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ニッポンの魅力再発見の旅 青森県八戸市

日本各地の自然や文化、魅力を再発見する旅、ツール・ド・ニッポン。今回、ツール・ド・ニッポンが選んだ旅先は、青森県八戸市。5月に三陸復興国立公園に指定されたばかりの美しきニッポンの宝、種差海岸と南部地方の食文化に出会う旅へ […]

09/04/2013

日本各地の自然や文化、魅力を再発見する旅、ツール・ド・ニッポン。今回、ツール・ド・ニッポンが選んだ旅先は、青森県八戸市。5月に三陸復興国立公園に指定されたばかりの美しきニッポンの宝、種差海岸と南部地方の食文化に出会う旅へ。
江戸時代、その名のとおり「青い森」が広がっていたことから名づけられたという青森県。当時いくつかの藩に分かれていた地域は、明治時代に県東部を南部、県西部を津軽としてまとめられた。地域性のちがいから「おらがまち」の誇る各地の食や文化として大切に伝え継がれているものが数多く見受けられる。
八戸は、イカの水揚げ量では日本一を誇る有数の漁場。ウニやアワビ、サバの町としても知られ、刺身や魚介料理を味わうのに事欠かない。終戦後には県内外の漁師をはじめ、戦地から引きあげた人たちのために映画館や娯楽施設、飲食店街がつくられた。八戸が日本一の早起き町といわれる理由は、海が育んだ文化の象徴ともいえる朝市・朝ごはん・朝風呂。昔のままの風情をいまも残す横丁と並んで、海とともに生きる八戸の真髄といってまちがいない。 
午前4時ごろ、まだ朝日も顔を見せていない時間から刺身や鮮魚、惣菜や焼き魚が並ぶ。八戸ではほぼ毎日、朝市へ出かけることができるというのだから、外国でいうマルシェが、ここではあたり前の日常であり風景なのだ。魚を買うやりとりも楽しい、わからない言葉(方言)もまた、おもしろい。 
平日の毎日と土曜なら、陸奥湊駅前でおこなわれる朝市。名物はイサバのカッチャ=市場のお母さんと呼ばれる女性たちの活気のよさ。少しずつ食べたいものを買いこみ、炊きたてご飯とお味噌汁を注文し、市場内のテーブルに並べていただく朝ごはん。ひと皿200円前後とリーズナブルなので、わかっていてもつい食べすぎてしまうのがつねだ。
冬季を除く毎週日曜の朝名物といえば、館鼻漁港の一帯が約350 店もの出店と来場者で埋め尽くされ、全国最大規模を誇る館鼻岸壁朝市。端から端へ、買い食いしながらぶらりするだけで、時計の針は次の1時間を告げている。港の空気を感じながら夜明けから9時前後まで、早い朝だけのお楽しみ。地元の人たちも日曜の朝食や買いだしに、家族連れでくりだす。新鮮な魚や野菜だけでなく、お食事ものや雑貨・衣料品も並ぶ。人やモノの行き交う漁師町で出会う人は皆、オープンで人なつっこくて明るい。人とのふれあいも買い食いも楽しめて、美味しくて嬉しくてあったかい八戸の朝時間は、まだ終わらない。
 
漁師たちのたっての希望で、港へ戻る早朝に開くようになったという八戸の銭湯。港に戻ってくる潮にまみれた海の男たちの姿を想像すれば、町の人たちが早朝風呂へふみきったのもうなずける。戦後ほどなく、昭和27年に開店した柳湯のおかみさんによると「ほかの港の人に羨ましがられるそうなんですよ。銭湯は漁師さんたちの情報交換の場。そして八戸の人たちの社交場でもあるんです」。八戸あさぐると称し、市内のホテルでおこなわれているサービスでは、乗合タクシーで朝市と朝風呂を楽しめる。当たり前の日常として残る朝風呂文化は、早朝5時から23時ごろまで、土地の人をはじめ、訪れる人々をほっとさせる、八戸が誇るもののひとつにちがいない。
海とともに生きる八戸の人は、小さいことは気にしない。つねに未来を見据え、諦めない強さをもつ。今年5月、八戸が誇る種差海岸は、ついに国立公園に指定された。それはまちがいなく、地道な清掃活動による市民や観光客の意識の変化の賜物であり、約80年越しの市民の願いでもあった。北はJR鮫駅の蕪島から南は大久喜漁港まで全長約12 kmにおよぶ海岸では、春から秋にかけて四季の変化に富んだ表情を楽しむことができる。案内していただいたのは、八戸市文化財審議委員の高橋晃さん。
教えてもらわなければ、踏み歩くだけで終わってしまう小さな植物も含め、約650種におよぶ貴重な海浜植物や高山植物の数々が嬉しそうに咲く。住みよさを伝う動物たちが、あちらこちらでいきいきとした顔を見せる。海岸近くまで天然の芝生が自生し、白砂の海岸や奇岩と、変化に富んだ海岸線が織りなす独特の風景を目の前に、多くの画家や文人が魅了されたこともうなずける。日本画家の東山魁夷は、葦毛崎展望台から大須賀へ通じる道を描き、代表作『道』を遺した。作家・司馬遼太郎には、どこか宇宙からの来訪者があったら、いちばんにこの種差海岸を案内したいと言わしめたのだとか。
諦めない八戸人の強さを、手仕事に従事するひとりの男にもみた。南部地方に伝わる郷土玩具で最も古い八幡馬を鉈一本で彫りあげ、全工程をひとりひたすらていねいにおこないつづけて約50年。伝統工芸士・大久保直次郎さんの「最近ようやく亡き父の八幡馬を超えたように感じる」の言葉は、心に染みた。
訪れる人を別世界に誘うほどの自然美と、慈愛に満ちた人の心にふれる八戸。自分解放の旅へ、ぜひ出かけてほしい。
 
PAPERSKY Tour de NIPPON in 八戸(2013.921-22開催)
http://archive.papersky.jp/2013/08/08/tour-de-nippon-in-hachinohe/
PAPERSKY Tour de Nippon in 八戸 Movie
https://youtu.be/DvWOb1p3Shg
» PAPERSKY’s BARCELONA | SWIM Issue (no.42)