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オスカル・ブレケル/日本茶伝道師|PAPERSKY INTERVIEW

, 2018/01/04

出身国であるスウェーデンでは、おいしい日本茶は手に入りづらいうえ、情報すらろくにない。日本茶と出合い、その世界に身を置きたい一心で日本語を学ぶところから始めたオスカル・ブレケル氏。彼の日本茶に対する眼差しや言葉に、私たち日本人ははっとさせられる。身近な存在だからこそ気づいていない日本茶という宝が、足元にあることを。
 
―オスカルさんと日本茶との出合いは「ひとめぼれ」ではなかったと聞きます。

スウェーデンはコーヒーが主流の文化なのですが、うちでは両親とも紅茶を好み、私も幼いころから紅茶を飲む家庭で育ちました。日本茶を飲むきっかけは高校の世界史の授業で、日本が他のアジア諸国とは違う独自の道を歩んだことに興味をもったから。調べていくうちに「侘び寂び」の文化と出合い、お茶へと行き着きました。ところが淹れ方がわからず、紅茶と同じように熱湯のなかに茶葉を5分間くらい浸してから飲んだから、青くさいうえに、苦みと渋みがひどい。少しもおいしいとは思えませんでした(笑)。
 
―それでも飲み続けたのは、何かの魅力を感じたから?

それはひとえに母のおかげ。食べ残しに厳しくて、基本的に食べ物を捨てないので、お茶もがんばって飲んでいました。すると6回目くらいに苦みと渋みの奥にさわやかな香りがあるのを感じたのをきっかけに、だんだんと日本茶が好きになりました。今振り返ると、この出合いは人生を変えたできごとでした。
 
―抹茶や中国茶を好む外国人が多いなか、どうして煎茶だったのでしょう?

抹茶はもちろん、中国や台湾のお茶も飲みました。子どものころから飲んでいたので紅茶も好き。いろいろ飲んで楽しんでいましたが、日本の煎茶は特別なものがあって、毎日飲みたいと思うのはこれでした。紅茶だと「香り」「渋み」、コーヒーだと「香り」「苦み」があるのに対して、日本茶は「うまみ」「甘み」「渋み」「苦み」「香り」と他の嗜好品より味の要素が多い。しかも「うまみ」は他の嗜好品にないばかりか、日本茶は淹れ方によって全然違う味を引き出せる。最初は水や低温で淹れて「うまみ」と「甘み」を引き出す。そのあとはだんだん温度を高くすればさわやかな渋みと上品な苦みを楽しめる。これは煎茶ならでは。
 
―スウェーデン、マルメ生まれのオスカルさんは、フィーカ文化のなかで育ってきました。日本茶とフィーカの相性は?

今はどこに行ってもなんでも速いし慌ただしい。それが私たちの生活。そんななか、フィーカは忙しくてもいろいろと話し合える時間をつくりましょうというもの。その環境をつくり出すのがコーヒーです。ほとんどのスウェーデンのローカルカフェはコーヒーのおかわりが無料。時間をかけて飲むというのがフィーカのポイントだからです。そういう意味でいうと、日本茶も時間をかけて味わうものだからフィーカとよく合う。日本茶好きの友人には、煎茶でフィーカをする人もいます。私もスウェーデンにいたときは日本茶の香りが好きで、日本茶でフィーカをしていました。日本に興味があったけれども、日本は遠く、まるで別の星だと思っていました。でも、日本茶を飲むことで、日本の山奥へと瞬間移動できた。日本茶というのは自分を別世界へ連れて行ってくれるものだとも思います。
 
―日本茶もフィーカに向いているんですね。スウェーデンでは会社でもフィーカの時間があるとか。

スウェーデン人はフィーカの時間がないとストレスになってしまいます。学校でも会社でも家庭でもフィーカは必要。くつろぎ、癒しの意味合いもありますが、コミュニケーションの面でもいい作用をもたらします。たとえば会社では会議の場で言えなかったことも、フィーカの時間なら上下関係を気にせず誰もがざっくばらんに話せる。「こうしたらいいんじゃない?」というアイデアを生み出す時間でもあります。知り合って間もない人と、「とりあえずフィーカしましょうか」とビジネスの可能性を探る場をもつのは、日本で「ちょっと一杯」と言って酒場に誘うのと似ているかもしれません(笑)。あとは恋人たちのフィーカもある。私はそれを日本茶でやればいいと思っています。
 
―恋人たちのフィーカを日本茶で?

日本とスウェーデンのデート文化はまったく違います。日本だとデートというと遊園地や水族館に行きますが、スウェーデンの感覚だと、そうしたものが間に入ることで、お互いを深くまで知ることができない。ところがお茶を飲みながらフィーカすれば、相手と向かい合いながらゆっくり話ができる。
 
―外からの視点で見ていくと、日本茶自体に関しても、日本人が気づいていない魅力があるのでしょうね。

ほとんどの日本人は、お茶は大事なものだと思っている。急須のある家庭は減っているかもしれないけど、ペットボトルのお茶を含めれば日常生活の一部で、ないと困るもの。でも、あまりこだわって飲んではいないのが一般的。でも、ずっとこだわらずに飲むのはもったいないなぁと私は思います。さっきも言ったように、日本茶の魅力は、癒し、くつろぎを与える存在であるとともに、コーヒー、紅茶にはない味の幅があって、嗜好品としてのおもしろさもある。しかも、同じ葉を使っても淹れ方によって全然違う味になる。これは他の嗜好品ではなかなかないもの。それと、日本のおもしろいところは地域によって料理の文化が変わるように、日本茶も産地によって違いを楽しめるものもある。
 
―日本茶はいろいろな産地のお茶がありますが、そのほとんどがブレンドで、味の違いを感じにくいのが現状です。

私も来日する前は、もっと産地や品種によって違いがあるのではないかと期待していました。でも、実際は九州のお茶でも静岡のお茶でも似たような味のお茶が多い。がんばって探したけれどもなかなか個性のあるお茶に出会えませんでした。新しい扉が開いたのは、表参道にある日本茶カフェ「茶茶の間」を知ったのがきっかけです。香りや味などそれぞれに違うプロフィールをもつ品種茶に魅了されました。こうしたお茶が日本にもたくさんあるのです。日本人にはワインの品種を知っている人は少なくない。お米もリンゴやトマトなどの品種もよく知られている。でも、日本茶の品種についてほとんどの人は知らないのが現状。これはすごくもったいない。現在、日本で登録されている品種茶は100種類以上。花やハーブの香り、枝豆や綿菓子の香りがするお茶もあります。
 
―品種茶があまり出まわらないのはどうしてなのでしょう?

これは日本茶の流通に関わりがあります。生産者は基本的に「荒茶」というものをつくりますが、不揃いで雑味と青臭みがある上に水分がまだ十分に減っていないため長期保存に向いていません。火入れ(乾燥)と篩分けをして、要するに商品に仕上げるのは茶問屋の仕事。ところが、多く農家さんの荒茶を仕入れている問屋さんは、仕上げだけでなく、合組(ブレンド)もします。ブレンドすることによって、価格も香味も安定している商品を毎年つくることができますから。最近は個性や特徴があることが注目されるようになってきましたが、以前はどちらかといえば安定していることや目立たないことが重要視されていました。
 
―そんななかでも現在は様々な品種を楽しむ環境はだいぶ整いつつある?

はい、だいぶ品種茶を扱うお店が増えてきました。それにともない、もともとコーヒーや紅茶のよさを理解していた人たちが、嗜好品としての日本茶の魅力に気づいてきた。日本茶って品種はもちろん、地域や生産者によっても違うものが楽しめる世界。しかもこれはどこか遠い国のものでなく、日本でつくられている。毎日高級な品種茶を飲む必要はないんです。お茶っていろいろなかたちがあって、いろいろな接し方があることを知ってほしい。そして、たまにはいいお茶をゆっくり飲む時間をつくると、人生、豊かになるんじゃないかと思うんです。
 
―オスカルさんは海外でも日本茶のセミナーを多数行っています。日本茶は世界的に注目されているのでしょうか? 

欧米と東南アジア、中東地域の一部の国で注目が高まっているように感じます。アメリカやドバイなどでは、日本茶、特に抹茶は体にいいというイメージが強い。健康だから、効果が期待できるからという合理的な飲み方をされている気がします。現在、日本茶の輸出1位はアメリカで、およそ40%を占めています。
 
―国によってアプローチが違う。

はい。合理的なアメリカに比べて、ヨーロッパは文化的。嗜好品としてのよさを認めながら、ライフスタイルの一部として取り入れたいと思う人が多いようです。ただこれはあくまでも傾向の話なので、当然のことにアメリカにでもヨーロッパにでもいろいろな人がいます。
 
―日本茶を勉強した当初の目標は、スウェーデンにお茶の知識を持ち帰り、よいお茶を販売したいというものでした。現在、その気持ちに変化はありましたか?

もちろん、スウェーデンにお茶を提供したい気持ちは変わりません。でも、日本でお茶に関わる仕事をしている今こそ、お茶は一生勉強し続けるものであり、自分の強みは日本にいることだという気持ちを新たにしています。今はワールドワイドに欧米、東南アジアなどにPR活動をしていくとともに、近いうちに自分のブランドをもち、軌道にのったら海外にも輸出したいと思っています。
 
オスカル・ブレケル Per Oscar Brekell
1985年、スウェーデン、マルメ生まれ。高校時代に魅了された日本茶を学ぶため、スウェーデンのルンド大学で日本語を習得し、2010年に岐阜大学へ留学。2013年に再来日して就職。2014年、2度目の受験で合格率30%の「日本茶インストラクター」の資格を取得した。2015年、静岡農林技術研究所茶業研究センターの研究生として1年を過ごす。現在は日本茶セミナーやイベントの講師などをしながら、国内外に日本茶を紹介する活動を続けている。
www.brekell.com
 
ブレケル・オスカル著 「僕が恋した日本茶のこと」 駒草出版
http://komakusa-pub.shop-pro.jp/?pid=120407629
 
» PAPERSKY no.55 SWEDEN | FIKA Issue

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