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  • Photography: Cameron Allan Mckean
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お弁当、緑茶、和菓子と、大相撲|市毛弘子 SUMO RYOGOKU 1

, 2014/01/22

祝詞が奏上され、清めの塩が高々とまかれ、歓声を上げる観客の前で巨体がぶつかりあう。これが大相撲だ。舞台は東京の下町の中心に位置する日本最大の相撲場、国技館。相撲はスポーツでもあり、神道の儀式でもある。
 
お弁当、緑茶、和菓子と、大相撲|市毛弘子

東京下町の午前6時。朝日が隅田川の濁った水の上に降り注ぎ、国技館の緑の屋根に反射する。そんな早朝の両国を市毛弘子が急ぐ。目指すのは、国技館内で自身が経営する案内所の髙砂家。到着後、市毛と他の19の相撲案内所は、観客が午前8時の開場とともにやってくるまでの2時間で、6,000の座席に座布団を並べ、興行前の準備をしなければならない。場所中は1日12時間を、客の応対に費やす。客を予約席に案内し、お弁当、おつまみ、酒やお茶などを運ぶ。
「私が髙砂家で働きはじめたのは昭和42年のことでした。母の手伝いで働いていましたが、母が去年97歳で他界したので、私が主人になったんですよ」。

市毛は国技館の正面玄関で私たちを迎え、髙砂家の入口から厨房へと案内してくれた。現在の国技館は1985年に開業したが、髙砂家が大相撲の観客を接待するお茶屋として創業したのは、その約100年前の1899年である。大相撲の興行の組織化が進むにつれて、お茶屋の必要性は高まっていった。

民間伝承によると、初めての相撲の取組が行われたのは紀元前29年。やがて、相撲は日本の村々の宗教的祭事でおこなわれる見世物から、神道と日本文化に深く関わった儀式的な伝統へと変わっていく。相撲は日本人の精神と文化を現代社会のなかで具現化している数少ない伝統のひとつのように思われる。市毛がその伝統のなかで果たす役割は、観客が大相撲をじかに観戦し、存分に味わえるように仲介することである。

幼少期から大相撲にふれてきた市毛にとって、印象に残る記憶の多くは、第二次世界大戦後の混乱期のものだ。戦後、国技館は一時、閉鎖され、のちに米軍に接収された。そこで大相撲の興行は東京のどこかの掘っ立て小屋でするしかなかった。当時は転々としながらの開催だったため、人々はどこで大相撲が開催されるか知る術がなかった。「お得意さんの自宅や職場に行って、いまはこの会場で大相撲をやっていますよ、と伝えるのが私たちの仕事でした」と市毛は言う。髙砂家の現在のお得意さんの3割が、当時から大相撲を観にきてくれる常連客の家族だという。こうした常連客は、大相撲観戦をおもに接待に使っていた。「最近のお客さんは当時と違い、観戦そのものを楽しみにくる人が多いですね」。市毛の目には、大相撲の世界にいま、ルネッサンスのようなものが進行しているように映る(実際、外国人力士も増えている)。こうした最近の変化にかかわらず、彼女の仕事内容は変わらない。「私の仕事はいまでも、お得意さんといい関係を築いて、次の場所にも来たいと思っていただくこと。そしてお子さんの世代にも変わらずご愛顧いただくことです」。
 
市毛弘子
国技館内の相撲案内所「髙砂家」の女将。明治32年創業の相撲茶屋を取り仕切る。
 
This story originally appeared in PAPERSKY’s ARGENTINA | ART Issue (no.43)

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