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画家たちの魂を揺さぶった、スイスの風景を訪ねて

, 2017/08/30

それは6枚の風景画から始まった。フィルディナント・ホドラー、パウル・クレー、フェリックス・ヴァロットン、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、アロイス・カリジェ、ジョヴァンニ・セガンティーニ。6人の画家が描いたスイスの風景画をもとに、実際に描かれた場所を探そうという試み。いずれも19世紀末ごろから20世紀中頃にかけて活躍した画家および芸術家だが、全員がスイス人ではないし、生涯を過ごしたわけでもない。出自も暮らした場所もさまざまだが、共通しているのはスイスの自然の風景に魅せられ、独創的な作品を残したということだ。

ご存知のとおり、スイスは大自然を満喫できるパラダイスである。九州ほどの大きさの国土に、4,000m級の山々がそびえ立ち、麓にはミラーレイクと呼ばれる鏡のような湖が佇む。清澄な空気ゆえに、木々の緑や水の色はいっそう鮮やかに目に映る。“光、風、雲”といった自然の産物が、目の前の風景より多彩で魅力溢れるものにしてくれる。

アイガー、メンヒ、ユングフラウの三名山を見に、山岳鉄道で標高2,000m付近のシーニゲプラッテ駅を訪れたときのこと。厚い雲が覆っていて、何も見えないと諦めていたのだが、風が吹き始めると30分もしないうちに雲はみるみる流れ、光が差し込み、山の稜線がくっきりと現れた。そうかと思うと、また風に乗って、黒い雲が立ち込める。同時に山や水辺の景色もまた変わる。短時間でさまざまに自然界の表情は変化するのだ。

スイスを旅して感じるのは、自然との距離の近さ。スイス人のなかには自然が生活の一部としてあるので、バカンスだからといって「どこかに行かなくては」という気負いはない。レマン湖の湖畔にあるホテルでは、隣部屋の老夫婦が、湖を眺めながら一日中テラスで過ごしていた。サンモリッツのホテルでは、部屋にデイパックが置いてあり、周辺を散策してください、という宿側の心配りがあった。ホテルでゆっくり滞在したり、近場をハイキングしたり。贅沢するわけではなく、日常の延長で自然を楽しむのがスイス流。ホテルは泊まる場所ではなく過ごす場所なのだと、スイスでの滞在はそんなことを教えてくれた。

一方で、自然を存分に楽しむためのインフラが整備されているのもこの国のスゴイところ。登山鉄道がつくられたのはなんと100年以上前。数千メートル級の山々を走り抜け、山の上まで私たちを運んでくれる。だから、本格的な登山装備がなくても、手ぶらで景色を見にいくことだって、もちろんできる。かつて山の上で余暇を過ごすことは上流階級の優雅なレジャーでもあった(ご婦人はなんとドレスで登っていた!)。そんな名残もあり、山岳ホテルは日本でいう山小屋とはまったく違う趣で、サービスと環境が整った立派な宿なのだ。そして、なんといっても雲の上から眺めるダイナミックな眺望はここに来ないと味わえない。取材に訪れた6月の初めは、日没が21時ごろと遅く、ディナーの終わるころにようやく日が暮れ始めた。山岳ホテルのレストランから見える夕陽は向かいの山肌に残る氷河をオレンジ色に染め、茜色から群青色へと美しいグラデーションの空をつくり上げた。下界には灯りの灯ったジオラマのような家々が見える。山と山の間から月が顔を覗かせると、手が届きそうな距離で微笑んでいる。たとえばこんな幻想的な光景と出会ったときに、画家は絵を描きたくなるのかと、ふと思う。

さて、6人の画家たちは―。彼らはスイスの自然にイマジネーションを喚起された。心が揺さぶられたから描いた。そういう意味で、風景画は「直球」だ。捻りや衒いはなく、心に響いたままの素直な感動が象徴的に、あるいはダイレクトに表現されることが多いからだ。画家たちの心の機微に触れ、風景画と実際の景色を重ねて見ると合点がいく。百聞は一見にしかず。景色を体感する旅は、想像以上に胸に迫るものがあった。
 
◼︎取材協力
スイス政府観光局
スイスインターナショナルエアラインズ
スイストラベルシステム
 
» PAPERSKY no.54 SWISS | LANDSCAPE ART Issue

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