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チューリッヒから近郊の牧場へ|スイス、持続可能な食 (1)

以前、『PAPERSKY』には『From A to B』というコーナーがあった。ある地点からある地点までを移動し、道すがら出会った人やもの、ことをリポートする記事だ。今回、久しぶりにそのフォーマットを思い出してスイスの紀 […]

11/10/2015

以前、『PAPERSKY』には『From A to B』というコーナーがあった。ある地点からある地点までを移動し、道すがら出会った人やもの、ことをリポートする記事だ。今回、久しぶりにそのフォーマットを思い出してスイスの紀行記事を制作する。テーマは、「持続可能な食」。環境に負荷をかけない方法を見つけ、人の身体にも優しく安全な食材を生産する試みにはどのような事例があるのだろうか。スイス北東に位置するチューリッヒから、南西のレマン湖畔ラヴォー地区までを旅する。
チューリッヒ空港から鉄道で10分ほど、チューリッヒ市街地に到着する。スイス最大の都市だという話がウソだと思えるほどに空気が澄んでいる。トラムの路線も整備されているが、駅から旧市街地までの移動は徒歩でも問題ない。規模はこじんまりしていて街並も美しく、街の中心を流れる川の水も驚くほどに透明だ。夏に気温が上がると、川で泳ぐ人も多いという。
その空気と水の綺麗さがそうさせるのか、スイス国民は化学肥料などを使用しない有機農産物、有機畜産物の購買率が高い国だ。国内でCOOPと人気を二分する大手スーパー、ミグロ(MIGROS)を訪れた。このスーパーでは、取り扱う商品の品質を把握し、安全な商品を適正な料金で販売するために、チーズやコーヒーから歯磨き粉まで、あらゆるカテゴリーの商品製造をプライベートブランドでカバーする。
野菜や肉などの生鮮食品、チーズやハムといった加工食品も豊富で、BIOマークが付けられた商品が数多く並ぶ。チューリッヒから車で40分ほど、有機農業を学びに来る研修生を海外から受け入れているヴィルデッグという村の牧場を訪れた。経営者であり、以前は子どもに農業を体験させる活動を行っていたアロイス・ヒューバー(Alois Huber)さんに説明を聞くと、BIO認定を受けるための条件の厳しさに驚かされる。
「うちの牧場では70頭弱の牛と、その他に豚や鶏も飼育しており、52ヘクタールの農地で有機飼料を生産しています。例えば牛の場合、BIO認定を受けるためには毎日3時間、牛舎の外に出さなければならず、飼料としても10%以上の割合で有機飼料のワラを与えることが義務づけられています。病気になっても専門の獣医以外からの投薬は許されていないなど、いくつもの条件が設定されています。そして、毎日日誌に記録し、提出して問題がなければ、ようやくBIOの認証が与えられるのです」
大変ではあっても続ける理由を尋ねると、政府からの助成金額の高さをあげる。牛乳であれば、有機の場合は1リットルに対して0.8スイスフラン、そうでなければ0.52スイスフランの助成が、有機生産の小麦であれば100kgに対して106フラン、そうでなければその半分しか助成金が得られない。丁寧に育て、作業に時間を費やして対価が得られる。実際にこの助成金の差額が、年間収入においてどの程度になるかはわからないが、少なくとも、「家畜以外にも、例えば妻と娘が乗馬を楽しむために馬を飼っているように、うちにはいろいろな動物がいるんですよ」と語るヒューバーさんの姿からは、たしかに余裕が感じられる。公共のあらゆる事柄が国民投票によって決められる、という直接民主主義が徹底するスイスだからこそ、正しい人が正しく評価される仕組みが維持されているのかもしれない。これからどんな人に会えるのか、スイスの旅は続く。
取材協力:在日スイス大使館
https://www.facebook.com/SwissEmbassyTokyo