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凧印の戦い|浜松大凧 2

和紙でできた大凧が空に舞い、竹でできた軽い骨組みからは数百メートルの長さの麻糸が続いている。その麻糸は大凧が舞うのに合わせ、糸枠からほどかれていく。遠くからでも、すべての大凧に描かれたシンボルが見える。幾何的な漢字の文字 […]

07/09/2015

和紙でできた大凧が空に舞い、竹でできた軽い骨組みからは数百メートルの長さの麻糸が続いている。その麻糸は大凧が舞うのに合わせ、糸枠からほどかれていく。遠くからでも、すべての大凧に描かれたシンボルが見える。幾何的な漢字の文字、ひらがな文字など、デザインはさまざまだ。浜松市を構成する各町の凧印である。 今年の凧揚げ合戦には174の連が参戦する予定。彼らが揚げる多くの凧が、遠州灘から吹きつけるからっ風に乗っていっせいに空高く舞うことになる。たくさんの極彩色が集まって、無数の凧が風にあおられて動きまわる様子は、まるで移り気な装飾だ。しかし、観衆の目に映っているのは装飾ではなく、各町が名誉をかけて互いの糸を切り合う熱戦である。「そこらじゅうが凧糸だらけで、空は凧でいっぱいでした」。二橋教正が、凧の揚げ手をやっていた時代の祭りの様子を回想する。「勝つためには、できるだけ高く遠くそして、速く揚げないと。それが最大のコツですね」。2度にわたって常盤町の大凧連のリーダーを務めた経験があるが、それはもう20年以上も昔のこと。二橋は浜松の凧揚げ合戦とも関わりの深い、日本手拭いをつくる工場を営んでいる。凧揚げ合戦は地域の合同行事であり、参加者は凧を揚げる人、探す人(凧がぶつかったときや糸が切れたときに探してくる係)、凧をつくる人のほか、麻糸、はっぴ、手拭いを用意する裏方など、多種多様な層からなる。凧印が染め抜かれた手拭いが所属する各町を示す印となる。二橋は機械や道具のひしめく工場に私たちを招き入れた。裁断機もあれば、染色の機械もある。電球の光が届きにくい薄暗い場所に、もっと大型の機械の輪郭が浮かんでいる。手拭いの標準的な大きさは縦36cm×横95cm。風呂のある家がほとんどなかった戦前、人々は手拭いを銭湯に持参し、風呂上がりに身体を拭くのに使っていた。「1927年から、家族でこの工場を経営してきました。私は三代目です」と二橋は話す。 彼はこの工場で11人の従業員とともに、大凧揚げに参戦する各町の凧印を「注染」といわれる技法で手拭いに染めつける。「この工場で、祭りに使われる手拭い全体の3割を生産しています」。それだけの手拭いは、数にすれば万単位になる。「地元の人間は、凧を揚げることを外の人間に見せるショーとしてではなく、自分たちの力を競う勝負として楽しんでいますから」。二橋は天日干しされている、でき上がったばかりの手拭いに染められた何百もの凧印を見つめながら、そう言った。
二橋教正
二橋染工場の三代目。祭りには欠かせない手ぬぐいを浜松注染そめで制作。最近ではファッションにもその技術を活かしている。
» PAPERSKY #47 San Francisco | Good Company Issue