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  • Photography: Nahoko Morimoto
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オアハカの多様性を映す民芸の愉しみ

, 2018/09/12

民芸という言葉のなかには、日常生活で使われる工芸品を愛でる楽しさが含まれている。アルテサニアと呼ばれる民芸のつくり手を訪ねることで、紀元前から続く先住民族サポテコ族の暮らしに思いを馳せ、ゆったりと流れる時間を知った。

メキシコ民芸のすばらしさを世界に伝えた建築家でありデザイナーのアレキサンダー・ジラルドを筆頭に、日本では太陽の画家と呼ばれた利根山光人など、その色彩に魅せられた先人は多い。彼らが“ミッドセンチュリー”の時代に収集した民芸品には、独特の手触りがあり、その拙さも含めてすばらしいものだった。50年以上も前の品々を撮影した写真集を眺めて、現在はとっくに失われてしまっているのだろうとオアハカを訪れると、きっと驚くことになる。市場でどこからともなく寄ってくる売り子たちが手にしている品々に、思わず目を留めてしまうはずだ。そこには“ミッドセンチュリー”よりはるか以前から脈々と続く手仕事の誇りが随所に見られ、同時に新しい時代に届くブラッシュアップがある。たとえば日本でも見かけることのあるメルカドバッグは、ビニール素材をかつての籠の編み方で仕上げてある。刑務所でつくられるものだが、籠を現代風にアレンジしたスマッシュヒットだろう。民芸とは、本来、暮らしのなかにあるもの。あらゆるものを自分たちの手でつくり上げてしまう彼らの姿に、どこかなつかしい感慨を抱くのではないだろうか。オアハカには伝統を受け継ぎながら、今の時代にも輝く仕事が無数にある。10年以上オアハカに暮らし、アルテサニア(民芸)についての著書をもつ櫻井陽子さんにすばらしいつくり手を案内してもらった。

最初に訪れたのは、メキシコのビビッドな色合いを最も映すアレブリヘスの工房。木彫りの動物たちなのだが、その形、彩色につくり手の個性が表現される。世界的な評価を受けているハコボさんとマリアさん夫妻の作品は、先住民族であるサポテコ族の暦、サポテコカレンダーに登場する20の動物たちを組み合わせたもの。生年月日によって、守護動物が2種類定められているという。ウサギと魚、ジャガーとカメレオン、といったように組み合わせることで不思議な動物の形が現れる。そこに「権力を指す蛇の鱗」、あるいは「尊敬や崇拝の意味をもつ魚」など、古くから伝わる幾何学的で繊細な文様を描いていく。伝統的な形や文様を用いて新しい表現を生み出す彼らのスタイルが現在のアレブリヘスのスタンダードとなって、多くのフォロワーを生んでいる。合成塗料を使うこともあるのだが、重要な作品には必ず天然染料を用いている。木彫りに用いられるコパルの赤い皮、ざくろ、サボテンにつく貝殻虫・コチニージャなどから色を取り、混ぜ合わせて色をつくり、多様な表現を生む。伝統やルーツに対する意識が、彼らの作品をスペシャルなものにしているのだろう。ハコボさんは将来的に、自身のアトリエを芸術学校にしたいと考えているという。実際に多くの若者たちが技法を学びながら働いていたが、手仕事の芸術への昇華が、民芸品の未来としてのひとつの回答であることを示している。ちなみに、オアハカもモデルにしたといわれるディズニー映画『リメンバー・ミー』は、ハコボ&マリア工房からも多くのヒントを得たという。

メキシコの民芸品を語るうえで、天然素材や天然染色は、伝統を受け継ぐという意味でひとつの象徴的な事象かもしれない。ミトラ村で織物を営んでいるアルトゥーロさんが、コチニージャで糸を染める工程を教えてくれた。乾燥させたコチニージャを1匹取り出して噛み、その色がどれほど鮮やかなのかを見せてくれた。乾燥させたものをすり潰し、水に浸けて煮立たせてひと晩置いたものに色止めのミョウバンを入れ、さらにもう一度煮立たせる。ゆっくりと羊毛束を入れていくと、一気に色素を吸い込んで、紫蘇の色のような鮮やかなピンクに染まった。この羊毛糸が乾くと色は落ち着き、綺麗なピンクの糸になる。天然染色は、染めたても、乾いた後も、染めていくすべての過程が美しい。アトゥーロさんが織ったブランケットには、繊細な色がアクセントとして使われている。

染色の次は、織りの工程を見せてもらった。櫻井さんが「腰織り」と呼ぶ、ベルトを腰に巻いて体重をかけ、簡素な織り機を引っぱりながら織っていく技法。オアハカのいくつかの村に「腰織り」が受け継がれているが、それぞれの村に個性があって、アルトゥーロさんの暮らすミトラ村にも村に伝わる複雑な織り方がある。しかし、この織り方ができるのは、彼を含めてもう3〜4人だけしかいない。プレ・イスパニコ、つまり16世紀にスペイン統治が始まる以前の技術の多くが失われつつあるという。ちなみに機織り機はスペインによってメキシコにもたらされている。アルトゥーロさんはこの技術を祖母から習い、息子へと伝えたが、息子は小さな村を出てしまった。古典的な織物だけでは、現代の生活費を稼ぐのはなかなか難しいのだろう。あと10年後には失われているかもしれない技術を目の前で見せてもらった。

日本に民芸品を卸している櫻井さんは、彼らと一緒に仕事をしている立場からの考え方を聞かせてくれた。
「彼らの仕事がどれだけ手間のかかるもので、希少なものなのか、きちんと伝えていく必要があるなと思うんです。当初は日本風にアレンジした方が広く受け入れてもらえるのでは?と考えていたのですが、やっぱり伝統的な昔ながらの作品の良さをわかってほしい。私がつき合っているつくり手たちは本当に誠実に仕事をしていますから」

櫻井さんのように民芸品を買いつける仕事は、伝統を現代につなぐ役目の一端を担っているのかもしれない。

一方でオアハカ市内にあるセレクトショップでは、職人がつくる伝統的な品を扱う他に、現代の生活にフィットさせるためオリジナルのデザインを発注していた。あるいは綿糸や絹糸は店が染め、それぞれの村に織りだけをオーダーすることもあるという。伝統がベースにあるからこそ、現代版のクラフトも生まれて行く。どちらもあることが、未来に長く受け継いでいくために必要なことなのかもしれない。

櫻井さんが、「日本人にとっての着物と同じようなものなんですよ」と紹介してくれたのが、サン・アントニーノ村のマリアさんの刺繍工房。「着物のよう」とはメキシコの人々にとって祭りの際に着る正装であり、心の拠りどころでもあるという意味。そして、つくるのにとても手間がかかるというのも同じだろう。手の込んだものになれば、1着を縫い上げるのに4ヶ月以上かかるという。とにかく時間を見つけてはチクチクと、白地にマルチカラーで刺繍をしていく。12歳のときに母から刺繍を習い始めたというマリアさんは、かつて小学校の授業でも刺繍を習ったという。隣に座るのはまだ10代の姪っ子と80歳を超えるロサおばあちゃん。世代を超えて受け継がれていく姿を見せてくれた。多くの村に刺繍はあるが、それぞれの村を象徴するような柄があり、サン・アントニーノ村はバラとパンジーの花柄だった。

市内にはテキスタイルミュージアムがあり、それぞれの地域の個性を展示している。過去と現代の違い、あるいは地域の違いによってどれほどの差があるのか。訪問時には地域別に古い子ども服を展示していたが、古いテキスタイルに宿る“何か”は確実にあって、時代によって美しさは変化していくことがわかる。

オアハカ民芸の多様性は、それぞれの地域の気候に由来すると櫻井さんは教えてくれた。高地で気温が低い場所では羊毛が必要であり、豊富な粘土質の土が見つかれば陶器をつくることができる。刺繍にはその土地に咲く花が縫い込まれていく。山に暮らすそれぞれの民族が農産物を背負って街へと下りていくのと同じように、自分たちでつくった民芸品を背負って街へやってきていたのだろう。オアハカ民芸の多様性は、そのままオアハカという土地の多様性を示している。

コヨテペック村でつくられているバロネグロという黒い陶器は、2,500年前から製法が変わっていないという。モンテ・アルバン遺跡からも、水差しの陶片が発掘されている。30日間かけて土を乾かすカンタロというつくり方こそが、非常に軟らかいこの土に合ったつくり方なのだと、いったい何代目になるのか、ハビエル・ニエトさんが言った。

ひとつの器、ひとつの刺繍のなかに流れる時間の雄大さを知るほどに、クラクラしてしまう。伝統という大きな時間軸のなかに、さらに現代のつくり手の人生が織り込まれて、織物は少しずつ長く広くなっていく。それぞれの村で、それぞれのつくり方で続けられてきたものが、今も当たり前に売られている。

櫻井陽子 Yoko Sakurai
2006年6月にオアハカに移住し、「さる屋」を主宰。オアハカ民芸品を専門に扱い、現地の生産者と共に生産管理や販売・卸の仕事をする傍ら、取材コーディネイトやアテンドなど、工房訪問の案内人としても活動している。2014年にはオアハカの魅力を紹介した著書『アルテサニアがかわいいメキシコ・オアハカへ』(イカロス出版)を出版。 saruyaoax.com

>> PAPERSKY #57 MEXICO, OAXACA|Food & Craft Issue

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