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Phoenicia Diner 農場直結! 新しい時代のダイナー

, 2016/09/20

豊かな自然が残るキャッツキル自然保護区に「マンハッタンから車を飛ばしてでも行きたい!」と話題のダイナーがある。人気の秘密は地元農場直送の新鮮食材。新しい時代のダイナーは「安くて、おいしくて、健やか」なのだ。

ハドソン川に沿う87号線を西へ逸れて28号線へ。緑はいっそう濃さを増し、キャッツキルと呼ばれる自然保護区へと入っていく。周辺には清らかなクリークが点在し、アップステートでも随一のフライフィッシングスポットとなっている。
「Phoenicia Diner」はキャッツキルのランドマークともいえるダイナー。メインロードから外れた場所にあるにもかかわらず、駐車場はいつもいっぱい。マンハッタンや州外からも客が途絶えない。

オーナーのマイケル・チオフィさんが店を買い取ったのは2012年のこと。が、ダイナーの歴史は60年代に遡る。店の誕生は1962年、ロングアイランド。その後1982年に前オーナーが店ごと現在のキャッツキルに移し、営業を続けていた。
「僕はブルックリン育ちなんだけど、両親のサマーハウスがこのあたりにあってね。このダイナーの前をよく車で通っていたんだ。正統派のアメリカンダイナーという感じで、すごく好きだったよ」

マイケルさんにとって「Phoenicia Diner」は初めての飲食店経営。前職はテレビや映画の舞台芸術制作だというから、まったくの畑違いからの転職になる。
「家族からも、なんてバカな! って言われたよ。でも僕はキャッツキルが大好きだし、ブルックリンとこっちを行ったり来たりしながら、両方のライフスタイルを楽しめる仕事ができないかと思って」

かくして始まった店舗経営。マイクさんが大切にしたのは、オーセンティックなダイナーの面影を残しつつ、時代に合ったコンセプトを打ち出すことだった。
「内装はほとんどリノベーションしたけど、カウンターやボックスシート、レトロなコカコーラのディスプレイとか、昔ながらの雰囲気はそのまま再現。ボール型のライトや、ぽってりして黒いフチがついたダイナープレートも健在だよ」

そこはさすが元美術さん。リニューアル後4年しか経っていないというのに、店全体に懐かしい空気が満ちている。
「改装にあたってまず取りかかったのが冷蔵庫。キッチンには巨大な冷凍庫があって、その横に小さな冷蔵庫があったんだけど、それをそっくり逆にしたんだ」

それは冷凍食品を減らし、できるだけフレッシュなものを使おうというマイケルさんの基本姿勢を端的に表す行動だった。「ここはすばらしい食材の宝庫でしょう。ダイナーと聞くと、安くてボリュームたっぷりみたいなイメージが根強いけど、僕はそれを変えたいと思った。できるかぎりローカルな食材を使って、新鮮でおいしい食事を提供する。2016年のダイナーはこうでなくっちゃってね(笑)」

とはいえ小さな店ではない。ローカルの食材を使いたい気持ちはあっても、コストや仕入れ量の面で問題は多かった。
「なにせダイナー経営が初めてでしょ。1週間に何個卵が必要かなんて全然わからない。で、ふたを開けてみたら1週間に使った卵が200ダースだった。2,400個だよ! 当初は20〜30軒くらいのファームから少しずつ仕入れてたんだけど、手間を考えると現実的じゃないよね。それで一括で納品できる大きなファームを探して…。卵もベーコンも数年かかってやっとうまくまわり始めたって感じだね」

これだけ大量に食材を使う店だ。実際のところ、西海岸の大農園からまとめて空輸したほうがコストはずっと安くなる。
「コストの面がいちばん苦労した、というか今でも苦労しているポイントだね(笑)。マンハッタンからの客も多いし、価格を上げてもいいのかなと思ったことも正直あった。でも、やっぱりここはダイナーだから、地元の人が気軽に食べられるような価格であるべきなんです」

いい食材を使って、フレンドリーな価格をキープするという難題に直面したマイケルさん。柔軟な発想で問題を解決した。
「ひと皿の量を調節したんです。ダイナーといえば大盛りですよね。でも結局みんな食べきれないんです。だったら量を適正にして、その分、質のいい料理を出そうと。量より質という価値観です」

量が足りないという人のためには、ベーコンや卵、フレンチフライなど、少量ずつ頼めるサイドメニューを充実させた。食べたいものを食べたい分だけ注文してもらえば、食材を無駄にすることもない。
「メニュー数も従来のダイナーよりずっと減らしたんです」とマイケルさん。たしかにアメリカンダイナーといえば、あれこれたくさんのメニューがあるのが定番だが、「Phoenicia Diner」のメニューはA3用紙1枚に収まるだけ。メニュー数を絞ることで、仕入れる食材の種類や量、そして価格をコントロールしているのだ。

涙ぐましい努力を重ねてきたマイケルさんだが、「将来的には100%ローカル食材でやっていきたいね」と、笑顔で今後の目標を語る。その根底には、キャッツキルの自然をなにより愛し、都市から来る人、さらには地元の人々にこの地の食の豊かさを伝えたいという思いがある。
「マンハッタンやブルックリンのレストランでは、店内の黒板に『今日のステーキ→ハドソンバレーの何某農場から来たジョーという牛です!』みたいなことが書いてあったりするでしょ。でもそれって少しやり過ぎというか、本当に大切なのはそこじゃないと思うんですよね」

たしかに、「Phoenicia Diner」のボードには、食材を提供してくれているファームの名こそ掲げられているが、店内やメニューに「LOCAL FRIENDLY」的なあからさまな主張は見当たらない。
「気軽に店に来てシンプルな食事をして、おいしいなと思ってくれたらそれでいいんです。ダイナーでも地元産の新鮮な食材を使った料理が食べられる。そういうことが普通になってくれば、食に対する価値観は自然と変わってくると思うから」

シンプルで素朴な料理だからこそ活ききてくるローカル食材のおいしさを、マイケルさんは誰よりもよく知っているのだ。
 
Phoenicia Diner
5681 Route 28, Phoenicia, NY 12464
TEL: 845-688-9957
www.phoeniciadiner.com 
» PAPERSKY #51 Upstate New York | Farm & Table Issue

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