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KWANGHO LEE|自然を想い、素材に命を吹き込む

2010年秋、東京ミッドタウンホールで行われたデザインの祭典「DESIGN TIDE TOKYO 2010」。世界から大勢のデザイナーが集まった会場で、黙々と作品を作り続けるKwangho Lee本人に出会った。世界各国 […]

04/20/2011

2010年秋、東京ミッドタウンホールで行われたデザインの祭典「DESIGN TIDE TOKYO 2010」。世界から大勢のデザイナーが集まった会場で、黙々と作品を作り続けるKwangho Lee本人に出会った。世界各国の家具見本市に作品を出展し、 近年目覚ましい活躍を見せている韓国のクラフトデザイナーだ。学生時代に金属工芸を学んだ彼は、ソウルに工房を構え、ごくありふれた工業素材を用いて、手仕事で制作を行う。ある時は真っ赤に熱した鉄線で巨大な発泡スチロールを紙のように薄く切り出し、またある時は束になった途方もない長さの電気コードをひたすら結び続ける。人工的で無機質な素材を手にとり、どこか懐かしいような、それでいて生命力を感じさせる作品を生み出している。
この電気コードを使った「KNOT, beyond the inevitable」シリーズの作品は、昨年イスラエルのDesign Museum Holonのオープニング展覧会「The State of Things」にも出展され、私はそこで初めてKwanghoの作品を目にした。ずんぐりした大きな塊のようなものが宙に吊り下がっていて、1つ1つの編み目が細胞のように結びつき、中央の電球を飲み込むようにしてランプシェードの形を作っている。足下に目をやると、木の根のようにばらけた1本1本のコードが、床を這うようにして壁の1点に集まり、そこでまた細かく編み込まれて天井へと向かう。その先端に先ほどのランプがぶら下がっている。まるで生き物のようなディティールを持った、強烈な存在を感じさせるスケール感豊かな造形作品だった。
東京での展示を終えた後も、ミラノデザインウィーク、オブジェクト・ロッテルダム、メゾン・ド・オブジェ、デザイン・マイアミ…世界の名だたる家具見本市に出展し、活躍の場を大きく広げてきたKwangho。そんな彼に、これまでの実績やモノ作りについての考え、そして今後の活動について話を聞いた。
——ここ数年、貴方の作品は世界のあちこちに出展され、沢山の人達の目に触れるようになった。今日のような活躍を学生時代から想像していた?
「いや、この年齢でこれほど国際的に作品を発表していくことになるとは思ってもみなかったよ。 それに特別こういうことを目標にしていたわけじゃないんだ。僕が若い時に考えていた事は、今やっている事にベストを尽くすこと、そしてそれを熱意を持って続けていくことだった。多分ちょっとした運もあったんだと思う」
——韓国と他の外国とで、人々の作品に対する反応や見方にどんな違いがある?
「母国でも海外でも、 人々が興味を持つのは、 僕の作品が「手仕事による工芸品」であるからだと思う。ただ、作品の持つ美しさについて評価されることは、外国の方がずっと多い。韓国では次々と量産品が生み出されて皆がそれを使う、大量生産の考え方がまだまだ幅を利かせてるからかもしれない」
——少年期に暮らした農村での記憶が作品作りのインスピレーションになっている、と以前聞かせてもらったね。今、子供の頃に暮らしていた場所(ソウル郊外の農村地帯)に戻ると、どんな事を感じる?
「小さい頃に見た景色とか、当時の暮らしの記憶とかは、今でも僕にとってすごく重要だし、それが作品作りのモチベーションになっている。 確かに今見える風景は、かつて自分が住んでいた頃とは随分変わってしまったけれど…そういう変化を目の当たりにすることで、過去の記憶と今の自分とがより一層強い結びつきを持てるような気もするんだ。あの頃、自然っていうものがどんなに身近なものだったかを実感したり、自分のルーツをより深く顧みたり…家族のこと、周りの環境との関わりとかをね」
——「自然」と「もの作り」の関係についてはどう思う?「自然らしさ」を謡うために「自然そのまま」の素材が使われることが多いけれど、 今の作り手は、「モノ」の方に素材を無理矢理当てはめてしまっているケースが少なくない。
「そうだね…まず、自然っていうものは本来それ自体が美しいものなんだ。そして、人の手が入っていない、あるがままの状態でこそ自然は一番美しいんだと思う。大事なことは、自然に対する関わり方・向き合い方じゃないだろうか。モノが無いから、モノを作らなくちゃいけない…いま僕らが生きているのは、もうそんな時代じゃないんだから」
——金属の表面に傷や色を吹き付けて加工した Enameled skin Copper Seriesなどもそうだけど、貴方の作品には「手仕事のプロセス」がある意味で粗っぽく残されている。また一方では、自然からインスピレーションを受けながらも、実際の作品に使われるのは人工的な素材、工業素材が中心だね。こうした素材の選択や手仕事についての考えを聞かせてほしい。
「僕の作品作りにとって、一番重要なのは祖父(数年前に他界)の存在。僕の祖父は有名な農家で、身近にある素材…干し草やモロコシなんかを使って、様々な家具や暮らしの道具を自分で作っていたんだ。僕は昔からそうした道具に囲まれて育ってきた。今の僕がやっているのは、かつて祖父が農村でやっていたように、今自分が住んでいる街で手に入る素材を使って、新しい役割を持ったモノを作り出そう、ということなんだ。ただ何かを自分の哲学として語るのはまだ早すぎると思うけどね…多分10年ぐらいのうちには言えるんじゃないかな」
——今後の活動と、いま興味を持っていることについて教えてほしい。
「作品作りも勿論大事だけれど、身の回りにある環境も同じぐらい大事だってことを最近すごく実感した。今取り組んでいるのは、それぞれの地域に特有の産業・食・文化を探し出して記録していくこと。韓国の各地域を巡って、各々の場所で育まれてきた独自の生活・文化についてスタディを続けている。何代にもわたって伝えられてきた慣習や、残されてきた風景について詳しく調べて、身近な自然素材にどうアプローチするべきかの研究を続けているんだ。そして、それぞれの地域に馴染みの深い素材や、自然素材を使って、実用的なモノを作っていきたい。”自分の手で作ったもので、暮らしを豊かにする” — その価値や喜びをもう一度解釈し直したいんだ。 ひたすら発展を目指して、ゴールの無い都市化に突き進んでいく…そんな時代で忘れられてかけているメッセージをね」
 
Kwangho Lee
1981年、韓国・ソウル郊外の生まれ。現在はソウル市内に在住。Hongik(ホンギク)大学で金属工芸を専攻し、2007年卒業。 小さい頃から自分で物を作るのが好きで、 農村での暮らしの中、祖父が畑や森にあるもので手作りした道具に囲まれて育つ。その頃の記憶が今に通じるモノ作りの原点となり、かつて祖父がしていたように、身近にある素材を手にとり、 新たな意味や機能を持つモノに生まれ変わらせている。そうした行為は過去に消えてしまったものではなく、今でもかけがえの無い価値を持つと信じて。
オフィシャルサイト:
http://www.kwangholee.com/
Converse TaiwanがKwanghoを取材したビデオ:
http://www.youtube.com/watch?v=ih28t35pLFI
DESIGN TIDE TOKYO 2010 出展者紹介:
https://designtide.jp/tide2010/exhibition/
写真クレジット:
1) Enameled skin Copper Series/工房にて
2) KNOT, beyond the inevitable
3) Styrofoam Sofa
4) マーケットで素材を探す
5) ソウル郊外、子供時代を過ごした場所の風景