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ジョン・レノンも敬愛した、禅師の教えに触れる|東海道4

一行は沼津市に入り、江戸から数えて13番目の宿、原を目指す。ここには臨済宗中興の祖、白隠禅師ゆかりの松蔭寺という寺がある。臨済宗の最大宗派、京都妙心寺派の首座となりながら名利を離れ、故郷の松蔭寺に戻った白隠は名僧として天 […]

03/26/2014

一行は沼津市に入り、江戸から数えて13番目の宿、原を目指す。ここには臨済宗中興の祖、白隠禅師ゆかりの松蔭寺という寺がある。臨済宗の最大宗派、京都妙心寺派の首座となりながら名利を離れ、故郷の松蔭寺に戻った白隠は名僧として天下に知られ、参勤交代で東海道を通る大名らの訪問を受けることも多かった。白隠を慕う修行者は多く、多いときには700人がその説法を聞いたというが、来た者には食平等で接し、少ない禄でやりくりしたため貧乏暮らしだったという。
「白隠さんは、訪れる大名から立派なお寺の住職に招かれたこともあったと思います。でも自分はここに残って、弟子を行かせてね。人間、最後は名誉欲との戦いです。白隠さんはそれを貫かれた。その姿を見た弟子たちはやがて14 ある臨済宗本山の住職になり、いまでは臨済宗の法脈はすべて白隠さんに遡る。パソコンのソフトが全部、白隠さんって言えばわかる? その教えを伝えるのが、わたしの務めです」。つまり自分は駅伝の走者みたいなもの、と笑いながら住職の宮本国明さんが白隠禅師の座像へ案内してくれる。すべてを見透かすような座像の目に射抜かれ、一行はそろって頭を垂れる。
寺の近くにある「白隠正宗」という美酒の蔵元、高嶋酒造では白隠がユングに影響を与えた話を聞いた。ジョン・レノンもマイルス・デイヴィスも、自室には白隠の禅画を掲げていたという。後日、サリンジャーの短編集を開くと扉に「両手の鳴る音は知る。片手の鳴る音はいかに?」の文字。なんとこれは白隠の「隻手の音声」という禅の公案だ。「もしや白隠の教えを知らないのは自分だけ?と焦る。寺を辞去する際、「勉強します」と言うと住職は「深いよ」とおっしゃった。いったい、どれだけ深いのか。それはこれから知るだろう。
 
This story originally appeared in PAPERSKY’s Edo Tokaido Road Issue (no.36)