出羽三山・山伏ー山の行者たち 1
出羽三山の深い霧のなかに消えていく人影は、山伏である。人目を忍び、儀礼を重んずるこの修行者たちは、千年以上も昔から、厳しい自然環境と完全に一体化することをめざし、出羽三山の神聖な場所で超自然的な能力を得るための修行に励んできた。
山は人間の心を捉えて離さない。山は初めて出会う塔であり、そびえ立つ信仰の対象であり、記念碑である。古代の人々は山々を畏敬し、ひれ伏した。多くの農民にとっては、自然の容赦のない力をなによりも鮮烈に象徴する存在となった。日本ではすでに7世紀に山岳信仰の習わしがあり、9世紀には聖僧たちも山々を崇めた。この信仰が、修験道──呪術を操る僧、役行者(えんのぎょうじゃ)が創始した混淆宗教──のインスピレーションのひとつになった …»
道具に組みこまれた知恵 | 美濃和紙 2
人間は道具がなくても多くのことができるが、道具があれば神のようになれる。手漉き和紙を魔法のようにつくりだす技を支えるのは、桁と簀(細い竹ひごを絹糸で編んでつくったスクリーン)というふたつの道具のみ。基本的に、桁は幅1m ほどの大きな長方形の枠で、下の部分には簀を支える銅線を固定する薄板が、上の部分には簀をしっかり固定する金属製の蝶番がついている。このふたつの道具がなければ、またこれらの道具をつくる職人がいなければ、手漉き和紙はできない。庄司和成は美濃にひとりしかいない桁づくりの職人だ。桁をつくっている人は、いまや全国でも3人しか残っていない …»
水のなかでつくる紙 | 美濃和紙 1
静かに差しこむ自然光が一枚の紙をとおして、やわらかな光となって満ちている。世代を超えて受け継がれてきた技で、紙漉き職人はそれぞれの人生をかけ、丹念に一枚の紙をつくり上げていく。ここは岐阜県美濃市。1300 年代から続く伝統的な和紙産業の町だ。この町を象徴する素朴で美しい美濃和紙は、日本が世界に誇る手仕事のひとつである。
美濃のすべての紙を、美濃の人々が力を合わせ、手づくりしていた時代があった。楮(こうぞ)の木の皮を剥き、大きな釜に入れてやわらかくなるまで煮てから、冷たい川の水でていねいに洗い、その繊維を松の木でつくった叩き棒で叩いてほぐす。こうした和紙づくりのすべての工程を、子ども、お母さん、おばあちゃんを含め、美濃中の人々が一家総出で木を和紙に変えていた …»
漁師のためのシャツ|大漁3
遠州屋の店先には品物がちらほらとしか見当たらない。取材に訪れたのが夏ではなかったからだろうか。ガラスの引き戸越しに店内をのぞくと、木製のテーブルの上に木綿のシャツがつまったガラスの棚があり、その後ろに年季の入ったミシンが並んでいるのが見える。「こんにちは」。引き戸を開けて店内に入ると、裏の部屋から内藤キヨが現れ、1台のミシンの前に座った。内藤は現在、86歳。遠州屋の創業よりも4歳だけ若い。彼女の仕事は焼津名物の漁師用シャツ、通称「魚河岸シャツ」を縫製することである …»
海に浮かぶクジャク – 大漁旗|大漁1
漁には神秘的な側面もある。焼津の漁師たちのあいだには多くの迷信があり、えさの選択から「船玉」(御神体として船内の神棚に祀るもので、起源は漁師の民間信仰であったといわれる。御神体の中身は、女性の髪の毛、サイコロ、お金。漁に出ているあいだ、封印しなければならないものを小箱に入れて御神体としている)まで、あらゆることに影響を与えている。こうした言い伝えのなかで、もっとも目を引くものは「大漁旗」だろう。漁師のあいだでは、誰かが新しい漁船を買うと、仲間が船元に大漁旗をあつらえて贈るのが慣わしになっている。いまの大漁旗の目的はできる限りの幸運を祈願することと、漁船を華やかに彩り、海に浮かぶクジャクに変えることだけであるが、昔はもっと実用的な目的があった …»
旅人が集まる京町家のゲストハウス
古い町家が軒を連ねる京都の路地。小さなお地蔵さまの祠や、防火用と書かれた赤いバケツが点々と並んでいるのも、京都の町の気質を表しているようで面白い。旅の宿を決めるなら、せっかくだからそうした町家に泊まってみてはどうだろう。京都では古い町家を改装し、旅行者のためのゲストハウスを営む若い人たちが増えている。格子のガラス窓に、磨きこまれた木の廊下、ギシギシと音のする階段。味わいのある建物は、住居だったり、薬問屋だったり、お茶屋だったり …»
日の出とともに湖へ漕ぎ出す・琵琶湖
琵琶湖南岸を中心に8ヶ所の風景を選定した”近江八景”。名勝として古くから親しまれていて、その発祥は室町時代にまで遡る。江戸後期、歌川広重によって描かれた浮世絵によって、日本だけでなく海外にもその名は広まり、琵琶湖は日本を代表する美しい風景として知られるようになった。現在でもそうした湖の風景は人々を魅了し、カヌーやヨット、ウィンドサーフィン、釣り、キャンプといった、湖の自然を楽しめるアクティビティにも絶好の環境を提供してくれる。早朝に湖岸を散歩すれば、日の出とともに湖へ漕ぎ出すカヌーイストの姿を …»






























