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益子に降り立った星|PAPERSKY japan club

初めて栃木県の益子を訪れたのは十数年前のこと。当時「少年民藝館」という本との出会いから「民藝」の世界に触れ、手仕事や工芸の世界に強く惹かれていたころだった。それもあって益子焼の産地であり、また民藝運動の中心的存在であった […]

01/05/2017

初めて栃木県の益子を訪れたのは十数年前のこと。当時「少年民藝館」という本との出会いから「民藝」の世界に触れ、手仕事や工芸の世界に強く惹かれていたころだった。それもあって益子焼の産地であり、また民藝運動の中心的存在であった陶芸家・濱田庄司が活動の拠点としていた益子という場所を一度訪ねてみたいと思っていた。
濱田庄司の自邸と工房を活用し、生前収集した国内外のさまざまな工芸品が展示されている益子参考館を堪能した後、知人に勧められ、じつはついでに足を運んだのがスターネットだった。器や服を扱うショップ、ギャラリー、カフェからなるスペースである。周囲には畑や水鳥がいる池、雑木山があるような環境のなかにあって、その建物は風景に溶け込みながらもどこかモダンで新しい空気が流れているようだった。 「なんて洗練された世界だろう」。店内に足を踏み入れたとたん、静かな興奮がこみ上げてきた。凛とした清涼感漂う店内の空気、聴こえてくる音楽、並んでいる器や服などの商品、そしてスタッフの人たちの立ち振る舞いのすべてが一体となってその世界をつくっていた。東京から離れた一見素朴で自然豊かな場所にこのような店があるということにただ驚くばかりだった。
その後何年も経ってスターネットを立ち上げた馬場浩史さんに会って話を聞く機会があった。馬場さんは80~90年代にかけてファッションやプロダクトデザイン、舞台やショップ空間のプロデュースなど幅広い仕事を手がけてきた。そんな慌ただしい日々のなかであらためて衣食住や身体を見つめ直すようになっていたときにここ益子の地に出会い「自分の居場所をつくる」ようにこのスターネットをつくったそうだ。それが1998年のことである。
以来「これからの暮らし」の理想を高い美意識をもって実践しながら、「手入れ」を繰り返し、スターネットは進化し続けている。それはひとつのショップという枠を大きく超えた存在となって多くの人に力を与え、また磁場となってつくり手をはじめとするさまざまな人たちを益子に惹きつけてきた。
益子の地に降り立ったまさに星のようなこの場所との出会いが、今も大きな励みとなって自分を支えてくれている。