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ピアノ工場|PAPERSKY Japan Club

趣味はピアノ、なんていうと聞こえはいいが実は念願だった中古のピアノを最近買ったばかり。もっぱら聴くのが専門だったがいつからかピアノのある生活を夢見るようになった。 小さい頃ピアノを習っていたことがある。母親がピアノの教師 […]

05/16/2016

趣味はピアノ、なんていうと聞こえはいいが実は念願だった中古のピアノを最近買ったばかり。もっぱら聴くのが専門だったがいつからかピアノのある生活を夢見るようになった。
小さい頃ピアノを習っていたことがある。母親がピアノの教師をしていたからだ。ただ野原を駆け回るのが好きだった落ち着きのない子供にとって、ピアノの前にじっと座っていることなど苦痛以外の何物でもなく、すぐにやめてしまった。それが自らピアノを買ってまで弾きたいなんて思うようになるのだから人間は変わるものである。
以前「職人を訪ねる」という企画のオファーがあり、会いたい職人はいないかと尋ねられたとき、ふとピアノの職人に会ってみたいと思った。訪れたのは静岡県の掛川市にあるヤマハのピアノ工場。ヤマハはピアノが生まれたヨーロッパとは歴史も文化も全く異なる極東の地で、見よう見まねでピアノづくりを始め、何十年にもわたる研究と試行錯誤の末、ついに世界に認められるピアノをつくり出した。巨匠リヒテルは後年愛用し、グレン・グールドが死の前年に「ゴールドベルク変奏曲」を再録したときに選んだのはヤマハのピアノだった。
1台のピアノができるまでには驚くほどの工程がある。何せ1万個あまりのパーツが使われる。その大部分を手作業で組み上げる。オートメーション化された部分もあるが、アクションや響板などの心臓部とも言える部分の製作、そして調律、調整、整音といった最後の仕上げの部分はすべて人の手でしかできない。
主に見学したのはスタンダードタイプのグランドピアノのラインだった。コストパフォーマンスと同時に高いクオリティが求められ、メーカーとしては事業の柱となる最も重要なシリーズをつくる場所である。でもこういうレンジの商品こそ日本のモノづくり、産業が得意とする領域だという気がする。標準クラスであろうと徹底して品質を追求する。これは日本のモノづくりの現場に見られる誇るべきDNAだろう。
ピアノの音やタッチに絶対というものはない。それは数値化できない世界である。その絶対的な指標のないものに向かって少しでも「いい」と思えるピアノづくりを目指してベストを尽くす職人の姿は真剣そのものだった。無性にピアノが欲しくなってしまってしまったのはきっとそのときからだろう。