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  • 途中停車したトンネル内のセドルン駅から望む。
  • ビアスカ駅に待機する列車でゴッタルド・ベース・トンネルへ。
  • パイオニアたちに与えられるパスポート。
  • 車内の電光掲示板にも「Gottardino」の文字が。
  • セドルン駅は展示とトンネル構造の両方を楽しめる。
  • トンネルが貫通した際に坑夫たちを撮影した記念写真。

世界最深最長のトンネル(後編)|スイス、民意を反映する土木(1)

, 2016/12/28

旧ゴッタルド・トンネルを抜けてビアスカ駅に着くと、そこはイタリア語圏。街の雰囲気がガラッと変わる。ビルボード広告にも“CAMPARI”や“Bianchi”などの文字が踊り、街路表示もイタリア語。もちろんスイスなので標高は高いのだが、陽光も高地のそれとは変わり、ドイツ語圏の空気から一気にラテンの南国に来たような気分にさせてくれる。

少し街を歩き、ホームに待機する列車「Gottardino」号へ。指定席に向かうと、同号オリジナルのミネラルウォーターと赤い冊子が用意されている。表紙には「Gottardino. Pionierpass.」の文字が。定期運行を開始する前にゴッタルド・ベース・トンネルを通過した証として、パイオニアのみに与えられるパスポートということだ。

満員の列車が走り出す。トンネルに入るのは今か今かと、ソワソワした空気が車内を満たす。単線が2本並行して掘られたこのトンネルの全長は53km、縦坑や連絡路などを合わせた総延長は153kmにも及ぶ。このトンネルの掘削には、南アフリカでダイアモンドを採掘するための鉱山の掘削機が使用されたというから、旧ゴッタルド・トンネルを坑夫たちが掘り進めた1870年代とは隔世の感がある。とはいうものの、堅い岩盤を、しかも最深部では山の表面から2300mもの深さの地中を掘り進んだのだから、危険と隣り合わせで作業が進められたことには違いない。

トンネル通過にかかるのはおよそ17分。チューリッヒ〜ミラノ間がこれまでの3時間半という所要時間から50分も短縮する。開通後の非常時に備え、2本の単線トンネルをつなぐ横穴も325mおきに掘られており、客車1本に対して貨物車3本、1日合計で320本強の列車が通過するダイアグラムを組むために万全が期されている。そして、トンネル内には非常用に2カ所のプラットフォームが設置されているのだが、「Gottardino」号ツアーの目玉のひとつは、そのうちの一つであるセドルン駅に停車することだ。そこでは、記録写真やトンネル掘削の歴史を記したパネル、動画などが数多く設置され、一大土木展示が開催されている。

そもそもの成り立ちは、1980年代にドイツとイタリアの貨物輸送が爆発的に増加したことにさかのぼる。道路を拡張してトラックの通行量を増やすという案が出たが、住民は猛反対した。環境破壊、空気汚染、騒音。他人の経済活動活性化のために自分たちが住む環境の悪化を受け入れる謂れなどない。直接民主制を採用するスイスでは、国民投票(レファレンダム)によってあらゆる政策の決定が行われる。つまり、過半数の国民、あるいは地域住民の賛成なく、公共事業が知らぬうちに進んでしまうことなどないのだ。

南北のアルプス越えルートの拡大をEUから要求され、1992年5月に受け入れたスイスは、同年9月にレファレンダムを実施。アルプスを貫通する鉄道路線の拡張に64%の賛成を取り付けた。そして、スイス東部を南北に貫く路線の重要な一部として、ゴッタルド・ベース・トンネルの掘削ルートの調査が始まった。単線2本で構成するトンネルのプランが提示されたのが1995年4月のこと。そこから技術的な課題を解決し、民意に添うために、というよりは国民主導で進めるために、じつに20年の歳月をかけて開通にこぎつけたのだ。

最先端の技術と、民意を反映する政策。スイスの土木事業の根底には、その融合がある。ゴッタルド・ベース・トンネルに続き、次回の記事では「高所への移動」にフォーカスしてふたつのプロジェクトを紹介する。

取材協力:在日スイス大使館
https://www.facebook.com/SwissEmbassyTokyo

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name
ゴッタルド・ベース・トンネル
place
スイス

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