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森と人をつなぐ、飛生アートコミュニティー

1986年、廃校跡地に生まれた飛生アートコミュニティー。春からの森づくり、9月の芸術祭とキャンプイベントなど、この地では自然とアートが融合した舞台が繰り広げられている。主催者、参加者が一体となった活動を紹介する。 廃校を […]

08/07/2019

1986年、廃校跡地に生まれた飛生アートコミュニティー。春からの森づくり、9月の芸術祭とキャンプイベントなど、この地では自然とアートが融合した舞台が繰り広げられている。主催者、参加者が一体となった活動を紹介する。
廃校をアートの場として活用する例がここ最近増えているが、今年で34年目を迎える「飛生アートコミュニティー」はその先駆けといえる。飛生エリアは、北海道白老町の中心部から車で20分ほどの場所にある。飛生小学校が廃校したのは1986年、その後、彫刻家の國松明日香さんらが芸術家の共同アトリエとして設立した。校舎と教員住宅を借り、メンバーが住みながら、もしくは週末に通いながら創作活動を行ってきた。現在、明日香さんの息子である彫刻家の国松希根太さんが受け継ぎ、アトリエとして利用し、飛生アートコミュニティーの代表も務めている。
「僕は2002年に加入しました。現在につながる飛生芸術祭がスタートしたのは2009年。メンバーも増え、2011年からは、8日間にわたって開催するようになりました。同時に“飛生の森づくりプロジェクト”も始め、芸術祭最初の2日間は“TOBIU CAMP”のイベントがあります」
このイベントには、道内外から毎年1,000人以上が訪れるという。
「なかでも重要なのは、森づくり」と話すのは、トビウキャンプ統括ディレクターの木野哲也さん。校舎裏に広がる1万㎡もの森を再生させる活動は、毎年春になると「飛生の森づくりプロジェクト」としてスタートする。
「春からの森づくりに始まり、そのメンバーで9月の芸術祭とキャンプの運営まで行うことが多いです。自分たちが汗をかいて働いた森が表現の舞台になるのは喜ばしいことですから」
 
国松さんや木野さんが森づくりを構想した当初は、閉校後にずっと放置されていたこともあり、大人の背丈ほどある笹が鬱蒼と生い茂っていたという。現在、森づくりは月に1〜2回。参加スタッフはトータルで100人ほど。うち1回に集まるのは20〜30人くらいで遠方からもやってくるので、1泊2日の合宿スタイルで寝食をともにする。地元の人たちも参加してくれるようになり、一緒に活動することで、仲間意識も芽生えたという。
一方、森づくりは整えるだけではなく、表現の場という面ももっている。飛生の地名は、アイヌ語で「ネマガリダケ(トップ)の多い(ウシ)ところ(イ)」という説と、『北海道蝦夷語地名解』に記された「Tupiu 鳥の名、黒き鳥なり此鳥多きにより名く」という、ふたつの解釈がある。国松さんいわく「Tupiuという黒い鳥が見守る森と、そこに共存する人間の物語を表現したいと思って。この森には神話があるという設定から、ストーリーに沿ってみんなで台本を共有し、舞台作品をつくり上げていくようなイメージです」
この芸術祭に参加するアーティストのひとりに奈良美智さんがいる。2016年、北海道を訪れた際に飛生に立ち寄った奈良さんは、そのときの様子をこう語る。
「たまたま訪ねたら、ちょうど森づくりの日だった。みんなと一緒に働いて、一緒に晩御飯を食べて、そうして交流しているうちに、また自分も森づくりに参加したいと思うようになって」
その後、芸術祭へも参加することになるが、当初はその雰囲気のなかで「自分がお客さんな感じ」がして、次の年からは1ヶ月ほど住み込み、制作にあたった。
「とはいえアトリエにこもっていると、自宅でやってることと変わらない。それじゃいけないと思って、まずはこのエリアを探索しました。地元の店で食事したり、漁や畑を見にいったり。街の空気と仲よくなろうと」
生活をしながらローカルの空気を肌身で感じ、地元の人との交流をとおして制作にあたったという奈良さん。
「本来の自分の作品からは離れていくんだけど、普段は美術館で見ることが多いから、ここでしかできないこと、自分の作品ではないようなものをつくったり、展示したりしたいなと」
毎年9月に開催される芸術祭とキャンプは、いわば春から始めた森づくりの成果発表の場となる。芸術祭では、地元住民や一般人に、開放された校舎や森を散策しながら作品展示を楽しんでもらい、最後の2日間では、音楽ライブ、ダンスパフォーマンス、演劇、そして、キャンプファイヤーを囲んでのアイヌの伝統的な歌と踊り「ウポポ大合唱」など、非日常の時間を味わう舞台を体感してもらう。
「森づくりのゴールが芸術祭とキャンプになるよう、3つのプロジェクトの連動を大切にしています」と木野さん。国松さんも「居場所をつくり、住みよい社会になるよう影響を与え合うこと。よりよい世界を描き出したいというのが目標です」。
芸術祭のサブタイトルは「僕らは同じ夢をみる─」。飛生でつながるコミュニティー。訪れる者もまた、ここで新しい価値に触れ、思いをシェアし、“同じ夢をみる”ことができるに違いない。
 
» PAPERSKY #60 HOKKAIDO | Drive Issue
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今年の開催についてはこちら。
飛生芸術祭 2019 「僕らは同じ夢をみるー」
期間:2019年9月7日(土)〜15日(日)
時間:10:00-16:00(9月7日、8日はTOBIU CAMPに準じます)
会場:飛生アートコミュニティー校舎と周囲の森
北海道白老郡白老町字竹浦520(旧飛生小学校)
入場料:ドネーション制(期間中会場に募金箱を設置)、高校生以下無料
※9月7日、8日は、飛生芸術祭のオープニングイベントとして、キャンプイベント「TOBIU CAMP 2019 森と人との百物語」を開催。この期間は、別途「TOBIU CAMP」の入場チケットが必要になります。
飛生芸術祭
https://tobiu.com/