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  • Photography: Kosuke Ide

PAPERSKY Interview 石塚元太良/写真家

, 2013/12/16

世界中を旅しながら、強いコンセプトの下で写真作品をつくりつづける写真家・石塚元太良さん。とくに近年は北米アラスカ州を中心に、パイプライン/氷河/ゴールドラッシュと多くのテーマで撮影を続け、長期滞在を繰り返しながら制作をおこなっている。写真集『PIPELINE ICELAND / ALASKA』 を発表したばかりの彼に、写真とアラスカという土地に対する強い思いを聞いた。
 
―石塚さんは若いころからバックパッカーとして世界中を旅していたそうですね。当時から写真家になろうと考えていたんですか。

いや、僕はもともと写真よりも映画に関心があって、映画監督になりたいという漠然とした気持ちがあったんです。高校生のころ、けっこう真剣にバスケットボールをやっていたんですけど、チームの仲間が早々と部活を辞めて大学受験の準備をしはじめて。そういうのに馴染めなくて、学校をさぼるために都内各地の名画座みたいな小さな映画館にもぐりこんで、ひとりで朝から晩までずっとマニアックな映画をひたすら観ていた時代がありました。ゴダールの映画を見て、「こんなすごい映画を撮られたんじゃとてもかなわないな」と一方的に敗北感を感じたりして、監督になるのは諦めましたが(笑)。まあ本当のところは、僕が集団作業が苦手だったので難しかったんですね。
 
―やっぱりひとりで旅するほうが自分に向いていたと。

そうですね。高校を卒業して、浪人して入った大学にもあまり通わずに、肉体労働のアルバイトをしながら、貯めたお金で世界一周旅行に行けるオープンチケットを買っては、アジアやアフリカ、ヨーロッパなどいろいろな場所にバックパック旅行に行っていました。写真をやりはじめた当時は、地方での工事現場でのバイトの合間に、その現場のようすを撮影したりしていましたね。後にその写真で『コンクリート大作戦』というタイトルの展示をやりました。そのあたりから、本格的に旅をしながら写真を撮るようになって、いまにいたるという感じですね。
 
―写真に惹かれたのはなぜですか。
理由はいくつかあると思いますが、ひとつはやっぱり映画と関係がありますね。写真の現像をするために自宅に暗室をつくったとき、暗闇のなかでフィルムに光を投影して、そこになんともいえない魔術的な感覚が生まれるという意味で「これって映画と同じだな」と思ったんですね。かつて映画館で慣れ親しんでいた、投影された光が、目の前の手のなかで触れられるという感覚があった。そのことに気づいてから、写真にのめりこんでいきました。
 
―たくさん旅をされてきた石塚さんですが、とくに北米アラスカ州には何度も訪れて、さまざまなモチーフを撮影されていますね。

アラスカには、10年くらい前、世界一周の旅の途中で初めて訪れました。そのときに、アラスカを南北に走るダルトン・ハイウェイ沿いの1,280kmにおよぶとてつもなく長いパイプラインに出会って、ものすごく惹かれてしまい、車で移動しながら、そのパイプラインを撮りつづけたんです。若いころからずっと世界中で旅を続けてきた自分の「移動」の感覚を、長大なパイプに投影していたようなところがありました。それからは毎年、数週間〜数ヵ月をアラスカで過ごして、いろいろな季節のなかでじっくりと撮影をするようになりました。パイプラインはもちろん、氷河やゴールドラッシュなどのテーマも見つけて、ずっと各地で撮影を続けています。
 
―氷河を撮りはじめたきっかけはどのようなものでしたか?

パイプラインの撮影をしていた当時、ワシントン・グレイシャーという氷河をたまたま見る機会があって。それを見て、そのとんでもなく巨大なサイズ感にすっかり圧倒されてしまったんです。その後で、2007年ごろにある雑誌の取材でアラスカ南部のバルディーズという町からカヤックで氷河を撮影することになって。なぜカヤックで行ったかというと、お金がなかったから。氷河クルーズの遊覧船に乗る予算がなかったんですね。

―カヤックで氷河にアプローチするのは、危険ではありませんか。
 危険ですよ。僕はそれまでカヤックなんてしたことなかったですから。しかも、通常は海で使うカヤックはダブルブレードでまっすぐ進むものだけど、そのときに僕がレンタルショップで貸してもらったのは、リバーカヤックみたいな短いもので、シングルパドルだった。もしかしたら店の人にからかわれたのかもしれないけど、いま考えてもめちゃくちゃな装備で。とにかく、まっすぐ進まない。その苦労もあったせいか、そのときになんとかたどり着いた氷河の青さにすっかり感動して、気がついたら4×5のカメラで連写するように写真を撮っていました。それはパイプラインのときも同じだったんですが、とにかく身体が動いてしまう、そこがやっぱりすごく大事なんですね。僕にとってなにかのアイデアが生まれるきっかけはつねに、身体を動かしている瞬間のなかにあるんです。
 
―それからずっと氷河を撮られていますが、その撮影日記であるご著書の『氷河日記』を読むと、10日間分もの食糧を持って山に入り、カヤックでキャンプしながら氷河撮影に出かけたりと、かなりハードな旅をされていますね。

ただ、カヤックそのものにこだわっているわけではないんです。冒険家というわけではないので。もしお金があれば、セスナでアプローチすればいいという気持ちもある。ただ、その一方では、撮影者と対象物の距離を簡単に縮めないほうがよい結果が生まれるというふうにも思います。時間をかけて行ったほうがいい。その理由は、もちろん単純に「危険だから」というのもあります。僕は東京生まれの人間だし、人間を寄せつけないような本当の大自然のなかに入るには、少しずつ、舐めるようにそこに触れていって、身体をアジャストさせていかないといけない。そうするなかで、対象物と自分の関係性が変わっていくんですね。たとえば、カヤックでパドルしながら氷河に近づいているときに、「いま、自分がいるこの場所じたいも、氷河が後退することでつくられた風景なのだから、自分はすでに氷河のなかにいるということじゃないか」と、突然気がついたりする。そういう認識の総体がすごく大切なんです。最初のうちはリサーチしたり、物理的に近づいたりすることばかりに必死で、よくわからなかったことが、だんだんわかるようになってくる。
 
―そういう認識の変化は、表現にも関わってくるわけですね。

そうですね。機材やアプローチも変わるので、写真も変わります。「パイプライン」のシリーズでも当初は4×5のカメラで撮影していたのが、途中から8×10に変わったし、氷河も当初はカヤックで近づいて氷河の洞穴のなかにまで入りこんで撮っていたのが、いまはむしろトレイルを歩いて近づき、外から撮るようになってきました。モチーフは変わっていないのですが、対象に対する認識が変化するという感じですね。そんなふうに、日々いろいろと自分なりに変えながら撮っています。
 
―アイスランドとアラスカのパイプラインを大判カメラで撮影した写真集『PIPELINE ICELAND / ALASKA』を発表されたばかりですが。

2007年に一度、アラスカのパイプラインを撮影した写真集(『PIPELINE ALASKA』プチグラパブリッシング刊)を出版しているんですが、「自然風景のなかのパイプライン」というアイデアにはまだ可能性が残されていると思っていたので、もっとほかの場所でもパイプラインを撮りたいという気持ちがありました。そのためにも、アラスカでの撮影をもっと深めなければいけないと思い、あらためて各地を訪れて撮影をしました。限りある人生のなかで、自分にとって大切なモチーフをそういくつも捕まえられるわけではないと思っているので、ひとつひとつのアイデアやモチーフを大切に扱わなくてはいけないんです。アイスランドの地熱のパイプラインがおもしろいと思ったのは2011年ごろで、すぐにロケハンに行って、撮影を始めました。土地が変わると、パイプラインの形も変わる。そこはおもしろかったですね。
 
―今後もパイプラインを撮りつづけますか。

パイプラインは世界中にあるから、まだまだ終わらないけれど、そこにどれだけ自分の人生を投入するかは決めないといけない。きわめて長い長編小説みたいなもので、書ききれるかどうか。氷河と出会ったときは一目惚れで、「こいつとは一生つきあえる」と思った。とにかく、アラスカは僕にそういうものを与えてくれる場所であり、また人間がこれまでどうやって生きてきたのかを教えてくれる、一種のサンプルケースのような気がします。いま、アメリカの若者がたくさん、わざわざアラスカに移住してくるのはそういうことだろうと思います。アラスカでもアイスランドでも、極北の自然は生きていくのがすごくしんどい場所ですから。だからこそ、何度でも訪れたくなるんでしょうね。
 
石塚元太良(いしづか・げんたろう)Gentaro Ishizuka
1977年東京都生まれ。写真家。これまでに60ヶ国以上を訪れ、 合計すると世界4周分という圧倒的な行動力で、コンセプチュアル・ドキュメンタリーとしての写真作品の制作を続けている。写真集に『worldwidewonderful』(Niepce)、『WWWWW』(青幻社)、 『PIPELINE ALASKA』(プチグラパブリッシング)など。12月6日に新刊写真集『PIPELINE ICELAND / ALASKA』(euphoria FACTORY)を刊行する。 nomephoto.net/

This story originally appeared in PAPERSKY’s ARGENTINA | ART Issue (no.43)

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