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  • Photography: Norio Kidera

人と大地の豊かさに触れるドライブの旅

, 2019/08/15

北海道はロードトリップの旅が似合う。約83,457km2の面積、東京都の38倍もある広大な土地は、都道府県でいちばんの広さを誇る。オホーツク海、太平洋、日本海に囲まれ、道南、道央、道東、道北の4つの地域に分けられる北海道は、車を走らせれば、各地域によって景色がまったく違うことに気がつくだろう。でもだからこそ、訪れる人の好みで、自分と相性のよい場所へ行けばいい。北海道の魅力はその懐の深さにある。

東京でブランディングディレクターとして、ライフスタイルを中心としたブランドのディレクションを手がける福田春美さん。北海道は故郷でもある。住んでいたころは、札幌以外はほとんど知らずに育ったという。通い始めたのはここ5年ほど前から。仕事を機に月に何度も通うようになり、やがて各地で友人も増え、いろいろなエリアを案内してもらううちに、まだまだ知られていないことがたくさんあり、北海道のポテンシャルの高さに魅了された。もっと知りたい。行ったことのない場所はまだまだたくさんある。そんな折、舞い込んだのが、北海道ドライブ旅の話。ふたつ返事で受けることを決めた。さて、ひとりドライブもいいけれど、せっかくの車旅なら旅の仲間が欲しい。そこで、オファーしたのが、アーティストの奈良美智さんだった。

「札幌にいる妹がファンでSNSをよくチェックしていて。奈良さんはよく北海道にいるみたい、という情報が入っていました。その後、この旅が決まったときにご連絡したら“北海道なら行きたい”と言ってくださって」

一方の奈良さん。北海道に行くときは栃木県の那須にある自宅から車で(!)北海道入りするとのこと。いわく「そうそう、青森にある実家にも寄りたいからね、青森からフェリーで函館まで行って。いつもひとり旅が基本だから、誰かと一緒の旅は新鮮だね。以前から、いつか斜里や白老以外にも行きたいと思っていたけど、ようやくそのタイミングがきたなと思って」

そうしてふたりの北海道ドライブ旅はスタートした。ここ数年、北海道に通っている奈良さんと福田さんには、それぞれに大切にしているエリアがある。この旅は互いがもつ特別な場所を、「ここ、いいでしょう」と紹介し合う旅でもある。だからか、ふたりとも“自分の場所”を訪ねたときは、いつもよりテンション高め、そしてちょっと饒舌になった。

 
人と出会い、自分を整える場所

福田さんにとっての北海道の魅力はなんといっても“人”だという。よく行くのは、実家のある札幌以外に、東川、根室、別海、帯広とたくさんあるが、どこに行ってもいつも、みな温かく迎えてくれる。
「みんな優しくて、おもてなし好きな人たちばかり。北海道は両手に持てないくらいお土産を持たせてくれると言うけど、本当にそう。身のまわりにある自然に敬意を払い、共存、共生を考えるリベラルな土地。私はここが故郷であることを誇りに思っています」

なかでも、別海にあるウルリー牧場の渡邊北斗さん一家は本当の家族のようでもある。
「出会ったのは数年前ですが、サイロを改修した家がかっこいいなと思って。若かりしころの大竹伸朗さんがこの牧場で働いていたことも知って、別海にこんな場所があるんだというのが最初の印象でした。その後、泊まりがけで何度か通ううちに家族のようになって。私のもうひとつの帰る場所ですね」

現在、北斗さんは仕事の合間に木彫りの作品をつくっている。北方民族の木像をモデルに創作したものだが、訪れるたびに腕が上がっていて驚くという。
「これからどんなものをつくるのか、とても楽しみな作家です」

そして、福田さんが北海道にハマった理由のひとつにクラフトの存在がある。
「網走に数百人いた北方民族の暮らしや木彫りに興味をもったことが始まりでした。その後、八雲の柴崎重行さんの熊の木彫りを見てひと目惚れ。正直、小さいころから家に熊の木彫りはあったのに、そこまでピンときてなかったのですが、編集者の安藤夏樹さんはじめ、熊を愛する方たちと出会うようになり、彼らから影響を受けました」

生物としての熊にも興味が湧き、調べると、アイヌ民族がヒグマをキムンカムイ(山の神)として崇めていたことを知った。
「知床や東北のマタギから聞いた話やネイティブアメリカンの神話のなかに出てきたことも思い出して。こんなに熊のことが好きになったのも人のご縁だなと思っています」

北海道は自分のルーツもあってか、そういったつながりを特に感じるという福田さん。
「ここに来ると東京で溜め込んだ仕事の疲れやモヤモヤしたものを、すべて解放してもらえる。いろいろ絡みついているものを解きほぐして落としてくれる、そんな感じ」

だから、福田さんにとって北海道は、“自分を整えてくれる”場所でもある。
子ども時代の記憶のなかを旅する

青森県出身の奈良美智さんにとっても北海道は身近な存在。だが、若いころは外国ばかりに目が向き、国内を旅することはほとんどなかったという。北海道に足を運ぶようになったのは、ここ最近のこと。父親が亡くなり、ひとりになった母親に会いに実家に帰るようになったのがきっかけだった。
「母とよく話すようになって、今まで知らなかった自分のルーツを聞いてね。それは母の父、すなわち自分のおじいさんが今のサハリンで炭鉱夫をやっていたり、千島列島で漁師をやっていたりと、そういうことを初めて聞いて。その風景を見たいと思って、サハリンまで行ってみた。そのときに、“北”というものが自分の血のなかでワクワクする土地に感じて、なんだかこう、故郷のような懐かしい思いがぐーっとこみ上げてきたんだよね」

2013年に東日本大震災が起きて、さらに深く考えるようになったのが、自身が育った環境である“北国”だった。
「そのときにあらためてルーツは北にあるんだという自覚、そこに対して何も知らないから、歩いてみたいという思いが芽生えた」

もう一度、子ども時代に戻って同じ場所に行ってみたい。そう考えたときにいちばん近い風景が北海道だった。
「僕が生まれ育ったのは弘前市という場所で、当時は道路も舗装されてなくて、隣の家には羊がいて、裏の家には馬がいて、何もない原っぱのようなところで育ったの。それが1970年の大阪万博のころまでには日本の経済発展とともに開発されて、砂利道がアスファルトになり、小川が消えてU字溝になり、住宅が立て込んで森や草原もなくなって、だからいつの間にか羊も馬もいなくなってしまった。でも、北海道ではそのころの光景に出会うことができる。だから観光で行く人とはまったく違う理由で、そこに住んでいた人が戻るように帰ってるんだと思う。実際に北海道に住んでたことはないんだけど、記憶のなかに帰省しているっていうか。自分と対話してる、子ども時代の自分に会いに行ってるような、ちょっと特別な感じがあるんだよね」

奈良さんの特別な場所のひとつに、斜里というエリアがある。
「自分の気持ちはいつもそこにあるから、『早く帰りたい』って思う。うまく説明できないけど、斜里はそんな場所かな。観光だと、見えるものだけを見て帰るけど、通うことで、見えないものが見えてくる。いつも泊まる『しれとこくらぶ』は、子どものとき、学校から帰ってきて自分の部屋に籠る感じと似ててね。とても落ち着くんだよね」
旅で見つけた、新しい場所

じつは、このドライブ旅のお供にと、選曲をしてくれた奈良さん。ロック、オルタナ、ワールド、昭和歌謡とジャンルも日ごとに違って、旅をいっそう楽しいものにしてくれた。奈良さんの隣に乗っていた福田さんは、曲を聞いて思わず涙する、なんてことも。
「何度も訪れた場所でも毎回違った景色に見えるのが車の旅の好きなところ。ここに音楽がリンクするといろんな感情が一気にやってきて……涙腺崩壊(笑)。これも自分へのメッセージなのかな」

そして、今回の旅の発見は斜里だったという福田さん。
「奈良さんがここ数年通われて大事にされている斜里の方々の、自由で飾らない様子や素朴ななかにも垣間見えるセンスに触れて、ここの土地がもつ特別なエネルギーを感じました。とにかく心地よくて。ひとりでまたゆっくり訪ねたいと思う印象的な場所、そして人ですね。またすぐ会いたいな」

一方、今回、奈良さんが印象に残った場所は旅のゴールだった音威子府村。
「人口700人くらいの村で、自然の姿がそのまま残っていて、あんまり観光客が来ないから変わることなく、それがよかったのかな。砂澤ビッキというたったひとりの芸術家が来たことで、村の高校に工芸科ができたり、空気が変わった。あのアトリエに、イギリスのデイヴィッド・ナッシュって有名な作家も来てたことを知って、機会があれば僕もここに滞在したいと思ったね。自分には、関わっていく訪れ方と、客として来る訪れ方があるなと思っていて。そのふたつを考えながら、自分はどんなことができるかといつも考える。お礼っていうのかな。自分をつくってくれた故郷だったり、風土だったりにお礼をしたい。だから、いつでも興味は北にある」

この旅をとおして、新たな発見があったというふたり。今度はこっちのルートで旅したいねと新しいドライブ計画も立て始めている。狭い車内で同じ時間と景色を共有していたからか、旅が進むにつれ、不思議な連帯感が生まれていた。話し込んだり、本音が漏れたり、無言でも気まずくなかったり。同乗者の距離まで縮められるのは、車だからこそ。走行距離およそ2,000kmのドライブの旅は、ロードムービーが終わりを迎えるように静かに幕を閉じた。
  
奈良美智 |Yoshitomo Nara
1959年、青森県生まれ。美術家・画家・彫刻家。1988年、渡独。デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学、卒業後はケルンを拠点に作品を制作。2000年に帰国。国内外での展覧会で発表を続け、男女問わず幅広い年齢層から支持される。ニューヨーク近代美術館(MoMA)やロサンゼルス現代美術館に作品が所蔵されるなど日本の現代美術を代表するひとり。

福田春美 |Harumi Fukuda
1968年、札幌生まれ。ファッションディレクターとして活躍したのち、渡仏。帰国後、ライフスタイル全般のブランディングディレクターの活動を始める。最近の仕事に、十勝の「MEMU EARTH HOTEL」など多数。北海道の若いクリエイターや埋もれたクラフトに光を当てるべく、北に通う日々。近著に『ずぼらとこまめ』(主婦と生活社)。
 
» PAPERSKY #60 HOKKAIDO | Drive Issue

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