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Day5 斜里~網走|斜里のコミュニティで、牛を描く作家に出会う

5日目はまるまる斜里町で過ごした。宿泊した「しれとこくらぶ」は、ホスピタリティがすばらしく、いろいろな人が集まってくる。前出のガイドの伊藤さん(P.44)をはじめ、パン屋、編集者、絵本作家など、さまざまな職業の人で、ゆる […]

10/29/2019

5日目はまるまる斜里町で過ごした。宿泊した「しれとこくらぶ」は、ホスピタリティがすばらしく、いろいろな人が集まってくる。前出のガイドの伊藤さん(P.44)をはじめ、パン屋、編集者、絵本作家など、さまざまな職業の人で、ゆるやかなコミュニティができている。そのなかで、牛の木版画と絵を描く、画家の冨田美穂さんに出会った。
東京都出身の冨田さんは、大学在学中、北海道に農場のアルバイトでやってきて以来、牛に魅了され移住を決意。酪農ヘルパーや酪農従業員として牛の近くに身を置き、触れ合いながら制作に励んでいる。自宅で見せてもらった木版の原版は182×91cmを3枚つないだ、牛の全身が真横からほぼ等身大で描かれた巨大なものだった。その重量感はもちろん、牛特有の優しくつぶらな瞳、一本一本の毛や血管までもが精緻に板に刻まれている。制作を考えるとくらくらするほど気が遠くなる作業だが、冨田さんは涼しい顔で「牛がね、とにかくかわいいんですよ」と笑う。
学生時代は幻想的な心象風景を描きたいと思っていた冨田さん。だが、ふと目の前にあるものを描くほうが向いていると思ったという。そんなときに一頭の牛と出会った。
「620です。あ、個体認識番号です(笑)。とにかくなつっこくて。620に会わなかったら、今の私はないですね」
2017年には第20回岡本太郎現代芸術賞に入選。道内外で作品を発表する機会も増え、徐々に制作に費やせる時間が増えてきたが、今もなお牧場の一角に住み、酪農従業員をしながら制作している。「かわいがってあげると、牛も少し心を開いてくれるんですよ」と愛し、愛される喜びを嬉しそうに語る冨田さん。牛談義は夜更けまで続いた。
 
» PAPERSKY #60 HOKKAIDO | Drive Issue