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Taiwan Bicycle Trip ユイー・チャンさんと台南ライド

台湾のベスパ業界では有名人。ビンテージやカスタムされたベスパのガレージ&ショップ、それに自転車店のオーナーでもあるユイーさんに、地元・台南の味を案内してもらおう。 「食は台南にあり」。食べ物がおいしい台湾にあっ […]

01/26/2016

台湾のベスパ業界では有名人。ビンテージやカスタムされたベスパのガレージ&ショップ、それに自転車店のオーナーでもあるユイーさんに、地元・台南の味を案内してもらおう。
「食は台南にあり」。食べ物がおいしい台湾にあって、こと台南が美食の街として誉れ高いと聞けば、どうしたって確認せずにはいられないのが食いしん坊の宿命。ショートトリップのもうひとつの目的地は、台南に決定した。台湾高速鉄道(台湾新幹線)で、台北から島の西側を下って1時間半。新幹線は、車両も日本のそれと同じデザイン、アナウンスの雰囲気や車内販売のスタイルもそっくりで、ここがどこなのかよくわからなくなる。台湾滞在中にしばしば陥る、自国のような異国のような不思議な気分のまま、おいしいものを目指して時速300kmで進む。
台南がよく京都にたとえられるのは、ここが台北に首都が移る前の台湾の中心地であり、当時の文化財や史跡が多く現存しているからだ。それらとともに歴史を紡いできた創業100年超の老舗店もたくさんある。オランダ統治時代にオランダ人が築城し、行政や商業の拠点だった赤嵌楼と安平古堡、台湾最古の孔子廟、国家一級古跡の大天后宮、数十年ぶりに営業が再開された林百貨店などなど、古都ならではの名所旧跡には事欠かない。
が、それらのすばらしき観光スポットは横目でチラリ程度、いや、見向きもしないのは、花よりダンゴに集中したいから。今日は一途に食べ歩き、否、食べ走り。店はちょっとずつ離れて点在しているし、路地の奥にある場合も多いから、移動手段を自転車にするのは最適な選択に思える。台湾島は南北に長く、北部は亜熱帯、南部は熱帯だ。南部に位置する台南は台北に比べると暑くてメロウで、より南国チック。幾分のんびりしているから、台北ではとても勇気が出ない、スクーターに交じってたまに車道を走る行為も、なんとか大丈夫だ。レンタサイクルを利用したいなら、駅付近で「租車」の看板を探すといい。
ユイーさんに先導されてまず向かったのは、ユイーさんのお友だちの店、葉家小巻
米粉。メニューは小巻湯(スープ)と小巻米粉(麺)のみで、イカの出汁の滋味深さは、時間帯や体調にかかわらず体が受け入れ、じーんと沁みわたる。そして思わず、嘆息が漏れる。
茂雄蝦仁肉圓では肉圓を。台湾らしい食感のひとつに“とろみ”が欠かせない要素だと思うが、この肉圓こそは象徴的。肉圓もソースもトロトロでなんだか全体的に締まりがないのだが、こんなにおいしいものがあるものかね、というほどだ。台南の特産であるエビが、餡にも(エビの頭で出汁をとって)ソースにもたっぷり使われている。
口直しに、台湾式紅茶のスタンドの雙全紅茶へ。砂糖の量とホットかアイスかは選べるが、数種の茶葉をブレンドしたオリジナルドリンクひとつで勝負する、1949年から続く繁盛店だ。ほのかな苦味と甘みが絶妙にマッチした、簡単に言ってしまえば甘い紅茶なのだが、ルーカスに「人生で最もおいしい飲み物」と言わしめた。たしかに台南の気候にも気分にもぴったりで、店前の路地で自転車にまたがったまま喉を潤したのだった。
ここからはデザート編。横丁を入った江水號では、緑豆のかき氷を。ここでもやはり、目の前の大皿に盛られたトッピングの豆やフルーツの、食欲をそそることといったら。そして、レトロな街並みはそのままに新しくおしゃれな店が続々とできている正興街では、デートしている若者たちに交じってジェラートやカフェラテと洒落込む。伝統菓子店の萬川號餠舗や舊來發餅舖では、ドヤドヤ大人数で押しかけたわりには、みんなで肉まんやパイナップルケーキひとつをシェア。もちろん文句なしのおいしさだったのだが、そろそろお腹がいっぱいなもので、売り上げに貢献できずすみません。
潔くひとつに特化したメニューを、客の目の前で調理していることだったり。それを家族で何十年も続けていることだったり。店舗は壁に囲まれた室内ではないどころか、客席は完全に往来にあったり。人と食が街のなかで渾然一体となっているのが、台南のおいしさをつくっている。そんな気がしながら、裕成水果店のスイカジュースで仕上げ。今日はもうこれ以上、何も食べられない。