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神崎を変える小さな芽|こうざき自然塾|神崎 自然食 (2)

「我が家はここで20代ほど続く農家です。私も18歳のころから農業を始めました」と鈴木一司は言い、私たちを裏の事務所に案内してくれた。そして、手を使って働いてきた人特有の太くてごつごつした指で2種類の名刺を出した。ひとつは […]

09/29/2014

「我が家はここで20代ほど続く農家です。私も18歳のころから農業を始めました」と鈴木一司は言い、私たちを裏の事務所に案内してくれた。そして、手を使って働いてきた人特有の太くてごつごつした指で2種類の名刺を出した。ひとつは「鈴木一司 大豆生産者」、もうひとつには「鈴木一司 米生産者」。神崎町の彼の田畑では、年間で米を約120t、大豆を約40t生産している。その90%は化学肥料をいっさい使わずに生産されたものだ。だが鈴木は「完全な自然農法を目指して努力を続けている」と言う。鈴木の関心は、神崎町で暮らす人々のためによい原料をつくることにある。「自然農法に転身したのは5〜6年前のことでした。農作物を自然な方法で育てていない自分は、本物の農家ではないと思ったんですよ」
日本の昔からの零細農家に福岡正信(1913-2008)という生産者がいる。彼は「自然に還る」ことが、品質のよい食料品をつくるためだけでなく、新しい生き方を創造するための手段になると考えた。化学肥料をいっさい用いない農業に対する熱い思いを綴った『わら一本の革命』(春秋社)という福岡の著書は、自然農法の世界で最も重要な本のひとつになっているが、その冒頭には次のように書かれている。
「人間革命というのは、この、わら一本からでも起こせる、と私は信じております。このわら、見かけは、きわめて軽くて小さい。こんなわら一本から革命が起こせるというと、普通、いかにも奇妙に思われがちですが、実は、このわら一本の革命というか、わら一本の重さというか、一物一事が何であるかを、私はあるとき知ったんです。」
神崎町でのささやかな革命がもたらした成果のひとつは、よい食べ物を媒介として、この町へ移り住もうという動きが見えてきたことである。鈴木の農園は、こうした生産者たちの生態系全体を支える存在として、寺田本家の自然な酒づくりから近所の豆腐屋まで、さまざまな実践者に原料を提供している。
帰り際に鈴木は、これから植えつけを行うという種もみを見せてくれた。布袋を開いて、そっと手ですくい取る。手の平の上で種もみを広げ、少しずつ動かしながら、目を細めて種もみのひとつひとつをじっくりと確認する。「ほら、ここに」と鈴木が言った。まだなんの価値もないような小さな芽だったが、それはやがて神崎を大きく変えることになるだろう。
こうざき自然塾
千葉県香取郡神崎町神崎神宿674
TEL: 0478-72-3667
www.kozaki-shizenjyuku.jp