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山戸浩介・ユカ|山のなかの"美味しい"旅へ

料理研究家の山戸ユカさんはご主人の浩介さんとともに、夫婦でよく山歩きを楽しむ。山歩きの最中、新たな料理のヒントを得られることも多いからだ。今年の夏には東京から八ヶ岳へ移住し、レストランを開業予定のふたり。昨年9月には世界 […]

07/05/2013

料理研究家の山戸ユカさんはご主人の浩介さんとともに、夫婦でよく山歩きを楽しむ。山歩きの最中、新たな料理のヒントを得られることも多いからだ。今年の夏には東京から八ヶ岳へ移住し、レストランを開業予定のふたり。昨年9月には世界有数のロングトレイル「ジョン・ミューア・トレイル」を3週間かけて歩き倒した。ふだんから肉や魚を食べない生活を心がけているというふたりのテーマは「山のなかでもいつもと変わらない食事をすること」。このユニークな長旅について、ユカさんはこう説明してくれた。
「トレイルの最中でも、我慢せずに美味しいものをきちんと食べる。だから、3週間分のメニューを全部決めておいて、同じ食事は1回たりともするものかと(笑)。小麦粉を持っていったので山中でパンケーキを焼いたり、フライパン持参でオムライスをつくったり。白米も持っていっていたので2日に1回はご飯を炊いてました。もちろん野菜は絶対欠かせませんから、Tシャツを1枚減らしてでもピーマンや芽キャベツをできるだけ多く持っていこうと(笑)」
道中で出会う旅人からは、あまりに豪華な食事とちょっと重たそうな荷物に、驚かれることも多かったとか。ご主人の浩介さんは笑いながらこう語る。
「それぞれ25kgくらいの荷物を背負って歩いていた。どう考えてもウルトラヘビーです(笑)。でも準備万端だったおかげで、旅の途中で知り合ったハイカーに料理をふるまって喜ばれることも多かった。ほとんどの人がフリーズドライで簡素な食事をしているのに、こっちはトントンと野菜を切って、フライパンでジュワッと料理してるんですから。人に出会うたびに驚かれて、影響を与えながら僕らは進んでいったんです(笑)」
料理にフォーカスしたふたりの道中。歩きながらもつねに献立を考えていたというユカさんに、今回の旅の成果を訊いてみる。
「ジョン・ミューア史上、山のなかでパンケーキを焼いたのは私たちが初めてかもしれない(笑)。味も妥協したくなかったので、小麦粉、お砂糖、フリーズドライの卵、豆乳パウダーをシャカシャカやって、とろーっとなるまで。旅の前半はスパイスからカレーをつくるということもふつうにやってましたしね。途中で会ったアメリカ人なんて、トルティーヤにピーナッツバターを塗ってスニッカーズを巻いて食べてた。山に入るとカロリーだけを重視しがちでしょう。でも私たちはアイデアを駆使して3週間の山歩きでどこまで豊かな食事ができるか挑戦した。長旅だったからこそ、山ご飯の可能性をさらに広げられたかなって」
ふたりはこの旅を経て、男女の疲れかたの違いも痛感した。同じものを食べていても、疲労の影響がまったく異なることにあらためて驚いたと浩介さんは言う。
「なんだかザックが重くなってきたなって感じたら、後方からユカがすごいスピードで詰めてくる(笑)。僕としてはバテてるというより、ちょっと様子がおかしいなってくらいなんですけどね」
ユカさんの切り返しはこうだ。
「どう見ても、彼のスピードが急激に落ちこんでいる。私のペースは変わらないのに、いつの間にか彼のザックにぶつかっちゃうんです(笑)。これはいわゆるシャリバテだなって思って訊くと、本人は全然気づいてないって。皮下脂肪の多い女性ってつくづく疲労のスピードが緩やかなんだなって感じましたね。でも主人の疲労がたまってきたとき、おにぎりを食べるといきなり元気になって歩きだす。彼のようすを見て、カロリーの高いお米の即効性と持続性にあらためて気づけたんです(笑)」
山歩きを趣味としているふたりにとって、夫婦で出かけることのメリット、デメリットにはなにがあるのだろう。浩介さんはまずこう切りだした。
「これだけ料理のことを考えているパートナーですから、山歩きをするうえでは最強ですね(笑)。僕はとにかく食べるだけなんですけど、食べ終わった後にあらためてパートナーのありがたみを痛感して」
ユカさんの場合、ふたりきりで山へ入ることの意義をこう感じている。
「結婚して10年ですけど、こんなに密に会話をする機会って山のなかくらいしかない。いたわりあう気持ちもより強まったし、休憩のときにはマッサージをしあうなんてことも多かった。これから一緒にレストランをやっていくにあたり、感性を確かめあえたというのも収穫でしたね」
料理にとことんこだわった山戸夫妻のジョン・ミューア・トレイル行。テーマとしていた新たな料理のアイデアも浮かび、目的はたしかに達成した。しかし、旅の終わりには意外なオチがついたとユカさんは笑う。計算づくの食事を続けられたとはいえ、行動食の不足からやや空腹を感じながらの最終行程に。その反動で山を下りた直後、浩介さんの食欲が暴走したのだ。
「カロリーの高い食事を身体が求めていたんでしょうね。主人は下山してすぐに、ドーナッツとかチキンをめいっぱい食べつづけ、コーラを2本くらい一気飲みまでして。もうやめなよって止めてるのに、“だってお腹が空いてるんだもん”とか言うんですよ。そうしたら案の定、彼は急性胃炎になって、2日間寝こんでしまった(笑)」
また時間を見つけて、そんな愉快な旅に挑戦したいという仲よし夫婦。現在は、夏にオープンするレストランの準備に余念がない。旅で得たたっぷりのアイデアと、ふたりのあたたかい気持ちがこもった創作料理。いまから待ち遠しいかぎりだ。
 
山戸浩介さん・ユカさん | Kosuke & Yuka Yamato
アウトドアでの山ご飯をはじめ、身体に優しく、美味しい料理をさまざまなメディア、自身の著作、料理教室などで広く提案しつづけるユカさん。この夏には夫の浩介さんとともに、念願だったレストランをふたりで開業する。これからは八ヶ岳を拠点に、新たな料理の可能性を追求していく予定だ。http://www.chanafood.com/