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平山昌尚/アーティスト|PAPERSKY INTERVIEW

今年の6月から1ヶ月にわたり、チューリヒの出版社「Nieves」で新作の展覧会を開いたアーティストのHIMAA(ひま)さんこと、平山昌尚さん。Nievesを主宰するベンジャミン・ソンマーハルダーとこれまでに10冊の作品集 […]

08/16/2017

今年の6月から1ヶ月にわたり、チューリヒの出版社「Nieves」で新作の展覧会を開いたアーティストのHIMAA(ひま)さんこと、平山昌尚さん。Nievesを主宰するベンジャミン・ソンマーハルダーとこれまでに10冊の作品集をつくってきた。展覧会に合わせてスイスを旅したというHIMAAさんに、現在の制作や旅について話を聞いた。
 
―HIMAAさんは、これまでに10冊ほどNievesで作品集を出版されていますが、ベンジャミンとの最初の出会いを教えてください。
14年ほど前にスイスを旅行することがあって、彼にコンタクトを取ったことがきっかけですね。以前からNievesの本に興味があったから、どんな人がつくっているんだろうと思って。
 
―それからどのような経緯でNievesから本を出版することになったのですか?
会ったときに自分の作品を見せて、それから1年後くらいにベンジャミンから一緒にブックをつくろうと連絡がありました。それが2005年のことかな。それから特に決めていたわけではないんですけど、今は1年に1冊くらいのペースでNievesからブックを出しています。
 
―ベンジャミンとはどのようにつくっているのですか?
基本的には僕のほうからページの構成案を出して、ベンジャミンがデザインして、最後にこんな感じでどうかと提案があります。絵に関しても何か言われるわけではなく、ほぼ自分のイメージしたページ構成でまとめてもらい、そのまま出版物にしてもらっています。
 
―HIMAAさんにとっては、ブックを制作することで、ひとつのものが完結するというイメージなのでしょうか。
そうですね、特にNievesの出版物で考えると、ほぼ1年に1度なので、1年間で描きためたものを整理して、作品集にまとめている感じですね。
 
―これまでの作品の変遷を見ていくと、明らかに作風が変わっていますよね。
なんとなく変わっていったのですが、昔と今で何が違うかというと、描くスピードですね。同じ絵を描くにしても、昔は1点仕上げるのに1時間かかっていたのに、今なら1分で描けてしまうものも。結果的におもしろさが同じだったら、1分のほうがいい。コスパもいいなと思って(笑)。
 
―スピードを上げてたくさん描くことが、今のHIMAAさんにとっては楽しい作業なんですね。
刺激がありますね。ひとつのものにじっくり向き合って描くよりスピード感のある描き方が、今の自分にはしっくりくる感じがします。
 
―それは描くものに対する自分の意図が入りにくいからでしょうか。
そうかもしれません。自分の意識が追いついてないというか、意識をおいてけぼりにするくらいのスピード感で描いていく。それは自分にとっても楽しいことなんです。だけど、それだけだと残らないので、ある程度のところで描いたものを見返して、本という形にまとめることにしています。描きためたなかから絵を見ていると、「こんな絵、描いていたっけ?」と思うものもあったりして。それから、本になるとどうしても前後左右のページとの関係を考えなくてはいけないことも大きくて。ページの流れを考えながら、これまでに描いたものをいろいろと組み合わせながら考えています。意識的に描いているわけではないのですが、同じ時期の絵には似たものが多い傾向がある。以前のものと比較して整理することで自分のなかで消化しているんだと思います。
 
―ベンジャミンはHIMAAさんの作品制作に関して「同じようなものを何枚も描き続けて、頭のなかが無の状態になっていったときに、そこで生まれてくるものを待っているのでは」と言っていました。実際のところいかがでしょう。
そうですね。半分くらいは当たっているかな。たしかに、ものすごくたくさん描いていて、目的があるものもあればないものもある。基本的にはあまり考えずにいろんなものを混ぜて描いています。
―以前、動くブタのおもちゃにマーカーをつけてブタが動いたラインをまとめた作品がありましたが、ベンジャミンいわく「HIMAAはきっとこのブタのような頭になりたいって思っているんじゃないか」とも。頭が無の状態になって結果的に出てきた線というか。だからスピード感を求めていて、そういった感覚を楽しんでいるのではないかと。もはや禅の境地に近いというか、そんな話になりました。
そうかもしれない……。というか、いいですね、それ。それでいきましょう(笑)。たしかに、このブタがラインを描いていく感じと似ているかもしれないですね。意味があるかどうかわからないけど、何か現れてくるというか……。
―普段、描く作業はどのようにされているのですか?
特に時間帯を決めることはせず、気が向いたときに描いています。以前は少し無理してでも毎日描こうという気持ちがあったのですが、最近は1週間のうち1日で仕上がりのいい絵が描けているなら、あとの6日は休んでもいいかもと。今は描くことより、見たり感じたりとインプットの時間を増やしたい。だから、このスピードでたくさん描かなくちゃいけなくなる(笑)。
―作風が変わり、描く速度はだんだん上がっていったのですか?
いくつかステップがあって、徐々に段階を踏んでスピードアップしていきました。これまでに描いたものを見比べていくと、その速度の変化がなんとなくわかります。それにしても、もう5年もこんなことをやってるんですね、僕……(遠い目)。昔は鉛筆も使っていましたが、今はボールペンとマーカーだけ。鉛筆を使うと速度が落ちるんです。持ち替えたり、削ったりしなくちゃで。まだまだスピードアップできる余裕はあります。
―話は変わりますが、建築を学ばれていたと伺いました。きっかけは? 
もともと建物やデザインに興味があって、建築家になろうと思って学校に行ったんです。建築士の資格も取りましたが、絵を描くことが楽しくなってしまって。
 
―旅に出ると、よく建築を見にまわられていますよね。
基本的に建物を見るのが好きなので、今回のスイスでもいくつか見にいきました。あと、いつも旅先で行くのはリサイクルショップ! じつはスイスにはあまりないだろうなと勝手に思っていたのですが、ベンジャミンに教えてもらって。そこはすごかったですよ。日本では考えられないようなゴミというか、割れた食器だったり、プラスチックの蓋だったり、トレーに大量に入ったインクが出ないペンとか(笑)。そのなかから好きなものを選んでレジに持っていくと、その場で店長が値段をつけてくれるんです。僕は7~8個選んで全部で4フランと言われて、あまりの安さにびっくり。なかでもいちばんの戦利品は、屋外のフリーのコーナーで見つけた絵ですね。たぶん子どもが描いた絵で、ガムがベタッとついていたんだけど、そのガムがついた感じがなんとも……。どこに行ってもリサイクルショップはやっぱりおもしろいですよ。
 
―リサイクルショップに惹かれる理由はなんでしょう。 
買うものはほとんどないんですけど、見ていて楽しい。何があるかわからないでしょ。予測不能なものが突然出てきたりする。絵もそうです。楽しいとはまた違った、ドキッとするような感覚がいい。
 
―では旅に出たら、建築とリサイクルショップが欠かせないということですね。
そうです。2本柱です(笑)! もちろん自然も楽しみますよ。特にスイスはどこに行ってもいい景色ばかりだし。
 
―最後に今回のスイスの旅のことを聞かせてください。 
展覧会のためにチューリヒへ行った後は、電車とバスで地方をまわりました。南部のゴッタルドという場所にあるホテルは特に印象的でした。標高の高い場所で、まだ少し山肌に雪が残っている。下を見下ろすと岩に黄緑色のコケのようなものが生えていて、標高や方角によって山の色が違って見えるんです。もともとサナトリウムだった場所を建築家がリノベーションした宿で、ひとつの棟に10室ほどで構成されていました。外観はほぼそのままで、なかには教会があって建築としてもおもしろかった。他にはレマン湖方面にあるグリュイエールの町にも行きました。目的は映画『エイリアン』のデザイナー、H・R・ギーガーのミュージアム。町自体は小さくて映画のセットのようでしたね。そうそう、ル・コルビュジェが生まれた場所にも行ってみました。驚いたのは本当に小さなプレートがつけられているだけで、知らなかったら通り過ぎてしまうような住宅街のなかにありました。あまりにも普通すぎて、逆におかしかったですね(笑)。
 
―アートはどうでしたか?
エンガディン地方まで足を伸ばしてダヴォスのキルヒナー・ミュージアムに行きました。以前に行ったことがありますが、今回もよかった。夕方、陽が差し込むと、キルヒナーの描いた世界が想像できる。彼は色使いが独特だけど、じつは牧歌的な風景画家なのではと思いました。
 
―以前スイスを訪れた後にブックをつくられていますが、今回も予定はありますか?
旅の途中でもいろいろ描いたので、8月に青山のユトレヒトでの展示に合わせて発表する予定です。以前のような直接的なものにはならないと思いますが、今回のスイスの旅が影響した作品にはなると思いますので、ぜひ見にきてください!
 
平山昌尚(ひらやま・まさなお) Masanao Hirayama
1976年、神戸生まれ。落書きのようなユーモアと独特のタッチを併せもつ絵画やドローイング、斬新なパフォーマンスで注目を集める。ニューヨークやバーゼルのアートブックフェアにも多数出品する。2017年6月には、チューリヒのNievesにてこれまでに制作した作品集を展示。8月1~13日まで、東京・青山のユトレヒトにて巡回展が開催される。www.himaa.cc