はビスの博物館で知ることができる。釘を一本も用いない木製の水路は、ヴァレー州にしかない特別な景観だ。ビスにはそれぞれ名前があり、その所有者と管理者も存在する。面積に応じ、水が平等に配分されるように管理も徹底。水路づくりの技術やその実用性はもちろん、こうした組織化された維持管理は、ビスをつくることと同じくらい重要な仕事なのだ。当時、ヴァレーの青年は18歳になったらビスの修理を学ぶことが必須だった。険しい山の絶壁に取りつけられるビスでは、修理作業中に転落する事故も多かったが、亡くなった人はいなかったという話にちょっぴりホッとする。一方で、保護管理をおこなわなければ20〜30年後に消滅してしまうビスも多い。壮絶な歴史を経てなお、現在も昔と同様にビスのゴミを拾い、修理などを専門にする管理者がいる。世界遺産への登録を果たすために組織されたヴァレーのビス協会を中心に、根気を要する維持管理は続く。
博物館からバスで、少し山の高いほうへ向かい、約11km延びるBisse d’Ayentを散策してみる。1442年につくられたこのビスは、カラマツやモミの木立のトンネル、スイスらしい木造家屋のシャレー、また息をのむような絶景を臨む崖など、多彩な景観を楽しむことができる。岩肌に復元、備えつけられた木製ビスに当時の人の苦労を感じ、また歩きやすく整備された散策路や手入れの行き届いた水路に、その伝統文化を守り伝えようとする地元の人の尽力を垣間みる。多様な植物を楽しむこともできる水路は、散策の道しるべにもなり、初心者も気軽に足を運ぶことができる。他の散策者と挨拶を交わしてすれ違いながら、鼻歌を口ずさみながらテンポよく進む。心に、流れる水音が心地よく響く。
水とともに生きるヴァレーの人々の暮らしは、ローマ時代よりゲンミ峠を行き交う旅人に長く親しまれてきた伝統の温泉地でも体感することができる。2,000〜3,000m級の岩山に囲まれた、谷あいの町ロイカーバート。毎日390万ℓも湧出する51°Cの源泉は、硫黄分もたっぷりのお湯。アルプス最大規模のスパリゾートには、ゲーテやピカソ、マーク・トゥエインやジュール・ヴェルヌなど多くの著名人が湯治場として訪れていたのだという。
老舗公共スパ、ブルガーバートや、高級ホテルのスパ、リンドナー・アルペンテルムなど、とくに屋外の(プールともいえる)大バスタブが人気。日本の情緒ある温泉とは違ったわくわくと気持ちよさ。それになんといっても、迫りくる山々の眺望が病みつきになりそうだ。町に暮らす約1,500人の住民が日常的に通うスパは、水中運動に勤しむ老人、温水プールの滑り台にはしゃぐ子どもたち。時に、シャンパン片手に朝食を楽しんだり、お風呂に入りながら映画を観る夜の催しなどもある。
使う、飲む、聞く、触れる、浸かる……水のある当然の日常は、まさに自然と人とが織りなす、文化的で大切な営みであることに気づく。
Burgerbad/ブルガーバート
標高約1,400mの町ロイカーバートへは、ダイナミックな山道を列車とバスを乗り継いでゆく。ローマ時代より滾々と湧きでる源泉、水温36度の硫黄泉、アルプスの大パノラマも楽しめる憩いの場。
大人:CHF28 青年(17~20歳):CHF22.50
子ども(9~16歳):CHF15.50 ※8歳以下は無料
Rathausstrasse 32, CH-3954 Leukerbad
www.burgerbad.ch
Special Thanks: Switzerland Tourism, Swiss International Airlines, Swiss Travel System