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熊野亘/プロダクトデザイナー|PAPERSKY Interview

, 2015/10/05

熊野亘さんはフィンランドのアールト大学で家具デザインを学んだデザイナーであり、今回の特集のゲストである上原かなえさんの夫でもある。若いころに7年間も滞在することになったフィンランドで出会った、自然とともに生きる人々の暮らし方と、そこから生まれるものづくりの思想について訊いた。
 
―熊野さんがそもそもデザインの道に進むことになったのは、どのような動機があったのでしょうか。

両親がインテリアに関わる仕事をしていた影響もあるんでしょうね。小さいころからものづくりが好きでした。東京の大田区に住んでいたので、友人たちの親が家業として町工場を営んでいたりして、そういった場所が普段の遊び場でしたし。だからものづくりに関わる方向に進むのは自分にとってすごく自然なことで「もうこの道しかない」と勝手に思っていましたね(笑)。なかでも、人間の生活に最も密接に関わっているものといえばやはり家具だなと思って、プロダクトデザインを学ぼうと。また、日本だけでなくいつか海外でも勉強してみたいなあと思っていたので、英語でデザインの勉強ができる学校ということで金沢国際デザイン研究所に入りました。
 
―当時から北欧のデザインに関心をもっていらっしゃったんでしょうか。

そうですね、デザインの勉強をするうちに北欧のデザインに魅了されていったという感じです。金沢国際デザイン研究所はニューヨークにあるパーソンズ・スクール・オブ・デザインと提携していて、卒業後には同校に編入する制度になっていたのですが、ニューヨークは自分のなかでなんとなくピンとこなかったところがあって。当時は世界的にオランダのデザインが台頭してきた時期で、コンセプトやアイデアを重視したデザインが全盛だったのですが、やっぱり僕は北欧のプロダクトデザインがもっている、生活に密接に関係した、道具的なものづくりの考え方に関心があったんですね。それで、そのプロダクトが生まれた環境や背景をもっと知りたいと思って、北欧の学校に進みたいと考えるようになりました。
 
―それ以前に北欧の国を訪れたことはありましたか。

いや、一度も行ったことがありませんでした。だから、北欧といっても各国の違いなんかもわかっていなくて、すべてひとくくりで考えていたくらいなので、北欧ならどこでもいいかなと思っていました。フィンランドの学校へ進むことになったのも、言ってみれば「そこに受かったから」(笑)。21歳でしたから、今思えば自分でもよく行ったなあと思いますけれど。ラハティ応用科学大学というところで木工技術を3年間学んで、その後、ヘルシンキ芸術大学(現・アールト大学)大学院に進みました。
 
―まったく経験したことのない、初めての北欧での暮らしはいかがでしたか。

向こうは時間の流れがぜんぜん違うんですよね。長い期間じっくり考えて生活し、ものをつくることがフィンランドではとても重要なんです。東京は情報量も多くて刺激的だし、非常に速いスピードでものごとが進んでいくので、そうした生活はなかなかできません。でもフィンランドは気候も含めて自然環境が厳しいし、目先だけのことを考えていては生活が成り立たない。特に冬の間はとても寒いし暗いので、ひたすら勉強したり、じっと何かに打ち込んだりする期間になる。でも、じつは僕自身がどこかでそうした生活を求めていたような気がしたんです。東京に生まれて、子どものころからずっと早い流れのなかで生活してきたんですが、もっとゆっくり考える時間を必要としていたのかなと。
 
―フィンランドの人々の自然とのつきあい方に気づかされるものがあったんですね。

そうですね。フィンランドの人たちって、森のなかに入ると「安心」するんですよ。これが日本人だと、空気がおいしいとか景色が綺麗だとかいう気持ちがあっても、やはり森のなかに入ると方向感覚を失うし、食料も寝床もないし、どこか不安になると思うんです。そこがまったく違うというか。フィンランド人の友人なんかも、休日になると本とランプと雨よけのシートだけを持ってひとりで森のなかへ入って、ゆっくり1泊して過ごす、なんて生活をしたりしていて。日本人だとちょっと考えられないような感覚ですよね。彼らは森のなかでどの方向に行けばどんな木やきのこがあるとか、そうした方向感覚にとても長けているんです。特定の個人だけじゃなくて、全般的に誰もがそういうことができる。そうした性質がフィンランド人にはDNAのレベルで刻み込まれているのかなと思うくらい。人口と都市や自然とのバランスがすごくいいからこそだと思いますが、彼らと自然との距離の近さを感じました。
 
―そういう森と親しむ生活のなかで生まれた木工の技術やデザインについては、どのように感じられましたか。

フィンランドの森の多くを占めるマツは、じつはあまり木工には向いてない素材なんですね。だから集成して使用したりするわけですが、よい木を贅沢に削り出すのでなくて、目の前にあるものを歩留まりよく応用して、マテリアルとして効率よく使う。アルヴァ・アールトの有名なスツールも無垢材ではなくて、まっすぐなものを曲げ木にして無駄なく使ってつくっています。他の北欧諸国と比べても、フィンランドにはそうした伝統があるという気がします。 フィンランドは今でこそ豊かな国ですが、これまでロシアやスウェーデンに攻められたりと、厳しい状況のなかで産業を起こしてきた歴史がある。自国にある限られた資源を、技術力を高めることで最大限に活用していく。その意味で、「工芸」というよりも「工業」的というか。カイ・フランクがデザインした有名なカルティオというグラスの原型になった、彼が若いころにつくったものがあるのですが、それは一見ハンドクラフトのように見えるけれど、線を追ってよく見ていくと、非常にしっかりとした工業製品であることがわかる。手仕事の雰囲気を残しながらも、耐久性と機能性、コストパフォーマンスの面までバランスよく考えられている。こうした「人間的なあたたかみのある工業製品」が、フィンランドのものづくりのカラーになっていると思います。また一方で、そうした伝統は日本のものづくりのなかにもある感性だという気もして。シンプルで使いやすい道具に対する感性を含めて、両国にはリンクする部分が多いんですね。だからフィンランドは日本人にとって居心地がいい国なんだと思いますね。
 
―7年間の滞在を経て、日本に帰国されることになったのはなぜですか。

大学院の卒業制作をする過程で、たまたまレクチャーでフィンランドに来ていたイギリス人デザイナーのジャスパー・モリソン氏とお会いして、僕の作品を見ていただいたことから交流ができました。その後、彼が東京にオフィスを構えることになったことから声をかけていただいて、2008 年に日本に戻ってきました。
 
―モリソン氏のデザインのどんなところに惹かれましたか。

そうですね、彼自身も日本やフィンランドのものづくりに通じる、シンプルな道具的な感性をもっていると思うのですが、彼はそこにさらに「個性」や「新しさ」を併せ持っている。彼のデザインするものはけっして奇をてらったものではないけれど、どこかに時代の半歩先を行くような新しさがある。そういうかたちで、より多くの人に受け入れられるデザインが自分にとって新鮮でした。
 
―帰国してから7年が経ちますが、現在はどのような活動をされていますか。

今、金沢の和菓子屋さんの内装を手がけているのですが、だんだんと家具だけでなく、それを配置する空間にまで自分の意識が広がっているのを感じます。もののもつ力強さや美しさだけでなく、それがある環境も含めてつくっていきたい。その場所にいるだけでリラックスできるとか、アイデアが出るとか、気持ちが豊かになる空間。ものが増えて暮らしが便利になることはいいのですが、それだけでは豊かな気持ちになることはできないなと。フィンランドで勉強したことのひとつは、もっとゆっくり考えながら生活するということの大切さ。そういう豊かな暮らしを実現できる空間をつくっていければと思います。
 
―熊野さんにとって、外国へ行くこと、旅することはどんな意味がありますか。

子どものころから外国に住んでみたいと思っていたし、今も旅が大好きですが、それは自分のデザインの仕事にとってもとても大事なことだと思っています。僕は旅に行くと必ず、ローカルなスーパーマーケットに行くんです。そうすれば、そこに住んでいる人たちが何を食べて、どういう暮らしをしているのかをリアルに知ることができるから。たとえば野菜を見れば、どれだけ自国で生産しているのかがわかるし、そこから彼らを取り巻く状況も見えてくる。そうやっていろいろな地域に住む人々の多様な生活を知ることは、僕が考えてきた「生活に密着したものづくり」を考えるうえで、とても大切なことじゃないかと思いますね。
 
熊野亘(くまの わたる) Wataru Kumano
1980年生まれ。2001-08年にフィンランドへ留学、ヘルシンキ芸術大学(現アールト大学)大学院を卒業後帰国、Jasper Morrison Studio Tokyoでアシスタントデザイナーを務める傍ら、2011年にデザインスタジオ”KUMA”を設立し、国内外のクライアントとインテリアやプロダクトデザインのプロジェクトを持つ。また、2012年から、一般社団法人Japan CreativeのR&Dを務める。www.watarukumano.jp

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