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  • Photography: Jules Davies
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モデル&写真家の琉花さんとアメリカ・ニューメキシコ州へ

, 2018/12/04

モデル、そして最近ではフォトグラファーとしても活躍する琉花さんが、ニューメキシコ州アルバカーキの空港に降り立ったのは、9月も末のある日のこと。初めて訪れるニューメキシコは、思っていたよりもはるかにエキゾチックだった。プエブロ様式を意識してデザインされた空港コンコースを歩いたとき、ここはいわゆる“アメリカ”ではないのだと、直感的に悟った。

「ニューメキシコのこと、ジョージア・オキーフのこと。じつはほとんど前知識なしにやって来ました。ありとあらゆる情報を手に入れられる時代だけれど、あえてそうしたくなかった。無色透明の頭のまま、実物を見たかったのかもしれません」

オキーフが好んで描いたアドービの建物を見学しにタオス・プエブロへ出かけたのは、奇しくもタオス・プエブロの守護聖人であるサン・ジェロニモを祀る、年に一度の大イベントの前日だった。タオス・プエブロは、1,000〜1,500年の間につくられたアドービの家が立ち並ぶ古代遺跡だ。プエブロ族の社会は口頭伝承で、文字をもたなかった。そこに文字をもち込んだのが、カトリックの神父で文学者のサン・ジェロニモだ。プエブロ族の90%は敬虔なカトリック教徒だが、それは一般的なローマカトリックとは大きく異なる。自然崇拝に根ざしたネイティブアメリカンらしい宗教観と、スペイン人が広めたカトリックの教えが複雑に絡み合ったものだ。それはタオス・プエブロの中心である聖ジェロニモ(ジェローム)教会にもよく表れている。詳しい歴史や宗教観までは追えないにしても、その独特の表現は強烈なインパクトを与えた。

「ネイティブアメリカンのリザベーションを訪れたのは今回が初めて。目にするものすべてが新鮮でした。教会の祭壇や装飾もカラフルで、どこかフォークロリックなイメージ。ヨーロッパで出かけた教会とはまったく別物でした。祭壇でも、イエズス・キリストではなく聖母マリアが主役なんですから」

粘土と藁でできたアドービの家は原始的に見えるけれど、日差しを遮って室内を快適な温度に保つ、見た目以上に機能的なつくりに興味をもった。

「500年以上も昔に建造された家に、現在も100人以上のプエブロ族が生活していると聞いてびっくりしたけれど、実際にここを訪れて伝統と機能の融合を実感しました。『現代の暮らしを営む古代遺跡』という図も、不思議と腑に落ちるような。心残りは、サン・ジェロニモのお祭りを見逃したことと、お祭りの準備のために写真撮影が一切、禁止だったこと。オキーフが描いたように、あの建物を私もフィルムに残しておきたかった」

「土っぽいスパイスの香りがした」というタオスに対し、サンタフェではよりモダナイズされた、現代のニューメキシコを実感する。プエブロリバイバル様式で統一された美しい街並みに無数のギャラリーや美術館が軒を連ねる。ウィンドウを飾るのは、写真、絵画、彫像、映像、オブジェ、ありとあらゆるメディアを駆使したアートの数々だ。 「サウスウエストの砂漠にアーティストが引きつけられるのは、強烈に降り注ぐ太陽の光を求めるから。ピュアな光と、天上のカラーパレットがアーティストのインスピレーションを刺激するんだよ」と教えてくれたのは、タオスにある「The Harwood Museum of Art」のキュレーター、ガス・フォスターさんだったが、フォトグラファーとしても活動するガスさんの言葉は、同じく写真を撮る琉花さんにも響くところがあったようだ。琉花さんのなかでは「ジョージア・オキーフといえば『花』というイメージがあった」というが、アビキューのオキーフの家を訪ね、サンタフェの「Georgia O’Keeffe Museum」で実際の作品に触れてみると、花ではなくて晩年に描いた風景画や抽象画に共感した。

「空気が乾燥していて標高が高いニューメキシコの陽の光はあまりに強烈で、同じ景色を見ていても時間帯によってまったく違うものを眺めているような気がしてしまう。アビキューのオキーフの家は、どの部屋も大きな窓から外の景色を見渡せるようになっていたけれど、『一瞬たりとも目が離せない』という、はやるような気持ちがよくわかる。私自身、雲や空の色、みんなで歩いたアスペンの森のトレイルの、木の葉のグラデーション……、他のどこにもないような光に出合って、ここがアートの街といわれる理由が実感できた気がします。だって、アビキューの砂漠で見たサンセットは、本当にスペシャルなものだったから」

光が、風景が、人をインスパイアすることがある。写真を始めた琉花さんも、それをリアルに体感したことがある。

「私の父もフォトグラファー。幼いころからカメラ機材に囲まれていて、写真を始めたこともその影響があったと思います。けれど、カメラやレンズについて教えてくれることはあっても、父と私が写真について語り合うようなことはただの一度もなかったんです。ところが、5年前にウィーンを旅行した際に撮影した写真を現像してみたら、父が十数年前にまったく同じ場所を、同じ画角で撮影していたことがわかったんです。なんてことのない、細い路地のグラフィティだらけの壁だったんですが。場所やものには不思議な力があって、一体どんな化学反応が起こっているのかわからないけれど、撮り手や描き手を無性に刺激することがある。ここにはそういう場所やものが無数にあって、だからそれを求めるアーティストたちが今も昔も集まってくるんでしょう」

ニューメキシコのオキーフの作品には、たしかにそのケミストリーがあった。自らの心を震わせたものをキャンバスに写し取りたいとただひたすら筆を走らせた、オキーフのほとばしるような情熱が凝縮されていた。ニューメキシコの荒地に潜む何かが、その情熱を引き出したのだ。

「ニューメキシコに滞在して、オキーフの作品に出合ったことで、もっと知りたい、もっと撮りたい、もっといろいろな場所に出かけたい、そんな気持ちに突き動かされるようになりました」と琉花さん。ニューメキシコにはたしかに、人を動かすパワーがある。それはポジティブで原始的、人の本能に働きかける力だ。歴史、文化、アート、食、砂漠、人によってその対象はさまざまだけれど、それに対する情熱を掻き立てるパワーこそが、ニューメキシコのおもしろさであり可能性なのだろう。

「今はただ、早く日本に帰ってフィルムを現像したい。私があのとき、ファインダーで捉えたニューメキシコの光が、色が、どう写っているのか、それを見てみたい」

果して、ニューメキシコでどんな風景に心を揺らしたのだろうか。続きは本誌(P.46)のフォトエッセイにて。
 
琉花|Luka
1998年、東京生まれ。オーストラリア人の父と日本人の母をもち、生後3ヶ月からモデルを務める。フォトグラファーの父親の影響で、15歳からアナログカメラを使って写真を撮り始め、昨年はフォトグラファーとして初の個展『VOYAGE 2014-2017 luka』を代官山のギャラリーで開催。幼少のころから続けている旅をテーマにした作品を発表した。luka-photo.com
 
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