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MASAYA FANTASISTAと遥かなるコロラドへ

コロラド州の中核都市、デンバー市に到着したとたん、ロッキー山脈が「アメリカの背骨」と呼ばれる由縁が容易に飲みこめた。近代的なビル群の背景に連なる、ロッキーの勇壮な景観。屹立した山々が、人口300万人ほどの都市とまるで隣り […]

07/31/2014

コロラド州の中核都市、デンバー市に到着したとたん、ロッキー山脈が「アメリカの背骨」と呼ばれる由縁が容易に飲みこめた。近代的なビル群の背景に連なる、ロッキーの勇壮な景観。屹立した山々が、人口300万人ほどの都市とまるで隣り合わせだ。かの地で出会った住人たちからは、「14ers(フォーティーナーズ)」という単語が何度も聞かれた。これはコロラドに存在する、標高14,000フィート(約4267m)超の山を指す言葉。この州には14ers、つまり富士山よりも高いピークがじつに、53座もあるという。そんな土地をめぐり歩くため、今回、フォーカスしたのがボルダリングと温泉だった。コロラドの壮大な山々、大地を形成したのは太古から続く旺盛な火山活動だ。無数の噴火がもたらした巨岩と、地下のパワーが噴火とは別の形で露呈する温泉。この2つの現象は住人のライフスタイルにも大きな影響を与え、ここにはボルダリングと温泉を楽しむカルチャーが深く根ざす。そんなことを考えながら僕らはステイ先を選んでいった。
連日、車で移動しながら、気ままに攻める岩を変えていくスタイルはダートバッグと呼ばれ、アメリカではポピュラーな旅の手法。このダートバッグを実践しながら、僕らは毎日のように花崗岩、砂岩、石灰岩といった多彩な岩を存分に楽しんだ。
ともに旅したのはレコードレーベル「Jazzy Sport」を主宰し、プロデューサー、DJとして活動を続けるMASAYA FANTASISTAさん。所属するDJとともに国内外のクラブやイベントを旅してめぐる傍ら、幼少からスキーに打ち込んできたアスリートでもあり、ボルダラーでもある。
「スキーができるってことで大学も岩手を選んだくらい。そこでホームになったのが、圧雪してないのが当たり前のスキー場で、山の地形がそのまま活かされているようなゲレンデだった。そういう場所で、滑ることと同時に山そのものを楽しむということを知ったんです。その後は必要にかられて山に登るようにもなった。リフトがない冬山を登って、自然の地形を滑り降りたいって。でも厳しい山を登るようになって自分の自信が打ち砕かれたし、もっともっと経験を積まないとダメだと思うようになったんです。それでわざわざ重い荷物を背負って山を登ったり、クロストレーニング感覚で他のスポーツに打ち込んだり。ボルダリングもその延長線上ですね。山岳スポーツにはたくさんの種類があるなかで、ボルダリングはとにかく手軽に始められるのがいい。4手とか5手で終わってしまう短い時間のなかに、自分とひたすら向き合い続けるという貴重な時間が詰まってる」
そんなMASAYAさんと、地図や旅人からの情報を頼りに、ユニークな岩を探しては登る旅が続いた。標高4,301m、パイクスピーク山麓ではコロラドスプリングスの街を拠点とし、クライミングのメッカ「ガーデン・オブ・ザ・ゴッズ」を攻める。ここは赤い砂岩が巨大なモニュメントのようにひしめき、まさに「神々の庭」の名にふさわしい荘厳な景観の公園。ボルダラーだけでなく、たくさんのロープクライマーが岩に取りつく様子が印象的だ。とは言えボルダラーにとってはシットスタート(座った状態からのスタート)で気軽に楽しめるトラバースの課題なども用意された敷居の低いスポット。公園内をナビゲートしてくれたガイドのパトリックはにこやかにこう説明してくれた。
「僕がガイドするうち、90%くらいがボルダリング初体験の人たちだね。それくらい、カジュアルな場所だと言っていい。それなのに、ここには中生代、白亜紀、古生代、石灰期の地層がそのまま残っていて、他じゃ見られないような風景を眺めながら、多彩な種類の岩に登ることができる。こんなスポット、なかなかないよ」 
ある日には、壮大な山脈に向かって果てしなく続く道を車で約4時間疾走した。着いた先はレッドストーンという、地元では人気のボルダリングスポットであり、付近には人気の温泉もある。車を降り、美しいクリスタルリバーの川底から突き出たようなスプラッシュボルダーという岩へ。例年になく大量の雪解け水がパワフルに川を流れている。その水音をBGMに、僕らは時間をたっぷり使って眼前の岩を楽しんだ。MASAYAさんはいう。
「登っていると、こんな大きな岩、どこから転がって来たんだろうってまず思う。頭に浮かぶのは、この大陸のルーツとか、壮大な時間についてとか。すごい勢いで流れる川の水を見れば、ロッキーがどれだけスケールの大きな山かも体感できる。ピークからいくつもの尾根が伸び、そこから無数の沢が生まれ、それらが合流して今、目の前の風景があるわけだから」
車で移動し、山を歩き、岩と対峙し、温泉に入るという旅は幾日も続いていった。すると、いつの間にかとんでもない量の情報が体のなかに染み入ってくる。一心不乱に自然と向きあう姿勢を求められる、ボルダリングという行為。だからこそ気づけることが確かにたくさんある。
「スキーで山を滑り降りる行為はとにかく美しいと思う。それとはまた全然違った美しさがボルダリングにはあるんですよね。ボルダームーブって言われるように、単純にスタイリッシュだし、動きのバリエーションは無限で、今まで感じたことのない体のバランスを体験できるのもおもしろい。これに集中していると、岩とか地形とか山そのものといった膨大な情報が自然に入ってくる。言葉にするのは難しいけど、コロラドの山のコアな部分に触れられた気がしますね。ボルダリングじゃないとキャッチできない感覚ってやっぱりあるんだと改めて感じました」
難しい課題を目前に、岩を見つめながら考える。なんとかしてこのパズルを解こうと思案を重ねていると、向こうから別のボルダラーがやってきて、課題をクリアするヒントについて自然と議論が始まった。広大なエリアの隅々にまでボルダリングカルチャーが深く浸透するこの土地。情報をあまり持たない旅人でも、経験の少ないビギナーでも、地元の情報通と接することで問題なく山や岩と遊ぶことができる。
「壮大な自然のなかに入ると、自分が大したことない存在なんだって一発で気づかせてくれる。そういう経験を積んできた山岳スポーツ好きの連中同士ってやっぱりリスペクトし合えるんです。そんな気持ちを共有できる人とつながっていたいから、ボルダリングとか山岳スポーツが楽しいっていうのもある。そう、僕が音楽とスポーツに夢中になり続けているのは、人の輪が広がるおもしろさ、なんですよね。それにしても僕が接したコロラドの人たちは気持ちのいい人ばかりだった。地元の人がどこか洗練されているのは、やっぱりこれだけの自然に囲まれているからなんですよね」
 
MASAYA FANTASISTA | 音楽プロデューサー、DJ
「JAZZY SPORT」主宰。幼いころからピアノを始め、徐々にジャズへと傾倒。大学卒業後にストリート・ミュージックの老舗レーベルで勤務した後、自身の会社「JAZZY SPORT」を立ち上げ、DJ、プロデューサーとして膨大な数のヴィニール盤をリリース。同時に、スキー、ボルダリング、フットサルなど多くのスポーツに傾倒し、音楽、スポーツを通じての情報発信、コミュニティづくりを勢力的に続けている。
www.jazzysport.com
 
» PAPERSKY #45 Colorado | Bouldering & Hot Springs Issue (no.45)