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  • Photography: CHRISTIAN MARTIN

ピコ・アイヤー|移動の中に世界を見た、グローバルな作家

, 2013/09/27

外交官や外務大臣は、自国を代表して地球を旅する。ピコ・アイヤーは、その熱心な読者に世界を見せるために、もう20年もの間、旅を続けてきた。6冊の本と、北朝鮮からカトマンズまで、様々な土地についてのエッセイの書き手として、アイヤーは永久運動を続ける世界で、常に起きている文化の衝突について書いているアイヤー自身もまた永久運動の状態にあり、ほとんどそこで時間を過ごすことのない家を持つ人間」である。ここ数年、アイヤーの帰りのチケットは、奈良の田舎のアパートと日本人のパートナーのもとへ終着する。そこで今回、ペーパースカイ編集部は、そんな彼に少しだけ時間を割いてもらい、世界が彼の目にどう映り、どうやってそこへ行けばいいのか聞いてみた。

──「作家のプロフィール」には、”トラベル・ライター(旅行作家)”という言葉が見当たりませんが、ご自分をトラベル・ライターとは考えていないということですか?

そうだね。僕は文化が交差し折り重なる環境で育ってきたから、クロス・カルチュラルな関係でものを考える傾向があるんだ。旅行はそうしやすい状況に置いてくれる。でも僕にとって、旅はほとんどの場合、手段でしかない。実際の旅の部分は、異質さとの出遭いや2人以上の他人が出遭う時の、ロマンスやコメディ、そしてたまに起きる悲劇ほどおもしろくはない。確かにチベットを横断することも、失われたアマゾンの心底に踏み込むこともないまま、冒険の本を書く作家もいるよね。そうした本は、ある意味、身体的な動きについて書かれていると思うんだ。でも僕が意識しているのは、もっと心理的、もしくは感情的な動きだ。僕にとって、今でもその方面の帝王であるジャン・モリスは、自分がトラベル・ライターでなく、ただ場所について書いているだけだと言っている。たぶん、いわゆるトラベル・ライターと呼ばれている人たちは、彼女の言葉に嫉妬してると思うよ。

── 昨年はどれくらい旅していたのですか?

たぶん4ヶ月くらい。でもその間、奈良に来ればほとんど近所から離れることはない。こっちにいるときは、特に交通手段を持たないから。自分の足で歩ける範囲でしか出歩かない。それに、去年は3、4週間をカリフォルニアの修道院で過ごしたから、そこでも当然、移動はないよね。だから書いたり考えたり読んだりすることに費やされる。しかしその一方では、世界を体験したり味わったりするためによく移動するという、極端な状態の間を行ったり来たりする傾向にあるんだ。例えば、去年の8月はイェーメンとオマーンとギリシャとアメリカにいた。9月にはカナダとシンガポールと対。その後、奈良に来て、3ヵ月間は移動しなかった。それから再び腰を上げて、1月のボリビアとペルーへ渡り、2月にはインドとベトナムとタイ、そして1日だけ日本にいた。たまに1週間のうちに3つから4つの大陸を移動して、それぞれにとどまりながら、墓地鶏、地球を一周するときもあれば、逆に反対の状態ににあると全く動かなくなるわけさ。

── あなたの旅は、昨年で最も大きなトラベル・ストーリーだったテロリズムの影響を受けましたか?

いや、全く。9月11日の週、僕は米国内で何度も飛行機に乗り、次の週には日本、そしてシンガポールに飛んでいた。9月11日のもうひとつの皮肉は、まだビルから煙が上がっているときに、ニューヨーク・タイムズ紙から、その出来事について書いて欲しいという依頼があったんだ。でも僕は出来ないと断った。その日は、完成したばかりのイスラムとアメリカの衝突について書いた小説の校正をしなければならなかったから。

── あなたは新作で禅からイスラム、そしてキリスト教にいたるまで、精神性と宗教について多く書かれていますが時事的な出来事や、宗教VS発展のイデオロギーについてはどうお考えですか? それは『The Global Soul』のような本であなたが説明している、ポストモダンな世界の見方にどう影響していますか?

イスラムの革命家と宗教的な信仰に関わるその他の多くの人々は、逆行することが発展につながると思っているような気がします。過去へ戻り、なにか本質的なものへと立ち返り、現代世界に背を向けることで。僕もある程度は共感できる。『The Global Soul』の主なテーマと僕の思考の多くは、文化を越えた雑音でしかない。熱狂的で、断片的で、高揚させるMTVのビデオのように見えたり、感じられrたり刷る、あるh週ポストモダンな世界。そして現代世界のMTVコマーシャルを体験すればするほど、そこから抜け出させてくれるものへの欲求が生まれ、大抵その場合は、精神的なセミナーや伝統や信仰の素地となったりする。『The Global Soul』で、僕は自分と読者を現代のカオスのど真ん中へ連れていこうとしたんだと思う。ある意味、人がなぜモスクやセミナーや修道院に通ったり、自分たちが抜ける理由として感じている、あの騒然とした感覚や船酔い感や疲労感や時差ボケの感覚を表現しようとしたんだ。そして書き終えたばかりの本は、明確に伝統と信仰に根ざしていると思う。イスラム世界、対、僕がある意味、対極にあると考えているカリフォルニアとの対話について。

── 新作では、現在起きていることに応用できる、イスラムと西洋の和解について何か書かれていますか?

個々人がそれぞれの状況に直面することだね。主人公はみんなカリフォルニアの人間だけど、彼らは中東のどこかへ行くことで、慰めや謙遜や、自由さえ見つけ出す。それはかカリフォルニアのある人たちの間に潜む飢餓感みたいなもので、あまりに伝統がないために、他の古い文化が提供してくれるものを、喉から手が出るほどほしがっているんだ。それはある意味、人々が自分たちとは正反対の文化を夢見る方法についてのものさ。
現在のムスリムとマック(マクドナルド)ワールドの議論の若いと、僕の本への回答に関していえば、ステレオタイプや憶測に斬り込んで、ほかの文化のニュアンスや異質さを見るのに、旅は友好だと信じています。ある意味、最近の出来事は、両世界の人々がステレオタイプを元に互いを非難し合っている状態だと思うから。ムスリムの急進派がアメリカを見た場合、その高圧的な政府(またはその大衆文化)しか見ておらず、アメリカ人もまた、ほとんど何も知らないイスラムを糾弾する。僕が思うに、どちらにしろ一番の解決策はどこかへ旅して、自分とどれだけ同じで、どれだけ違うかを知ることなんだと思う。
去年の8月にアラビアで数週間過ごすことができてよかったと思うよ。9月11日、僕が一番有り難く思ったのは、イェーメンのアーデンという港町にいる一人の人間として、ひどく貧しく恵まれないアラビアの地域(実際、ウサマ・ビン・ラディンの生まれた場所の近くで)の視点で世界を見られたことだったしね。つまり僕にとって現代世界の大きな栄光は、大きく異なった状況にいる人の目に世界がどう映っているのかを体験できることなんだ。しかし世界の貧しい(たいていムスリムだが)人々が、僕らの方へやってくるほどの資金力はない。だから悲惨な状況で暮らす人々のところへ出向き、物事を見ることは、より恵まれた僕らにかかっている。僕らが変化を起こせるとしたら、そこだと思う。

── あなたの文章は、文学への自愛と知識に満ち溢れています。あなたの文章を読むと、文学と旅はなにか共通するものがあるという印象をうける。幽体離脱に似た体験のように。あるところで、あなたは「ゆっくりとページを捲ることで、別の自分の謎を探求する、読書の特別な喜び」について書いています。また、旅することで見出される、人の身になって経験する喜びについても触れています。一番悲しい別れは「外国の空港で、海外で得た勇敢で無責任な自分を脱ぎ捨て、いつもの仕事の生活を思い出しながら、自分に別れを告げること」と言っていますね。

それ、僕が書いたのかい! おもしろいことに、3日ほど前、ドナルド・リッチーの『Inland Sea』を読み直してみて、ちょうど同じ結論に達したんだ。実際、先週、偉大な旅行者ほど偉大な読者だという、短いエッセイを書いたばかりで。それは旅行者というものが本来孤独で、彼らが訪れる先の文化に持ち込むものの一部に、彼らが読んできた本があるということ。ドナルド・リッチーのことを日本について書いた素晴らしく際立った作家だと思うのは、彼らがあらゆる文化で咀嚼してきた本の膨大な知識を持ち込み、ほかの多くの土地へと旅していることだ。彼が本の中で内海を彷徨し、ジョンソンやルソーやジェーン・オーステンを引き合いにだしながら持ち出してくる様々な本は、ただ三島や川端や紫式部を引用するだけでは得られないような広い視野を与えてくれる。ある意味、想像の中で起きているこの二つの孤独な探求には素晴らしいものがある。エマーソンは僕らがどうやって自分の読む本を発明していくのかを書いた。そして同じように、僕らは自分たちが訪れる場所を発明していくわけだ。

── あなたは「偉大な旅行者」と言っていますね。「いい旅行者」とはどういうものか、また「悪い旅行者」というのもあると思いますか?

有効に旅行するために必要なのは、特にそれぞれの憶測を家に残し、周囲の異質さにできるだけ身を預けること。旅の美学とは、突然、今まで想像していたことと全く正反対で、極端に違う視点で世界を見られるようになることだ。もし「いい旅行者」というものがあるとすれば、その人が訪れている先の人々の目を通して世界を見たいと欲する人間のこと。もし「悪い旅行者」、もしくは「悪い観光客」というものがあるとすれば、それは家を出る前から固定観念をもってしまう人のことだ。
また、いい旅行者とは、衝撃を受け変わるための心の準備ができている人だ。僕にとって唯一大事な本当の旅は、最初の憶測から離れ、内側で起きている。だから例えば、僕が休暇に出かけるとき、僕はハワイやパリやロンドンへは行かないようにする。それは僕の憶測や先入観を強めるだけのような気がするから。逆にハイチやエチオピアやイェーメンへ行くだろう。僕を揺るがし戻ってきたときに色々考えさせられると、結構自信を持って思えるから。カミュは、旅に価値を与えるのは恐怖だといった。それでも僕は恐怖だけを感じろと言っているのではなく、それがチャレンジと自分の心をかき乱してくれると信じている。

── それじゃ、休暇で旅行をするときもそんな欲求があるのですか?

僕は旅をすることで生計を立てていく幸運を得たために、いわゆる休暇というものには余り縁がないんだけど。最近僕がしているのは、毎年正月の休暇に母親をつれていくこと。でも母親を連れて行ったのは、カンボジアやイースタ島やシリアやヨルダン。だから70歳の母親を連れて行くにしても、面白くてチャレンジの出来る場所へ連れていこうとするんだ。往々にして、僕が世界で行くところは、ロスやニューヨークよりも安全なところさ。カリフォルニアや日本の家の居心地に慣れていると、家が安全でインドやカンボジアやハイチが危険だと思いがちになる。でも実際、統計的にもロスやワシントンはベイルートやプノンペンよりもずっと危険なんだ。日本はわりと安全だけどね…。

── いわゆる、あなたの日本の家は維持していくのですか?

選べるなら、僕は喜んで、一生日本に住んでもいいと思ってるよ。世界のどこを探しても、日本ほど自分に合い、尊敬し、好きな国は思いつかない。ここに観光ビザで住んでいるとしてもね。

 
ピコ・アイヤー
1957年、ピコ・アイヤーはインド人の両親の下にイギリスで生まれた。1964年に両親が移住して以来、彼の家はカリフォルニア州サンタバーバラにあるが、彼は”そこにいるようでいない”。アイヤーは学校教育をオックスフォードで受け、9歳からカリフォルニアとイギリスをジェット機で往復してきた。オックスフォード大学で学び、ハーバード大学で文学と創作を教えながら、彼はヨーロッパのガイドブックを書いて過ごした。「道端で眠り、何も食べず、とても早く次の場所へと移動し、すぐに距離を測るという、とてつも安く旅をする訓練になった」こうした成果は、旅行、グローバリズム、文学、または現代の出来事について作家としての後のキャリアに役立った(3度のタイムズ紙のオリンピック特集をリードしたことも含む)。主な本は、『ヴィデオ・ライト・イン・カトマンズ』『ザ・レイディ・アンド・ザ・モンク』『ザ・グローバル・ソウル』。

The Lady and teh Monk (1922, Knopf)
アイヤー氏が伝統的な日本に魅了されていく様を彼自身の京都暮らしの経験を元に、現代日本で新しい未来を掴もうとしていくある女性との出会いを交えて描いた作品。

Tropical Classical (1997, Knopf)
ダライ・ラマのインタビューから度重なる飛行機での移動における彼の独白の引用など、多岐に渡るアイヤー氏のエッセイをまとめた作品。世界について、そして文学と旅について沸き起こる思想の数々は、項しがたく尊い。

The Global Soul (2000, Knopf)
一定の場所、立ち位置からではなく、様々な異なる場所と文化の狭間から世界を見据えたものの視線。6冊目となるこの著書は、多様な大陸において自らの”家”を探し求める彼の、今日におけるポストモダンオデッセイだ。

取材・文:編集部
This interview originally appeared in Paper Sky No. 1 (May, June, 2002)

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