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  • Photography: Gustav Karisson Frost
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菓子研究家・長田佳子さんと“フィーカ”の国、スウェーデンへ

, 2017/12/18

スウェーデンの人々が、フィーカを言葉で説明するのが難しいのと同じように、長田佳子さんがつくるお菓子もまた、ひと言には収まりきらないいくつもの魅力をもっている。

「foodremedies」という屋号で活動する長田さんは、自らのことを「菓子研究家」としている。20代半ばでパティシエールの道へと進み、郷土菓子のような素朴なものからデコラティブなケーキまでさまざまにつくり続け、15年かけて今のお菓子づくりへとたどり着いた。季節の素材を引き立てるような調和のとれた控えめな甘さ。スパイスやハーブをささやかに効かせた実験的で新しい味覚をもたらす組み合わせ。そして、郷土菓子ほど質素ではなくフランスケーキほど豪奢ではない、可憐な野花のようなデコレーション。ひと口食べると心がほどけるようなお菓子をと、彼女は屋号に「フードレメディ」と名づけた。

「この旅で出会った陶芸作家のインゲヤードさん(P.34)から『フィーカは、次の瞬間をもっとよくするためのセラピーのようなものなのよ』と教えてもらったときは嬉しくて。自分が身につけたお菓子づくりというささやかな技術で、少しでも誰かの役に立ちたいとfoodremediesを立ち上げたときの思いを、その言葉を聞いてあらためて強くしました」と長田さん。

いつ何をどう食べるかといった決め事よりも、一日のなかに「いい時間」をつくること。このセラピー的なフィーカの時間こそが、いい仕事、いい関係を育んでいくのだと、この街の人は口々に言う。そしてもうひとつ、いい時間を過ごすために、おいしいものは欠かせないのだとも。

「ペターとデイビッド(P.40)のふたりに会ったとき、『おいしいものがいい時間をつくるんだ』と繰り返し言っていたのが印象的でした。私はどちらかというとお菓子には紅茶を選ぶほうで、ペターさんの『紅茶はいろんなお菓子を受け止めてくれる』という言葉にとても共感したのですが、デイビッドさんが焙煎したコーヒーを飲ませていただいたとき、マイルドで瑞々しく、でもふっくらと奥行きのあるお菓子に寄り添ってくれるような味わいで、ああ、こんなコーヒーもあるのかと。自分のなかでのコーヒーのイメージが変わった。とてもいい出会いでした」

あらゆる国の食文化を取り入れミックスしていく日本の食業界と大きく違うところといえば、ストックホルムのパティスリーにはどこもたいてい同じものが並んでいることだった。フィーカの伝統的なお菓子というと、朝によく食べられるのはシナモンバンとカルダモンバン。これが置かれていないとカフェにあらずというほどの定番で、商売を考えれば他とは違うオリジナルをつくったほうがいいのではないかと思ってしまうけれど、どの店も「うちのシナモンバンが1番!」と競い合っている。そのうえ、毎年10月4日はこの国民的パンを讃える日として、「Kanelbullens dag」(シナモンバンの日)まであるそうだ。

午後のフィーカで人気のお菓子はクッキー。どの店でも数えてみると7種類が並んでいた。これは、「客人を喜ばせるには7種のお菓子を用意するべき」という「カフェレープ」のしきたりの名残りからきている。スウエーデンならではの伝統的なクッキーは、甘酸っぱいラズベリージャムがのった「Hallongrottor」。訪れたのがベリーシーズンとあって、あちこちでベリーのお菓子が人気を集めていた。なかでも長田さんが特に気に入ったのは、ベーカリーカフェ「Bageni Petrus」のクッキーとカルダモンバンだった。

「いろんな意味でバランスがよくて、センスを感じました。すごく美味しかった! ラグのデザイナー『Oyyo』(P.38)のふたりもここのクッキーが好きだと言って、私たちとのフィーカに用意してくれていたのですが、一緒に日本茶が出てきたのにグッときて。インゲヤードさんもケーキに日本茶を合わせていましたけど、私ももう一度、洋菓子と日本茶の合わせ方を見つめてみたいと思いました」

そして長田さんには、いつかストックホルムを訪れることができたら食べてみたいと思っていたケーキがあった。それがフィーカを代表するケーキ「プリンセストータ」。

「ちょうど20年ほど前になるでしょうか。日本でシナモンロールが流行ったころ、プリンセストータの存在を知りました。当時はさほど気にかけていなかったのですが、15年が経って自分のスタイルを見つけられたとき、なぜかあのケーキを食べてみたいと思うようになったんです。ずっと昔から、スウェーデン中のどのケーキ屋さんにも並んでいて、誕生日、入学式と、お祝い事には必ず食べられる、みんなに愛され続けてきたケーキ。あまり『あの店のあのケーキが食べたい』という欲求がない自分にとっては、めずらしく憧れに思っていたケーキだったんです」

プリンセストータを求めて長田さんと向かったのは、1928年創業のベーカリーカフェ「Vete-Katten」。フィーカが生まれるずっと前からストックホルムの喫茶文化を眺めてきた老舗で、2014年に一部改装をしているものの、扉を開けるとヨーロッパらしいクラシックなたたずまいが感じられた。「ここのプリンセストータは、陶芸家のリサ・ラーソンもお気に入りなんだそうですよ」と、長田さん。ショウケースには、黄緑色のマジパンに包まれたドームのようなホールケーキ、プリンセストータの姿があった。

「プリンセストータをひと口食べた瞬間、自分がイメージしていた以上に感動している自分がいて、不思議と涙が込み上げてきました。なんだろう、味わいが自分のつくるお菓子とかけ離れていなかったことにほっとしたのかな……。すごく甘いんじゃないかと思っていたけれど、なかのスポンジからラズベリージャム、生クリーム、ひとつひとつがていねいにつくられていて、調和がとれている。シェフがお祝い事を思ってつくったのがきちんと伝わる美味しさでした」

フィーカのことを知れば知るほど、ストックホルムの街が好きになる。「はじめは、ただ優雅にティータイムを楽しむための合言葉だと思っていたフィーカが、旅が終わるころには、誰かと火を囲むような、どこか原初的で温かな響きへと変わりました。手法というよりも、この感覚を持ち帰ることができたらと思っています」
 
長田佳子 | Kako Osada
菓子研究家、「foodremedies」主宰。レストラン、パティスリーなどで修業を積み、「大地を守る会」のカフェにてキッチンシェフを務める。その後独立、友人とギフト専門の焼き菓子店をオープン。ファッションブランド「YAECA」の「PLANE BAKERY」にてスイーツの開発・製造担当を経て、現在は店舗を構えずお菓子教室や出張形式での喫茶イベントなどに取り組んでいる。レシピ本に『foodremediesのお菓子』(地球丸)を出版。 foodremedies.info

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