Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

どこでもない、どこでもある、森の話|PAPERSKY book club

1994年から続く「こそあどの森」シリーズが、ついに完結した。娘が祖母から贈られた、ボックスセットを読ませてもらったら、これが面白い。序文には毎回こんな一文が書かれている。 この森でもなければ/その森でもない/あの森でも […]

03/05/2018

1994年から続く「こそあどの森」シリーズが、ついに完結した。娘が祖母から贈られた、ボックスセットを読ませてもらったら、これが面白い。序文には毎回こんな一文が書かれている。
この森でもなければ/その森でもない/あの森でもなければ/どの森でもない/こそあどの森こそあどの森
住人には、本を読んだり石や葉っぱを集めるのが好きな少年、スキッパ、毎回名前が変わるふたごの女の子、ポット型の家に住むポットさんとトマトさん。いつも遠くに研究に行っていて、登場はしないしないがたまに手紙が届く、博物学者のバーバさんもいる。
彼らに、毎回ちょっとした事件(ともいえない出来事のようなもの)が起こる。たとえば、ナンデモ島のバーバさんからスキッパに届いた、“ポアポア”という固い木の実の料理法を、みんなで考える話(「ふしぎな木の実の調理法」)や、こそあどの湖に恐竜を探しにやってきた、学者のイツカと相棒のカワウソの巻き起こす小騒動(「あかりの木の魔法」)といった具合だ。
ハリー・ポッターにも指輪物語にもどうしても乗れなかった僕にも、違和感なく物語に入っていけるのはなぜだろう。ヒントは、こそあどの森という場所にある。どこでもないということは、どこでもあるということ。裏山かもしれないし、子どものころ訪れた田舎かもしれない。そして物語が森から出ることはけっしてない。森=世界で、読んでいるうちに頭のなかに地図ができている。
登場人物の浮世離れした感じも逆に現実的だ。とんちんかんなことを言うおばさんがいるなあ、とか、ふたごってこんな風に通じ合ってたりするよなあ、って思い出したりする。
最後に優しい線で描かれた挿絵だ。作家になる前は小学校の用務員をしていたという岡田淳さんの描く挿絵は、状況というよりも世界観を伝えるものとして描かれる。スキッパの家の断面図なんて、雨水がシャワーの水になり、浄水して地面に排水する装置まで描かれていて妙に納得させられる。
“ポアポア”のジャムを食べたスキッパの感想が、そのまま僕のこの本への感想だ。
「あまくて、さわやかで、まろやかで、しあわせで。」
こそあどの森、来てみません?
 
こそあどの森の物語 完結セット(全12巻)
岡田淳 理論社
http://amzn.to/2BgLDC8