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アルプスの画家が見つめた自然と人間の営み

オーバーエンガディン地方の、ムオタス・ムライユの山岳ホテルから、向かいにある標高2,700mほどのシャーフベルクの山腹に豆粒ほどの山小屋が見えた。それが、画家ジョヴァンニ・セガンティーニのアトリエだったと聞いて驚愕する。 […]

11/13/2017

オーバーエンガディン地方の、ムオタス・ムライユの山岳ホテルから、向かいにある標高2,700mほどのシャーフベルクの山腹に豆粒ほどの山小屋が見えた。それが、画家ジョヴァンニ・セガンティーニのアトリエだったと聞いて驚愕する。イタリア生まれのセガンティーニは、スイスの光に魅了され、移住を決めると、アルプスの自然とそこに暮らす人々を描き続けた。よりリアルな光の色を出すために「分割法」という技法を考案し、線を多用することで、強い光、柔らかな光、朝日や夕日といったあらゆる光線を表現することに成功する。
晩年、セガンティーニと家族は標高1,800mの高地マローヤに移り住み、より厳しい自然環境に身を置くことで、市井の人々の暮らしを自ら体感し、内なる世界を風景のなかに象徴的に描き込もうと試みた。彼の最後の作品であり、代表作でもあるアルプス三部作の『生』『自然』『死』には、自然と調和して暮らす人々の姿が見て取れる。誕生から死まで、春夏秋冬、朝昼夜など、命の循環や巡る季節、日の出、日暮れといった時間軸を取り入れることで、自然界のサイクルと繰り返される人間の営みを大きなパノラマ画面に描こうとした。
制作は『生』から始まり、『死』はマローヤの景色を舞台に進められていた。一方、『自然』はシャーフベルクの山小屋に画材一式を運んで制作したが1899年、山頂で腹膜炎を起こし、41歳の若さで死去してしまう。9月に亡くなったセガンティーニは、10月になったら山を降り、マローヤで『死』の続きを完成させようとしていた。三部作のうち『死』だけは未完のままとなった。
 
ジョヴァンニ・セガンティーニ/Giovanni Segantini
1858年、イタリア・アルコ生まれ。独自の色彩分割技法を用いて、アルプスの風景や人々の暮らしを描いた。象徴主義を代表する画家。1899年没。
 
◼︎取材協力
スイス政府観光局
スイスインターナショナルエアラインズ
スイストラベルシステム
 
» PAPERSKY no.54 SWISS | LANDSCAPE ART Issue