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  • Photography:Cameron Allan Mckean
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糸がなくなれば負ける|浜松大凧 3

, 2015/07/16

午後遅くの浜松市の中田島砂丘の上の青空は、視界をさえぎるものもほとんどなく、大きく広がっている。ひとつだけ上がった凧が、空高く泳いでいるのが見える。麻糸を引いて下ろすと、遠くにぽつんと見えていた影が、力強くエネルギーに満ちた巨大な物体に変わる。飛ぶ姿を近くで見てみると、竹と和紙だけの造形物とは思えない。人々がこのような巨大な凧に魅せられ、想像をたくましくしてきた理由がわかる。1900年に京都学派の哲学者、西谷啓治が日本をまさにそのような巨大な凧になぞらえている。西谷は当時、どう動くか予想がつかない近代化の風のなかを進んでいく日本の姿を的確に表す比喩を探していた。そこで凧を思いつき、「伝統」は凧が四方八方から打ちつける風のなかで「進むべき道を見失い、バランスを失わない」ようにしてくれる凧糸であると考えた。「難局に差しかかるたびに凧糸を引くことで、日本は完全に行く手を見失うことを避けてきた」と西谷は述べている。浜松には伝統という「凧糸」を引く力があちこちに存在し、四方八方から糸が引っぱられているという。「それが最大の問題なんです」と大石直人は言う。大石は浜松市の中心街で祭り用品を扱う店を経営する店主。店でははっぴや、麻のシャツ、手拭い、履物などを販売している。浜松まつりは、各町がそれぞれ資金を捻出して、自分たちの町を代表する凧揚げの連を運営している。伝統が息づく凧揚げ合戦は今、大きな転機のなかにある。「祭りがあまりに大きくなりすぎています。私たちの世代はもう指導者の座から退きました。今後は若い世代が、自分たちが望むリーダー像を決める番です」と彼は話す。「しかし、これは難しいことです。今の若者世代は、昔と全然違いますから。日本がこれからどこに向かっていくのかわかりません」。私は日本列島に置き換えられた巨大な凧が、空高くへと飛んでいく様子を眺めた。大石がこれまでの伝統の継続を望むのも無理はない。彼は自分を取り囲む環境に起きている変化をひしひしと感じ、危機感を抱いている。1980年代には凧揚げに参戦する町内は60ほどだったが、今や170以上。大石の若い頃、連同士が争っても仲裁できる範囲だったが、今では警察の機動隊が出動するほどだという。

「とにかく人が多くて。正直、多すぎるんじゃないですかね」、大石がそう言ったとき店にお客が入ってきた。その男性客は、町紋が染め抜かれた厚手の麻のはっぴを持ってきていた。はっぴに糸がこすれてできた濃い焼け焦げの跡を、次の凧揚げ合戦までに直してほしいという依頼だった。大石は郷愁にかられ、古い本の山のなかから何冊かを取り出した。そこには1970〜80年代の浜松まつりに参戦した、はっぴ姿の揚げ手の写真がいっぱい載っていた。「私が赤ん坊の頃、父親が私に凧をあつらえ、祭りで揚げてくれました。私に長男が生まれたときは、私も息子の凧をあつらえましたよ」。そう言いながら、引き出しのなかを探って古いはっぴを探す。彼の後ろでは大人になった息子が、凧の揚げ手をやっているお客から修繕が必要なはっぴを受け取っていた。

大石直人
浜松市街にある祭用品店「凧人」店主。凧揚げの名手でもある息子と経営するお店には、全国各地から祭用品の注文がある。

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