Menu Links
  • Photography: Hideaki Hamada
  • Photography: Hideaki Hamada

平野甲賀|日々是好日。文字と向き合う小豆島の日々

, 2017/06/12

日本を代表する装丁家でグラフィックデザイナーの平野甲賀さんが、小豆島に移住したのは2014年のこと。妻の公子さん、愛猫の空と暮らす小豆島は「ちょっと不便で、野菜がうまい」。そんな平野さんが語る、文字と島暮らしのこと。

「以前住んでいた神楽坂はにぎやかで楽しい街だったけれど、東日本大震災の後はあのにぎわいがちょっと辛くなってきてね。縁もゆかりもないこの島に、思いつきのように越してきちゃったんだよ」

神懸通に建つ、築100年の古い日本家屋で、平野甲賀さんはそんなふうに移住にまつわるあれこれを話してくれた。
「日々、実感するのは野菜が本当においしいということと、本当に不便だということ。野菜はね、どれを口にしてもこれまで食べたことのない味がするんだよ。畑から穫ってきて、ざっと土を払って、そのまま食べてしまうこともある。そのくらいおいしいんだよ。島でできた若い友人たちや大家さんが持ってきてくれるのだけれど、島の人が持ってくるものは間違いないね」

一方で生活の不便さも痛感する。車に乗らなくなったから、ちょっとそこまで出かけるのにもひと苦労、と平野さん。友人たちの車に乗せてもらうことも多いそうだが、周囲にアウトソーシングを求めることが島での人間関係を深めることもある。実際、そうした縁から、農村歌舞伎で知られる肥土山の舞台の野外コンサートの企画にも携わった。島に来たらのんびり暮らせるかと思ったが、そうは問屋が卸さない。

移住2年目には文字にフィーチャーした『文字に文字展』も開催した。特にお遍路を意識したわけではなかったけれど、このとき、般若心経の経文を1m四方の和紙に表現して展示した。般若心経では「空」、「無」、「色」、「是」など、同じ言葉が何度も登場する。造形が重複しないように描きたかったから、頻出する字に苦労した。
「同じものが何度も出てくるのはつまらないから、ひとつの文字をそれぞれ違う姿で表現しようと思って。不思議なもので、さすがにこれ以上は出てこないだろうと思っても、ひと晩寝ると次の日にはまた違う字ができる。なんだか悟りを開いた気分だったね」

眺めるほどに、漢字は「絵」だと理解する。たとえば「密」という字だ。うかんむりの蓋と「山」という容れ物が、中身をぎゅっと閉じ込めている。姿がきちんとその文字の意味を表している、それはまさに象形文字だ。じっと向き合っていると、字がもたらす風景がどんどん変わっていく。おまけに、漢字には手がかりがたくさんあるからしめたもの。それぞれがもつ意味を、文字の風景として描いた。完成までに四苦八苦したけれど、でき上がりはむしろ素直なデザインになっていたというからおもしろい。

そんなふうに文字と向き合いながら、島の毎日は淡々と過ぎていく。
「正直言うと、住む場所はどこだってかまわないんですよ。今は展覧会に合わせて訪台を計画中。小豆島をベースにしながらあちこちに駆り出されているけれど、いまはそうやって動きまわることがおもしろいのかな」
 
平野甲賀 Kouga Hirano
1938年生まれ。装丁家、グラフィックデザイナー。小豆島の「今」を伝えるオンラインマガジン、『その船にのって』のメンバー。
sonofune.net
 
展覧会情報
『平野甲賀の描き文字展 小豆島から台湾へ』
台中の多目的スペース緑光+MARÜTE
2017年3月31日〜5月14日

「平野甲賀と晶文社」巡回展
京都ddd 2017年9月4日〜10月24日
東京銀座ggg 2018年1月22日〜3月17日

Tags: ,









強く生きるための、智恵と健康法を授ける|Meet the Monks (4)

西之瀧は800年以上の歴史をもつ、小豆島最古の霊場。本殿のある岩窟には、龍水と呼ばれる清水が湧く。断… »STORY

小豆島遍路 Day7 | “日本の原風景”、千枚田の里山で7日間の旅を終えた

いよいよ最終日。今日は島のほぼ中央、肥土山・中山地区の田園風景を歩く。迎える案内人は、2012年に肥… »STORY

SNSを駆使して神木を守る、次世代の住職|Meet the Monks (3)

宝生院といえば、国の特別天然記念物に指定されているシンパクが有名だ。古墳時代に応神天皇が手植えしたと… »STORY

小豆島遍路 Day6 | 江戸時代 vs 現代、イノシシ対策に思うこと

小豆島には昔からシカ、サル、イノシシなど、多くの野生動物が棲息していた。江戸時代中期、動物から農作物… »STORY

新旧の試みで、現代の寺のあり方を考える|Meet the Monks (2)

農村歌舞伎という特殊な文化を守る地域ゆえだからだろうか、肥土山集落の結束力は異様に強いのだという。そ… »STORY

小豆島遍路 Day5 | 小豆島は石の島。岩の巨大彫刻を眺めて歩く

本日は島の中心部に位置する景勝地、寒霞渓周辺の霊場巡り。寒霞渓は「日本三大渓谷美」と称される観光スポ… »STORY

歩き遍路には小豆島の魅力の素が詰まっている|Meet the Monks (1)

おそらく島で最も遍路道を歩いている僧侶だろう。常光寺の副住職で、碁石山の堂守を務める大林慈空さん。出… »STORY

小豆島遍路 Day4 | ツラい急坂のご褒美は、瀬戸内海随一の景勝美

1日目の土庄はごま油の香りだったが、この地区は醤油の懐かしいにおいに包まれていた。「醤の郷」という名… »STORY

小豆島遍路 Day3 | 豆坂を越えて、コーヒーに出合うまで

江戸時代から花崗岩の産地として知られた小豆島。丁場跡や切石積など石の文化の片鱗が各地で見られるが、当… »STORY

小豆島遍路 Day2 | 海と山をつなぐ遍路道、ダイナミックな起伏を行く

今日は島の北側を攻める25kmの旅。朝8時、今日の案内人、いのうえただひろさんと落ち合った。いのうえ… »STORY

小豆島遍路 Day1 | 海岸沿いを歩き、竜宮城のような庵に寄り道

高松港から朝一番の高速船に乗り、小豆島・土庄港に渡る。穏やかな洋上を往く、およそ30分の航海。船から… »STORY

お遍路さんの気分で歩いた小豆島、150kmの旅路

のんびり歩いて旅をして、街と親しくなってくると、空気のにおいや風の肌触り、そんな曖昧なものの移り変わ… »STORY

ルーカス B.B.と歩く、小豆島88カ所 歩き遍路の7日間

ここ数年、古道歩きに夢中のPAPERSKY編集長ルーカス B.B.が降り立ったのは、瀬戸内海で2番目… »STORY

マップでめぐる小豆島|+10 City Maps No.20 Shodoshima

PAPERSKYがセレクトした街の魅力をマップで伝える「+10 City Maps」。第20弾は、瀬… »STORY

編集長ルーカスが選んだ小豆島みやげ|PAPERSKY STORE

編集長ルーカスが小豆島でみつけた旅のおみやげが、PAPERSKY Storeに並んでいます。小豆島の… »STORY

天国のトレイル|Editor’s Note #53 小豆島

小豆島を訪れたのは、これまでに5回ほど。訪れるたびに新たな発見があり、そのたびにこの島に魅了されてい… »STORY

PAPERSKY #53 小豆島特集号 SHODOSHIMA | HIKE Issue

4月30日発売のPAPERSKY 53号は、小豆島特集。瀬戸内海に浮かぶ、豊かな自然と文化に恵まれた… »STORY

とっておきの島カレーを召し上がれ|小豆島

小豆島の旬の食材をひと皿に集めて、島のみんなに振る舞いたい! そんなおもてなしの気持ちから、graf… »STORY

旅する音楽 soundtrack for travelers|小豆島編

「PAPERSKY Soundtrack For Travelers 旅する音楽」の小豆島編を公開し… »STORY

place
小豆島

© 2008-2019 Knee High Media. All Rights Reserved.