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  • Photography: Tomoko Makiura
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とっておきの島カレーを召し上がれ|小豆島

, 2017/04/28

小豆島の旬の食材をひと皿に集めて、島のみんなに振る舞いたい! そんなおもてなしの気持ちから、grafの服部滋樹さんが“島カレー”をプロデュース。キラキラ光る海、青い空、潮風……島とカレーは相性抜群なのだから。服部カレー食堂、本日開店!

島のとっておき食材を集めて島のカレーをつくり、お遍路旅でお世話になった島の人たちにふるまおう! PAPERSKY発“島カレー”プロジェクトの中心人物がこの人、クリエイティブディレクターでgraf代表の服部滋樹さん。小豆島は知られざる美食の宝庫だ、そう教えてくれた張本人でもある。服部さん自身、瀬戸内芸術祭をとおして小豆島と関わるようになって、はや6年。自身のアートプロジェクトを通じてたくさんの島民と交流するなかで、島の風土、気候に親しんできた。
「初めて島を訪れたのは2012年。ちょうど芸術祭が小豆島に拡大しようというときで、小豆島で何かアートプロジェクトができないかということで呼ばれたんですね。来てみたら、ここは色彩も植生も風景も、瀬戸内の他の地域とはまったく違っていたんですよ」

いったい、何が違うんだろう。小豆島と瀬戸内の他エリアとの違いに“何か”を感じたのは、デザイナーとしての嗅覚だったのかもしれない。「そのとき、デザイナーとして小豆島の芸術祭に参加するなら、アートとは別の視点が必要だと思った」と服部さん。そこで、小豆島のフィールドワークという宿題を自らに課し、スタッフ総出で取り掛かることにした。
「デザイナーの仕事は80%がリサーチなんです。素材集めですね。現地の人にインタビューして、家庭のごはんをご馳走になって。そうした普段着の交流から、そこに紡がれる想いや物語、歴史、インスピレーションを発掘しました」

このフィールドワークは、2013年に「小豆島カタチラボ」というプロジェクトで結実。この島の道具や方言、コミュニティ、景観など、日常にまつわるひとコマを調査・検証・解体・編集・再構築することで、長きにわたってこれを残すための新しいカタチを提示するという内容だった。このプロジェクトのひとつにあったのが、食卓からスタートした食のリサーチである。どこで、誰が、何をつくっているのか。島外の人が魅力を感じる“小豆島”的なものを食で表現するため、その背景をひもとこうと考えたのだ。

こうして服部さんが出会った島の生産者たちは、いずれもビジョンがあって意欲的。自分たちが生産するものをとおして、島の新たな一面を発信しようという気概に満ちていた。今回はそうした生産者たちを再び訪ね、とっておきの食材を集めるのだという。

それではさっそく、案内してもらおう。まず向かったのは、醤の郷で150年続く醤油蔵「ヤマロク醤油」。木と土で建てられた伝統的なもろみ蔵のなかには、巨大な杉樽がずらりと並ぶ。この樽に大豆と小麦と塩と水だけを入れ、昔ながらの製法で醤油を醸している。戦後に広まった工業製品のような醤油に比べ、杉樽で仕込んだ天然本醸造の醤油は手間も時間も、もちろんコストも倍以上かかるというが、まろやかな辛さと深いコクは、全国の料理人や和食好きを魅了してやまない。

ヤマロク醤油の5代目、山本康夫さんの好みは少しだけ醤油を垂らしたスパイシーなカレー。山本家の食卓では、カレーにも醤油を加えるのだ。一方、スパイス系からルーを使った日本のカレーまで、ジャンルを問わずマッチするのがもろみ。「発酵のアクセントがカレーの辛さに深みを与えるから」とは、さすが発酵食品の担い手らしいティップスだと感心する。

次に向かったのは、肥土山で農業を営む「HOMEMAKERS」。7日目のお遍路旅もともにしてくれたIターンの三村夫妻は、有機野菜を中心に年間で60品目ほどの野菜を栽培している。収穫した作物は自らのカフェで調理して提供する他、島内外の店や家庭にも卸している。こちらではカレーに欠かせないアンデスレッド(じゃがいも)や紅くるり大根、新玉ねぎ、つけ合わせ用に芽キャベツやあやめ雪かぶ、水菜の菜花など、収穫したばかりの新鮮野菜を手に入れた。

池田の雑木林で自然放牧養豚に取り組んでいるのは、「鈴木農園」の鈴木博子さん。その存在を聞きつけた服部さんが、このカレー企画での交流を楽しみにしていた生産者のひとりである。農業・畜産系の短大を出たという鈴木さんは、もともと農家志望。「家畜を屠ることに罪悪感があったし、日本の飼育のシステムにも疑問を感じていた」鈴木さんが、畜産への考え方を180度あらためたのは、青年海外協力隊の一員として赴任した、セネガルでの暮らしがきっかけだった。
「セネガルでは牛も豚も放し飼いでのびのびと育てられていました。ちゃんと育てた家畜を感謝していただく。それはすばらしい命の営みだと思ったんです」

広々とした敷地のなかで適度に運動させ、1年かけてじっくりと育てる鈴木さんの豚。地産地消を心がけ、農家から分けてもらう野菜クズや残飯におからや米ぬかを加えて発酵させたものを餌として与える。肉質はといえば、赤みも脂身も臭みがなく、なんともヘルシーな味わいだ。

そんな鈴木さんから譲り受けたのは、手塩にかけた豚のウデ肉。筋肉のある部位なので脂の入りもほどよく、しっかりした旨味は煮込み料理に適しているとか。食材リストに肉が加わり、カレーの出来が俄然、楽しみになってきた。

次に向かったのは、小豆島の名産であるオリーブ農園。2010年に脱サラし、Iターンで小豆島にやってきた「山田オリーブ園」の山田典章さんは、試行錯誤を重ねた末、日本で初めて有機オリーブの栽培に成功したという生産者。有機栽培に挑戦したのは「虫が好きだから」と語る、ユーモラスな人柄も魅力的だ。
「有機オリーブの天敵は、現段階ではゾウムシだけ。だったら、ゾウムシの生態を調べてそのライフサイクルに合わせた対策をすれば、農薬なんていらないじゃないかって思ったんです」

はじめは100匹のゾウムシだった。自宅で飼育し、温度、湿度、食べ物、色、におい…… ゾウムシの好きなものと嫌いなものを徹底的に調べ上げた。そんなふうにゾウムシと生活をともにするうち、その日にヤツらがどういう動きをするのか、どの木をチェックすればいいのか、その生態が手に取るようわかってきた。
「要は小学生のカブトムシ狩りと一緒ですよ。カブトムシが動く時間帯に、カブトムシが好みそうな場所に目星をつけて網を張る。あのアプローチですよ」

オリーブの木でゾウムシを見つけたらすかさず自宅に持ち帰り、枕元の虫かごに入れてその動向に耳をすます。夜行性の彼らがざわざわと動き始めたら、畑のゾウムシも活動時期に入っている可能性が高い。だから翌朝早く、畑に出かけてゾウムシを捕獲する。一丁上がり。
「がっかりさせちゃうかもしれませんが、有機栽培でもそうでなくてもオリーブの実の味は大差ないんです。違いといえば、有機栽培のほうがおいしさに波があることでしょうか。イマイチの年もあれば、奇跡みたいにおいしいものができるときもある。僕はそういう波がおもしろいと思っているし、それを農作物はそういうものだからって楽しんでくれる人に届けられればいいやって、開き直っているんですよ」

この他、Iターンの夫婦が昔ながらの方法で炊く天然塩、「塩屋 波花堂」の「御塩」、四海地区の漁港からは小豆島の漁師たちが近海で水揚げした季節のイイダコと、近年、銘柄魚として売り出している「小豆島 島鱧」など、島を代表する食材が集まった。

カレーパーティの会場となるのは、小豆島が誇る本格的インドカレー店の「カレー・プラージュ」。実際の調理はこの店の料理人、井上憂樹さんが担当する。食材を集め終わった服部さんも井上さんと合流。本日ふるまう予定のカレーの構成案を練り始めた。
「甘味のある野菜は、ほろほろになるまで煮込むより、食感を残す感じのほうがいいかな」(服部)
「鈴木さんの豚は旨味がしっかりしていて、まるでジビエみたいな味わい。だからガツンとスパイスを効かせてもバランスが取れると思いますよ。ヤマロクさんのもろみを入れてもおもしろそう」(井上)
「お米はやっぱり、小豆島産を玄米で味わいたいな」(服部)
「草壁の上の標高の高いエリアは、じつは稲作に最適の土地。ちょうど、そこで穫れたお米を手に入れたんです。硬めに炊いたら南インド風のカレーによく合うなって思って」(井上)
「野菜がたくさん集まったから、彩りのいいつけ合せも用意したい」(服部)
「アチャール(浅漬け)に、紅くるり大根も添えましょうか」(井上)
 
島の恵みを、ひと皿のカレーに仕立てる

こうして完成したのはメインのカレー3種。まずはココナッツミルクをベースに、ターメリック、コリアンダーシード、クミン、ブラックペッパーを効かせたイイダコのカレー。続いて、野菜のカレーは「HOMEMAKERS」のさつまいもと大根を、スパイシーなサンバルに仕立てる。鈴木さんの豚はスパイスをふんだんに使ってパンチのある味わいに。つけ合わせはチリ、ターメリックと「御塩」で味つけたアンデスレッドのローストポテト。あやめ雪かぶはブラックペッパーで香りづけしたオリーブオイルでさっと炒め、甘さを引き出す。その葉は「細かく刻んでココナッツと合わせて炒め、ポリヤル(スパイス炒め)にしたら、最高のおつまみになる」(井上)。ベニナバナはヒヨコマメの粉を溶いたものにくぐらせてパコラ(インド風天ぷら)に。食感が抜群の紅くるり大根は生でいただきたいから、レモンと塩、チリパウダーでマリネして、紫玉ねぎと合わせたアチャールに。

午後2時、店中にスパイシーな香りが充満し始めたころ、先達の森下さんを筆頭に、招いたゲストが続々と現れる。ともにお遍路道を歩いてくれた、頼もしき旅のパートナーたちだ。

今日のカレーの食材をゲストたちに紹介しながら、服部さんはあらためて小豆島の食の魅力について考えていた。

「今日の山田さんの言葉がおもしろかったんです。いわく『小豆島のオリーブはスペインのような広大な畑ではなく、島の一角、住宅地の風景に100年かけて馴染んできたもの』だと。彼の言葉から、この木のライフサイクルをどう島の風景に取り込み、いかに持続可能なものとするか、それが我々の使命なんだって感じさせられた。それはオリーブに限らずすべての産物に言えること。今日出会った生産者たちはみな、そのものづくりの姿勢をとおして、効率やコストではなくもっと長い目で物事を眺めてその価値を決めていこうよ、ってそう語りかけているんじゃないかな」

小豆島の食材がおもしろいのはインディビジュアルな生産者たちががんばっているから、と服部さん。ここの土地が豊かなのかどうかはわからないけれど、少なくともそのポテンシャルを引き出そうという人たちが次々に新しいことにチャレンジしている。そして島も、そのチャレンジを受け入れる懐の深さがある。その相乗効果が島の食のシーンをおもしろくしている。

「瀬戸芸をきっかけに島外とのコミュニケーションが活発になった結果、自分たちの等身大のよさをもう一度見直そう、そして島外へ発信しよう、そういう機運が生まれたんじゃないかな。そして、そういうビジョンや行動力のある人を惹きつける引力のようなパワーが、この島には確かに働いていると思うんです」

ピリッとスパイシーなカレーを、なつかしい仲間、新しい友人とともに囲んだ昼下がりのひととき。島の人たちと温めた親交は、服部さんにも新しい刺激をもたらしてくれたよう。

「そういえば、カレーに入っているスパイスって、素材のあらゆるエッセンスを引き出してくれるんですよ。旨味もえぐみも、そのまま全部あぶり出してくれる。スパイスの効いたこのカレーは、島の人の人生みたいなものなんですよね」

小豆島の古くて新しいカタチを探す服部さんの旅は、まだまだ続きそうである。
 
» PAPERSKY #53 SHODOSHIMA | HIKE Issue

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