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現場主義に徹した不朽の山岳画家

北アルプス常念岳の麓。通りから一歩森のなかに入った静かな場所に安曇野山岳美術館はある。「新聞記者をしていた父・水上巌が定年後に郷里に戻り、山の絵だけを集めた美術館をつくりたいと36年前に開館しました」 そう語るのは美術館 […]

09/30/2019

北アルプス常念岳の麓。通りから一歩森のなかに入った静かな場所に安曇野山岳美術館はある。「新聞記者をしていた父・水上巌が定年後に郷里に戻り、山の絵だけを集めた美術館をつくりたいと36年前に開館しました」
そう語るのは美術館の運営を引き継いだ岩佐峰子さん。
「父は大の山好きで日本山岳会員でした。こだわりは風景画ではなく山に登って描かれた『山岳画』だけを集めて展示すること。その想いを大切に今も展示を企画しています。多くの方に山岳画を知っていただきたいですね。なかでも日本の山岳画の祖と言われる足立源一郎の作品を多く所蔵しています」
1889年(明治22)に大阪で生まれた足立は浅井忠に師事。若い頃は人物画で定評があった。1923年、2度目の渡欧の際にスイス・グリンデルワルドで槇有恒のアイガー登山に同行したガイドと知り合い、山岳画に傾倒。帰国後、各地の山に登りはじめる。1934年に日本山岳会に入会、1936年には吉田博らと日本山岳画協会を設立した。
「足立は現場で描くことに徹していました。スケッチも油絵も現場主義。そのため油絵もほとんどが小さく、キャンバスはかさばるので紙や板に描いています。画材一式、登山道具一式を背負って山に登り、ときには岩壁で体をロープに結びつけて描いたというエピソードも。吹雪の中で油絵を描く写真もあります。しかも本格的に山にのめり込むのは60歳を過ぎてから。変わりやすい山の天気の中で、空の色や山肌の色を忠実に画面に写し取っています。苦労して山に登って描いた意気込みを感じてもらえたら嬉しいですね」
学芸員の三澤春奈さんはそう話す。北穂高岳の険しい岩場に画材を持ち込み、クライミングで有名な滝谷を描いた代表作『北穂高岳南峰』(安曇野山岳美術館蔵、掲載作品)は1957年、68歳の作品だ。85歳で亡くなるまでの約20年間、毎年北穂高岳に通い続けた。
生誕130年を迎える今年、安曇野山岳美術館では「生誕130年記念 山岳画の父・足立源一郎展」(7/12~10/16)が開催される。北アルプスや各地の山岳画はもちろん、初期の人物画や山に携行していた画材なども展示。絵だけでなく足立の生涯を知ることができるまたとない機会である。
 
安曇野山岳美術館
http://azumino.mt-museum.jp/