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ノルウェーのクリエイターライフ|オイスティン・アウスタッド

ノルウェー発祥のアウトドアブランド、ヘリーハンセンと、自然とともに暮らすノルウェーのクリエイターを訪ねる旅。第3回は、デザイン会社「StokkeAustad」の共同代表で、オスロを拠点に活動するプロダクトデザイナーのオイ […]

06/19/2014

ノルウェー発祥のアウトドアブランド、ヘリーハンセンと、自然とともに暮らすノルウェーのクリエイターを訪ねる旅。第3回は、デザイン会社「StokkeAustad」の共同代表で、オスロを拠点に活動するプロダクトデザイナーのオインスティン・アウスタッドさん。ヨーロッパ諸国をはじめ、アメリカや日本など、各地のクライアントと関わりながら、ノルウェーからユニークなデザインを提案するオインスティンのライフスタイルをのぞきに、新緑のオスロに向かった。
「どうしても行きたい場所があるから、そこで待ち合わせをしたい」。オインスティンから告げられた住所を頼りに、オスロの中心地から少し離れた閑静な住宅街へ向かうと、そこには彼が以前から興味があったという邸宅があった。ノルウェーの建築やデザインを語る上で欠かせない、アルネ・コルスモが設計した家だ。
「アルネ・コルスモはノルウェーの建築やデザインに多大な影響を与えた人物で、彼が存在しなかったら現在のノルウェーデザインはなかったとまで言われるほど重要な人物。僕が憧れるデザイナーのひとりでもあるんだ。でも、この家のなかを見学できるのは春から夏にかけての数日間だけだから、こうして内観するのは僕も初めて」。
アルネ・コルスモが設計したこの家は、実業家でアートコレクターでもあったロルフ・ステナセンの邸宅で、1958年に建てられたモダン建築である。インテリアもすべてコルスモによるカスタムデザインで、当時としては実験的な素材が随所に使われている。
「実業家のステナセンはアーティストやデザイナーとも交流が深く、画家のエドヴァルド・ムンクもこの家を大変気に入って、よく遊びにきていたとか。それにイームズ夫妻やアルネ・ヤコブセンなんかとも親交があったから、家が完成した当時は、アート業界の重要人物たちがこの家に出入りしていたんじゃないかな」
実際、この家はステナセン一家の住まいであると同時に、社交の場としても使われていた。「INSIDE & OUTSIDE」というコンセプトのもと、1階のフロアと庭には境界線がなく、室内と庭を自由に行き来できる開放的な空間になっている。夏は沈まない太陽を口実に、毎晩のように宴が繰り広げられていたことだろう。
ステナセン邸をじっくり堪能したあとは、市街地を見下ろす高台にあるオスロ市民の憩いの場、ヴィーゲランパークへ。やわらかな光が降り注ぐ公園には、春を喜び気ままに過ごす人々でにぎわっていた。ピクニックシートを広げランチを楽しむファミリー、フリスビーをする子どもたち、ジョギングをする人、手をつないで園内を散策するカップル…。日だまりのなかで、誰もが幸せな時間を過ごしている。
「オスロの大学に通うために引っ越してきて、最初に借りた家がこの公園の隣にあったんだ。当時は公園で過ごす時間も生活の一部で、散歩したり、寝転んだり、読書をしたり。季節の移り変わりを感じながら、毎日、のんびり過ごしていたね。とくに春から夏にかけては、ノルウェー人にとって特別な季節。寒い冬は閉じこもりがちだから、天気のいい日は光を浴びたくて、休日なら一日中外でのんびりしているよ」
ベルゲンの北にある人口2,000人ほどの小さな町、ヘルマンスベルグで生まれ育ったオインスティンにとって、自然はつねにそこにあるものだった。フィヨルドの街での生活は、まさに自然とともにある暮らし。ハイキングやスキーも日常の延長で、ヘリーハンセンの服はこうした暮らしに欠かせないものだったという。
「このクラッシックなロゴがなつかしいね。田舎では日常そのものがアウトドアライフだから、学校に行くときも山に行くときも、ヘリーハンセンを着ていたね」
いまでも夏には山のキャビンで過ごし、冬はクロスカントリーを楽しみ、公園や近くの森にも日常的に出かける。それはデザインの仕事をするうえでも大切な時間だとオインスティンは言う。
「自然はたくさんのインスピレーションを与えてくれる。デザインを考えるうえでも、まわりの自然環境にだいぶ影響されていると思うよ。僕らのプロダクトには実際、自然をモチーフにしたものも多いし、素材を吟味する際にも、自然との関わりのなかで培ってきたある種の感覚が働いているんじゃないかと思う。ノルウェー人独特の感性というのかな」
たしかにStokkeAustadのプロダクトには、洗練されたデザインのなかにやさしいぬくもりがある。ノルウェーの静かな森にインスパイアされたという「The Woods」や「Bubo Bubo Owl」、「時間を自由に!」というメッセージが込められたマグネット式カレンダー、昨年、Red Dot Design賞を受賞した「Noor」は、美しいフォルムのなかに、大地に抱かれているかのような安心感を与えるチェアだ。
「僕らがものづくりのうえで大切にしていることは、“対話”。クライアントとのやりとりもそうだけど、素材との対話もいいプロダクトを生みだすためには大事なこと。でもそのためには、日常のなかでいかに自然にふれ、自然からのメッセージを受け取れるセンサーをもっているかが大事なんだよね」
 
オイスティン・アウスタッド Øystein Austad
ノルウェー・ヘルマンスベルグ生まれ。プロダクトデザイナー。2005年、ジョナス R・ストッケとデザイン会社「StokkeAustad」を設立。「機能性が高く、環境に配慮した、ローコストなものづくり」をモットーに、国内外のデザイン展に出展。Wallpaperデザイン賞、Red Dotデザイン賞等、数々の賞を受賞。www.stokkeaustad.com
 
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