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世界最深最長のトンネル(前編)|スイス、民意を反映する土木(1)

全長57km、最深部は地表から2300mの深さに造られたゴッタルド・ベース・トンネル。2016年6月1日、世界で最も長く最も深いトンネルがスイスで開通し、この12月11日から定期運行を開始した。「ベース」が意味するのは「 […]

12/22/2016

全長57km、最深部は地表から2300mの深さに造られたゴッタルド・ベース・トンネル。2016年6月1日、世界で最も長く最も深いトンネルがスイスで開通し、この12月11日から定期運行を開始した。「ベース」が意味するのは「基底」。ヨーロッパ南北の交通を遮るアルプス山脈の基底部に直線部の長いトンネルを掘ることで、運行列車のスピードアップと載貨量の増加が可能となる。曲がりくねった山道を登り、短いトンネルでアルプス山脈を越えていた従来のルートからの大幅な改善が行われたのだ。
定期運行の開始を前に、一般客や関係者に路線を公開する「Gottardino(ゴッタルディーノ)」号が運行され、乗車する機会に恵まれた。高速鉄道が運行できる新しいゴッタルド・ベース・トンネルへと向かう前に、まずは高原地帯のゲシェネン駅から南下して1882年に開通した山岳部のゴッタルド鉄道トンネル(以後、旧ゴッタルド・トンネルと表記)を目指す。が、その前に腹ごしらえだ。ゲシェネンのシャレーホテル・クローネのレストランで、旧ゴッタルド・トンネルの建設に深い関わりのある「カッツォーラ」という料理を食べた。
1871年から1881年にかけて行われた旧ゴッタルド・トンネルの工事には、多くのイタリア人坑夫が参加したという。イタリアのロンバルディア州出身者たちが、危険ではあるがそれに見合う高額の賃金が支払われるこの工事に出稼ぎに来たのだ。ただ、彼らには誤算があった。トンネル北側のウーリ州は食事がまずい。パスタやピザがないばかりかサラダすらろくなものがなく、ジェラートなんて夢のような話だ。そこでどうにか、この地にある食材で故郷ロンバルディアの「カッツォーラ」を再現し、この10年間を乗り切ったのだという。
ジャガイモとキャベツと肉を香味野菜のブイヨンと白ワインで煮込む。当時使っていた肉はリス科のマーモットの燻製だったというが、それはさすがに現代的な食材ではないので、豚肉で代用して調理されたより美味しい「カッツォーラ」がテーブルに運ばれてきた。野菜と肉の甘い香りが湯気とともに立ちのぼってくる。シンプルだが滋味深く、体も温まる料理だ。
シャレーホテル・クローネを後にして、ゲシェネン駅に向かう。駅からは旧ゴッタルド・トンネルの入口が見える。トンネルの長さは15kmほど。通過時間は10分弱だろうか。すんなりと南側のアイロロ側に出てくるが、200名を超す犠牲者が出たと言われており、150年近くも前にこれだけの高地で15kmもの長さのトンネルを掘ったというのだから、その過酷さは想像に難くない。南北の交易を担ってきたこの旧ゴッタルド・トンネルに代わり、現代の土木技術の結晶としてどのようなトンネルが生まれたのか。復路でいよいよゴッタルド・ベース・トンネルに向かう。
(後編に続く)
 
取材協力:在日スイス大使館
https://www.facebook.com/SwissEmbassyTokyo