Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

PAPERSKY Interview 佐久間裕美子/ライター

アメリカに留学し、そのまま居ついて、早くも人生の半分。そのほとんどをニューヨークで過ごしながら、だんだんと自分のライフスタイルを変えてきた佐久間裕美子さん。アップステートに夢のセカンドハウス(?)をもち、自宅と行き来する […]

09/21/2016

アメリカに留学し、そのまま居ついて、早くも人生の半分。そのほとんどをニューヨークで過ごしながら、だんだんと自分のライフスタイルを変えてきた佐久間裕美子さん。アップステートに夢のセカンドハウス(?)をもち、自宅と行き来する現在の彼女の生活と、人々の意識の最近の変化について。
 
―ニューヨークシティにご自宅があり、アップステートには別荘をおもちなんですか?
別荘っていうと聞こえがいいけれど。そもそもの話をすると、仲よくしている友人夫婦が25エーカーほどの土地を買って、その麓にある山小屋のような家を使わせてもらっているんです。彼らは本当は丘の上に家を建てたかったんだけど、自治体の許可を取ったりするのがすごく複雑だとわかって。2年くらいがんばっている間に、洪水が起きたりネズミがいっぱい出たりして、すっかり嫌になっちゃって、彼らはそこから15分くらい行ったところに引っ越しちゃった。
でもそこは、とにかく環境がすばらしい。隣がニューヨーク州がもっている広大な土地なんだけど、今のところ何もする予定がないから、絶対開発されないっていうことに一応なっているし。だから彼らはその土地をすごく気に入っていて手放したくはないんだけど、でも何もしてない状態で。
で、その小屋、ほったらかしになってるなら、ちょっと私に使わせてみない?って言ってみたんです。彼らにすれば、洪水の影響で腐ってるところはあるわ、ネズミは出るわで、なんでそんな建物に私が興味をもつのか理解できないのね。彼らの家に泊まりにくればいいじゃないって。だけど、私はその家がけっこう好きで、それに、山に行くのはひとりになりたいからだから。そんなわけで、なんとか彼らを説得して。最初の1年くらいは毎週通って、ちょっとずつ直していって。それが5年くらい前のことで、今は一応、住めるようになってます。
 
―小屋があるあたりは、ニューヨークの人たちが週末遊びにくるなど、避暑地的に使われるようなエリアなんですか?
今アップステートで盛り上がっているのは、ハドソン、キングストン、ウッドストック、あと、ビーコンもちょっと。ニューヨークの人たちがアップステートを好む理由のひとつに、ニューヨークの家賃がものすごく高騰したことがあります。ニューヨークからクリエイティヴ層がどんどん流出してて、LAとかに完全に移住しちゃうか、アップステートに住んで、用事があるときにニューヨークに戻ってくるって感じ。
彼らはコミュニティも求めているから、それでもヒップな場所を選ぶわけだけど、私のいるところはそういうのとはちょっと違う。コンサバな価値観の人たちが多いし、ほんとに大衆的というか、ただの田舎というか。私が小屋に行くのは、ひとりになりたいか原稿を書きたいかだから、べつにそれでいいんですよ。
 
―では、佐久間さんがその家を借りることになったのは、そうした人たちの動きとはまたちょっと別で、たまたま出会った感じなんですね。
そうそう。自分で探したわけじゃないから。当時、アップステートにセカンドハウスをもつ人っていうのは、お金持ちだけだった。リーマンショックのあとに不動産価格がガクッと落ちたから手が届きやすくはなったものの、イメージとしてはお金持ちがやるみたいなことだった。でも、今では若い人も田舎に住んじゃう人が増えていますね。ニューヨークに比べたら家賃は格段に安いし、アーティストだったら創作のスペースを確保できるということもある。街が近いからこそ成り立つことでもありますけど。毎日通うのは大変でも、たまに作品を見せにニューヨークに行くくらいなら全然できる距離だから。
 
―佐久間さんがニューヨーク以外の場所に拠点をもつのは初めてですか?
拠点というほどのものではないですが、学生時代を除けば初めてですね。今は行ったり来たりで、なるべく週末は行くようにしてるのと、大きな原稿がたまってるときなんかは長めに滞在することも。ほんとにひとりきりになって、他に影響されずに過ごせるのがいいんです。
そもそもニューヨーク以外に場所が欲しいと思ったのは、2008年くらいにハリケーンがたくさんあって。当時はマンハッタンに住んでいたんだけど、ニューヨークシティはすごく災害に弱いから、橋も封鎖され、マンハッタン島の高層ビル群から出られない。閉じ込められちゃってる感が半端なくて、それがすごくストレスに感じるようになったんです。
それと同時に、例の友だち夫婦の家に遊びにいくうちに、人が自然のある場所に行く理由がだんだんわかってきたんですよ。若いころからキャンプは大好きだったけど、そういうのとはまた別で、もはやストレスレベルと向き合うために自然のなかで過ごす時間というのが必要になってきたんだよね。だから、みんなが求めるのも、なるほどねーって。
 
―そこに身を置くことで、頭があとからついてきたんですね。
そうそう! 山小屋に向かって車を運転してて、高速を降りた瞬間からシューッて体のテンションが抜けるのがわかるから。そういうのを体感して、だからみんな別荘をもつんだっていうのを実感したんですね。私は別荘を買えるようなお金持ちではないけれど、自分が体を動かしさえすれば家を使わせてもらえるっていう環境がたまたまできたから、実現できたこと。
実際、家の修繕は大変だし、ネズミを退治するのも未だに得意ではない。小屋は誰も管理していない林のなかにあるから、強風が吹いて木がなぎ倒されると停電になって、ロウソクでやり過ごさなきゃならないこともある。でも、そういうのも含めて、人類は、地球を使わせてもらっているんだということが体で感じられるようになったし、そういう時間をもてることこそがスペシャルなんだと今は思ってる。森林浴とか、昔は何言ってんのって思ってたけど(笑)、大人になると頭や心を空っぽにする時間がどんどんなくなっていっちゃうから、川や森を見つめてぼんやりするなんてことがすごい大切になってくると思う。
 
―何もしないことこそが贅沢という。
まさに! 山小屋から車で20分くらいのところにファームがあるんだけど、最近はニューヨークからバスでわざわざ来る人も増えているみたい。より多くの人が、自然を必要とし始めているのかもしれないですね。
 
―著書『ヒップな生活革命』で書かれていたような、組織に所属するのではなく、時間と仕事を自分でつくるということともリンクしているのでしょうか?
そう思います。以前だったら農場を営んでいても卸先が限られていたけれど、今はスーパーよりファーマーズマーケットで買いたいという消費者も増えている。そういう販路が増えたのも大きいでしょうね。今はだから、シェフとか生産者とか、食べ物に関わっている人たちがいちばんスターになってきていますよね。
 
―第一次産業に価値が戻ってきていますよね。食べて生きる、その最も近いところにいる人たちが、またリスペクトされ始めている。
昔とは逆転してますよね。これからは、食べ物のことをわかってないと社会については考えられないみたいなことを言われてますよ。何が使われていて、どうつくられているのか。そして、健康とどうつきあっていくか。
―そういう思想が他でもない、アメリカで興っているのがすごいと思います。ケチャップは野菜だって言った国(レーガン政権時代、学校給食に関してケチャップを野菜とする法案が提出された)ですから。お金と食べ物の価値観が変わるのは、とても大きなことですよね。
そうねー! それをわかってる人とそうでない人の断絶が開いちゃうのは恐ろしいことだと思うんだけど。でも、フロリダなどのすごいコンサバなエリアでも最近、ファーマーズマーケットが始まったって話も聞くから。変化が徐々に浸透している状態で、南部の真ん中あたりにまでそういうことが浸透するのには、たぶんまだ時間がかかるだろうけど。長年の習慣ですからね。
 
―お金の問題には暗澹たる気持ちになることが多いのですが、『ヒップな生活革命』を読むと、ちょっと希望もあるのかなと思えてきます。
たとえばその事業は環境に悪いから変える必要があるって言っても誰も耳を傾けないけど、こっちのほうがコスト削減になるよって言えばみんな興味津々になるでしょ。今のマリファナ解禁の潮流も同じ。そこをリベラルなムーヴメントは今までわかっていなかった。ものの言い方として、これはまちがってますっていくら主張しても、相手はまちがってると思ってないわけだから、絶対通じないんだよね。だから、そうやってイノベーションが追いついていったら、できるようになると思うんですよね。
 
―お金を払うことを正当化する、付加価値をつけていくという話も著書にありましたが、要は、対価交換に心を入れるっていうことですよね。地域通貨なんかもそうかもしれませんが、お金が嫌なものではなくなるかもと期待できます。
進歩していると思いたい。思いたいし、実際に、してるんだと思うんですよね。私、ケヴィン・ケリーさんが大好きなんですけど、インタビューしたときに言ってたのは「Tommorow is always better」。いつだって明日はもっといいんだって、やっぱり信じたいし、信じないとね!
 
佐久間裕美子(さくま・ゆみこ) Yumiko Sakuma
1973年、東京生まれ。ライター、PERSICOPE主宰。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。著書に『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、翻訳書に『世界を動かすプレゼン力』(NHK出版)。現在はマリファナ合法化に関するレポートの単行本を執筆中。これまでになく日本に興味があり、来日が増えている昨今。
 
» PAPERSKY #51 Upstate New York | Farm & Table Issue