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PAPERSKY interview|ハイカーズ・デポ主宰 土屋智哉

, 2013/06/21

装備を極限まで軽くし、山を歩く。こうした「ウルトラライトハイキング」のスタイルは、2000年前後から日本でも徐々に知られるようになってきた。にわかに支持層を増やしつつあるこの山歩きのスタイル。装備を少なく、軽くするためにはどんな工夫が必要か、そして、その楽しさはどんなところにあるのか。自身のショップ「ハイカーズデポ」でウルトラライトギアやそのスタイルについて、情報発信を続ける土屋智哉さんに話を聞く。

―まず、ウルトラライトのメリット、楽しさについて教えてください。

バックパックが軽いと単純に、足取りも軽くなる。通常であれば3泊かかるルートでも、ウルトラライトなら疲労が少ないので2泊で行けるかもしれません。山を歩くという最大の目的を考えて、よけいなものは持っていかないし、必要なものはできるだけ軽いのを選ぶ。誰だって軽くて楽なほうがいいわけですからね。でも多くの場合、こんな料理を食べたいからあの食材をとか、用心のために多めにウェアを用意するとか、がっしりとしたテントじゃないと不安だとか、どんどんバックパックが重くなってくる。もちろんそれはそれでいいのですが、第一の目的を「山を歩く」とか「自然と親しむ」といったことだけに絞ると、ウルトラライトなスタイルでいい。装備をよりシンプルにして、できるだけ生身に近いスタイルになれば、自然との距離も縮まります。肩や足の痛みなどのストレスを軽減して、歩くこと、風景を楽しむことに集中する。タフなテントの代わりにタープで寝て、土や風との一体感を感じる。そこがウルトラライトで山へ入るいちばんの楽しさですね。

―そんな楽しみを感じられるウルトラライトを実践するには、どんなことが必要ですか? 特殊なギアや特別なスキルを必要とするのでしょうか?

まずは本当になにが必要かを考えていきます。自分の行こうとしている山はどんな環境でどんな天候になりそうかとか、どれくらいの日程で行くかを考えながら。そして実際に装備を選ぶ段階になったら、できるだけ軽量につくられているものを選ぶ。海外からのギアをはじめ、ウルトラライトを前提としたプロダクトは増えてきているので、そういうものを積極的に選ぶのもいいでしょう。でも、装備を選ぶときに忘れてはいけないのが、どんな機能を優先させるかです。ただ軽くしたいあまりに無理をするというのはもちろんまちがい。そのギアはどれくらいの重さなのかを把握したうえで、求める役目をきちんと果してくれるかを考える。重いテントより軽めのタープで充分だと思えば、後者を選ぶ。ものというより、機能を考えていくと、必要なギアが見えてくるんじゃないかと思いますね。あとは、工夫です。防寒用のダウンを寝具としても使えばスリーピングバッグはより軽くてシンプルなものでもいい。マットは細かく切っておいてパネルのように組み合わせて使えば、必要最小限の重さにできる。時には、既成のギアを自分でカスタマイズして、必要な機能を残しながら軽量化する。ウルトラライトのスタイルというのはたんに軽いギアを選ぶということだけでなく、自分で考えて工夫するという部分が楽しいんです。自分にはなにが必要かを知るためには経験も必要ですが、誰にでも実践できるスタイルだと思いますよ。

―土屋さんは学生時代、探検部に所属していたんですよね。身軽なウルトラライトとは対極ともいえる趣味ですが、どのような探検をしていたのですか?

僕が学生時代、夢中になっていたのはケービングといって、洞窟の探検です。日本で最も深い洞窟とか、世界で最も長い洞窟といった場所に興味があって。それも、地質図や航空写真を取り寄せて、人が行けそうもない場所へチームを組んで入っていくというハードコアなスタイル(笑)。狭い洞窟のなかが水で満たされていることもあるので、進むためには重いタンクを背負ってスクーバダイビングをしなきゃいけない。しかも危険な場所なので、ほとんどの装備に対して予備のものを携行し、まさにウルトラヘビーなスタイルで洞窟に入るんです。誰も知らない未知の冒険に完全にハマっていましたね。そのころは、誰でもできるハイキングなんて幼稚だなとか、物足りないと感じていて、まったく興味がなかったんです。

―どのようなきっかけでアウトドアに対する考えが変わっていったのですか?

大学を卒業してアウトドア専門店に就職した。そこで仲間たちに影響を受けたのが大きいですね。それまでの僕はしかめ面をして、重い装備を持って危険な場所に出かけていくことしかしてなかった。でもここで知り合った仲間は、アウトドアを気軽に楽しんでいたんです。一緒に遊びにいって一種のカルチャーショックを受けました。バーベキューやっちゃうんだとか、マウンテンバイクまで乗っちゃうの?とか(笑)。僕は極限の緊張でしか自然と接していなかった。キャンプ場にも泊まったことがなかったんですからね。

―その後すぐ、ウルトラライトハイキングに傾倒していったのでしょうか?

アウトドアを気軽に楽しむようになって、サーフィンやボルダリングにもハマるようになった。こういうアクティビティを続けていると、じつにシンプルに遊べるものだとあらためて気づいたんです。とんでもなく大量の装備が必要なケービングと、シンプルな道具で充分に遊べるサーフィンやボルダリング。どちらが良い悪いではないですが、装備がシンプルになればなるほど味わえる解放感ってあるんだなと感じた。そのころから山を歩くときも、装備を減らして身軽になれば自然とより向き合えるようになるんじゃないかって。

―日本にもウルトラライトハイキングのスタイルが紹介されるようになってきたのは2000年前後のこと。土屋さんがこのスタイルを実践しはじめたのは、それより少し前ですよね?

もともとウルトラライトハイキングの考えかたはアメリカで生まれたものです。アメリカのPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を歩くスルーハイカーたちの装備をどう軽くしていけるかという試行錯誤が、80年代から始まっていたんです。その後、レイ・ジャーディンが『Beyond Backpacking』という著作を発表したことで、ウルトラライトウエイトによるスタイルが確立してきました。99年にはアメリカでウルトラライトをテーマとしたブランド「ゴーライト」も設立した。僕もこうした流れを知って、徐々に影響を受けてきたんです。それぞれの道具の軽量化も重要だけど、無駄なものを持っていかないという考えかたに共感できた。自然に浸りにいくのによけいなものは必要ない。その純粋さに興味を持ったんです。

―いま、ウルトラライトなスタイルの情報発信を通じて、ハイカーたちにどんなことを伝えたいと思っていますか?

ウルトラライトとそうじゃないスタイルの差は、個人旅行とパッケージツアーの差に似ているかもしれません。個人旅行だと泊まる場所の下調べも必要だし、食事のことなども自分で考えなければいけない。団体のパッケージツアーとかだと極端な話、なにも考えずに楽しい旅ができるわけです。要は、ウルトラライトなスタイルにしようとすると、山への旅に手づくり感が出てくる。もちろん、ハプニングとかトラブルもつきものですが、それさえも楽しんでしまう。その経験を通じて、自分はここまで我慢できるとか、こんな技術が足りないとか、こうすればもっと山を楽しめるとか、いろいろ気づいていくわけです。ウルトラライトだけが正解ということではまったくありませんが、少しでも多くの人にこの楽しさを知ってほしいとは思っていますね。

―土屋さんはノーマルな装備のハイカーと出かけることはありますか? それとも同じスタイル同士でないと不都合がありますか?

なにもウルトラライトな人たちだけで集まる必要はありません。アウトドア系ライターの高橋庄太郎さんとよく一緒に出かけますが、彼はウルトラライトスタイルではありません。僕は乾燥食材を駆使して食事をしているのに、向こうはバッグからベーコンの缶とかキムチの瓶を出してくる(笑)。そんなときは当然、もらいます(笑)。意地張って、僕はウルトラライトだからこれでいいなんて言いません。たとえば、お風呂がない部屋に住んでいるから、シャワーつきの部屋に住んでる友だちの家に、シャワー貸してって遊びにいくような感じ。一部ではウルトラライトがストイックな思想とか哲学のように誤解されているようですが、それは違うと僕は思う。ウルトラライトは山をどう楽しむかというひとつのスタイルに過ぎないので、これに縛られる必要は全然ないし、このスタイルを基準にして人それぞれが最良のカスタマイズをしていけばいいと思っているんです。

―最後に、次に控えるトリップの予定について教えてください。

夏にはアラスカに行こうと考えています。2〜3日で山を越えて、10日間くらいかけて川を下ろうと。川下りのためにパックラフトといって超軽量のインフレータブルボートを持っていくんです。約2kgですが、これを持っていくためにもほかの装備をウルトラライトにまとめないといけない。逆に言えば、通常装備をウルトラライトにしておくと、その時々でエクストラな持ち物をプラスすることもできる。僕の場合、水や食料、燃料を除いたベースウェイトが約4kgだし、食料を最小限に抑える工夫もしている。だからこそ、こんなボートを持っていくこともできるわけです。

土屋智哉(つちや ともよし)Tomoyoshi Tsuchiya  
東京・三鷹でウルトラライトハイキングをテーマとしたショップ「ハイカーズ・デポ」を主宰。ライト、シンプル、ナチュラルをコンセプトに世界中からギア、乾燥食材などを厳選し、紹介している。環境や健康に配慮したウルトラライトハイキングに関わる海外、国内の情報に精通し、2011年には著書『ウルトラライトハイキング』(山と渓谷社)を発表。自由で新しい発想にもとづく山の楽しみ方を提案しつづけている。
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