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八支則のヨガ、アシュタンガヨガとは?

おおらかで美しい南インドの風景に抱かれ、更科有哉さんの呼吸音が静かに響いていた。有哉さんは南インドのマイソールにあるアシュタンガヨガの総本部、Shri K Pattabhi Jois Ashtanga Yoga Inst […]

08/20/2012

おおらかで美しい南インドの風景に抱かれ、更科有哉さんの呼吸音が静かに響いていた。有哉さんは南インドのマイソールにあるアシュタンガヨガの総本部、Shri K Pattabhi Jois Ashtanga Yoga Instituteから、アシュタンガヨガの正式指導者「Authorized Teacher」の称号を受けた3人目の日本人。毎年、2~3カ月はマイソールに滞在、エネルギーに満ちた場所で修行している。
マイソールは、古代から受け継がれてきた修行法をアシュタンガヨガとして体系立てて世界中に広めた“グルジ”ことシュリ・K・パタビ・ジョイスが暮らし、指導を続けてきた場所。グルジは3年前に亡くなってしまったが、現在はグルジの孫であるシャラートがその教えを継承している。
意識的に摩擦音をたてて鼻から息を吸い、同じ量を鼻から吐くという呼吸を、つねに一定のリズムで繰り返し、その呼吸と動きを同調させて、ポーズからポーズへと途切れることなく動きつづけるのがアシュタンガヨガの特徴。それらポーズのことをアーサナという。 有哉さんの動きは力強くダイナミックであるにもかかわらず、柔和さとしなやかさとを併せもっている。指先から足先までの身体の各器官、呼吸、視点にいたるまで、深い集中力と強い意志力によってコントロールされているのだろう。人間のありかたを問い、自分の内側へと向かっていくためのひとつの手段であるヨガは、けっして誰かに見せるための表現ではない。それでも、その統制のとれた動きを間近で眺め、気迫を帯びたエネルギーにふれると、人間の身体がもつ可能性に瞠目して、やっぱり美しいと思ってしまう。
アシュタンガとは、サンスクリット語で「8本の枝」という意味があり、重要とされる次の8つの概念(八支則)が定義づけられている。それは、1.ヤマ(禁戒・道徳律)、2.ニヤマ(勧戒・浄化と学習)、3.アーサナ(座法・ポーズ)、4.プラーナヤーマ(調息・呼吸のコントロール)、5.プラティヤハーラ(制感・感覚のコントロール)、6.ダーラナ(集中)、7.ディヤーナ(静慮・瞑想)、8.サマーディ(三昧・自己実現・悟り)。「このうち、さまざまなポーズを練習することをアーサナといい、ベーシックなファンデーション。つまり健康第一。健康じゃないとなにもできないという考えからきています」。つまり、アシュタンガヨガは、アーサナを練習する数時間だけのことをいうのではなく、道徳的規律を守り24時間ずっと続く。「明日も24時間、あさっても24時間、ずっとアシュタンガヨガを練習しつづけます」。
今回の旅の途中、バックウォーターと呼ばれる美しく静かな水郷地帯にある村でのこと。有哉さんのヨガを眺めていたインド人の男性が声をかけてきた。
「そのヨガはどこで習ったんだ?」
「マイソールです」
「コースを終わらせるには、どのくらいの期間かかったんだい?」
「まだ終わっていません」
「……?」
「おそらく、一生終わらないと思います」
男性は、一瞬ぽかんと呆けたが、それ以上質問することなく去っていった。
このエピソードに関して、あらためて有哉さんに尋ねると、次のように教えてくれた。アシュタンガヨガの練習システムは、ファーストからシックスまで、6段階のシリーズで構成されている。現行のアーサナを完全にマスターしたと判断したら、先生は生徒に次のアーサナを伝授。こうして、個人のペースを守りながら順を追ってアーサナを学ぶことで、安全で確実にマスターしていく練習方法なのだという。「でも、世界中で最後までやったのは、グルジの孫、シャラートだけじゃないかという神話のような話があります。完璧な人間なんていませんよね? ゆえに、一生かけても終わらないのです」。