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  • Photography: Ritva Kovalainen
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Tree People -「木の民」たちが守ってきたもの

, 2015/08/31

生活の場、道具の資源としてだけでなく、人々の心を支え続けてきた森の木々。フィンランド中の森を訪ね歩き、人間と木の関係を探り、撮り続ける写真家リトヴァ・コヴァライネンさんに訊く。

時にノスタルジックなモノクロームで、あるいは繊細な美しさを湛えたカラーで。ただし、それらの写真が讃えているのは、観光用ポスターで見慣れた無害で健康的な自然の美しさではない。フィンランド人写真家リトヴァ・コヴァライネンが友人のサンニ・セッポとともに1990年から取り組んできたプロジェクト「Tree People」についての写真集『フィンランド・森の精霊と旅をする』(プロダクション・エイシア刊)に収められた森の風景は、静謐で時に幻想的なムードにあふれている。フィンランドの広範なエリアに点在して残る「聖なる木」をひとつひとつ訪ね歩き、フィールドワークを重ねて撮影されたそれらの作品は、経済的あるいはエコロジカルな観点からのみ語られることの多いこの国における森の重要性に対して、「スピリチュアル」という視点をリマインドさせるものだった。そこに記録されているのは、単に道具や食料を生み出してくれる源泉としての森だけではなく、信仰や畏敬の対象であり、心の拠り所としての木々の姿。この国の森を撮り続けてきた彼女に会いに、フィンランド南西部の島、キミト島の森のなかにあるアトリエを訪ねた。

「私が関心がもっているのはいつも、人間と自然の関係なのです」と彼女は広々としたアトリエの隅に腰かけて話す。
「かつてこの地の至るところに、素朴な自然への信仰やそれに基づく慣習がたくさんありました。「Tree People」のプロジェクトは、そうした木と人間の精神的な結びつきを知るために、歴史や物語のある樹木についての情報を呼びかける新聞広告を出すところから始まりました」

彼女らの呼びかけに、フィンランド中から手紙が届いた。そして、さまざまな地域に残る神話や風習、言い伝えの数々が報告された。森の神々に生贄を捧げ、祭祀が行われる「ヒーシ」と呼ばれる聖地としての森について。守護霊の気分を損ねた者がかかる「森の鼻」という名の奇病について。各家の庭に植えられ、世代を超えて受け継がれる「守護の木」について。死者の生年と没年を、マツの木肌に刻む風習「カルシッコ」について。森の王であり人間の祖先とされた熊という存在について……古の時代から続いてきた人と自然の結びつきを、リトヴァはていねいに記録し、美しい写真と言葉に遺した。「Tree People」のプロジェクトを終えた今も、彼女はずっとフィンランドの森を撮り続けている。

「古来、フィンランドの人々は身近な自然を崇めて暮らしてきました。そう、日本と同じようにね。こうした木と人の緊密な関係は、13世紀、キリスト教会に森や聖地の所有権が認められたことから破壊され始めました。数百年をかけて木々は切り倒され、土着の信仰の場が教会や礼拝堂に取って代わられました。そうした状況のなかでも木への信仰をひっそりと持ち続け、それらを受け継いできた人たちもいましたが、近代以後、森林開発という新たな脅威によって森は破壊されるようになりました。もちろんそうした産業は国民の暮らしを経済的に向上させましたが、一方でネガティブな効果ももたらしました。木々は大量に伐採され、もはやまったく人の手の入っていない天然の森林はほとんどありません。生態系が変化して、花粉症などの新たな病気が広まり、それと同時に木と人間との心の結びつきもまた急速に失われています」

そうした現象はもちろんフィンランド一国に限った話ではない。日本においても、近代化のなかで自然と人間は日々、分断されている。リトヴァはこれまでに写真集の出版などを通じて何度も日本を訪れたという。

「日本は都市でのライフスタイルとスピリチュアルな信仰心という、ある種の矛盾を抱えた国に見えます。しかし、日本の各地に残る神木を見たとき、それはフィンランドの木とは違っていたけれど、私にはやはりフィンランドの聖なる森と同じものをそこに感じることができました。私たちは「木の民」として、精神的な拠り所として森を思う気持ちをもち続け、なんとか次の世代へ受け継いでいかなければならない。いつかもう一度日本を訪れて、そうした木々を撮影してみたいと思っています」。
 
リトヴァ・コヴァライネン Ritva Kovalainen
ヘルシンキ美術デザイン大学修士課程修了。1990年よりサンニ・セッポと「Tree People」プロジェクトを開始。1997年には、優れた芸術家に国家が進呈するSuomi Prizeを受賞。2006年には一連の活動に対し、Enviromental Action Awardが贈られている。www.puidenkansa.net

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